雨の日の放課後
『堂路さん。俺まで巻き込まないで下さいよー』
そんなメッセージが朝倉くんから届いた放課後。
連日バイトだったので本日は休みである。
放課後なのに何の予定もない。
それはそれで家でぐうたら出来るので有りである。久しぶりにゲームでもしようかな。
『良いじゃん。一緒にウノでもしようぜ』
適当な文章を送るとすぐに返信がくる。
『2人でウノとか寂し過ぎでしょwww』
朝倉くんは『笑』ではなく『www』と草を3つ生やすタイプの人間なのだな……。
そんなどうでも良い事を考えながら昇降口で立ち止まり鞄の中から折りたたみ傘――。
「――がない!?」
俺は鞄の中を確認しながら手探りに探すが、やはり見つからない。
なぜだ!? どうして!? 俺はいつも折りたたみ傘を鞄に入れているはず――。
ふと、昨日の雫との会話がフラッシュバックする。
『この折りたたみ傘小さいわー』
『なら、新しいのを買ったらいかがです? 良ければ明日買いに行きましょうか?』
『頼めるか?』
『承知致しました。古い傘は私が頂いてもよろしいですか? 私の折りたたみ傘は壊れてしまって』
『良いよ』
『ありがとうございます。では、明日は普通の傘を持っての登校でお願いします。明日は午前中は曇みたいですが、昼前辺りから降る予報なので』
『はいよー』
――完璧に俺のミスだな……。
あー……。どうしよう。別に何の予定もないから濡れて帰って良いけど、それはそれで憂鬱だな。
そんな事を考えながら空模様を伺うと「へん! 止ますかよ! 俺の無限太鼓を聞いて酔いしれな!」みたいな感じで雨が降り続いていた。
「――お困りの様ですね」
ふと聞こえてきたお嬢様ボイス。
隣を見ると勝ち誇った顔をしている瑠奈がいた。
「どうやら傘をお忘れの模様」
「そうなんだよ。ミスったわー」
「ふふ。では、私の傘に入れてあげます」
「――相合傘か……」
相合傘とか普通に恥ずかしいけど……。デメリットはそれだけだ。
メリットで言えば、濡れずに帰れるという点と、美少女と接近出来るという多大なるメリットがある。
それを考えると相合傘をした方が利口的行動といえるだろう。
「良いの?」
「勿論です」
瑠奈は嬉しそうに言いながら鞄の中を漁る。
「良かったですね。私がいて」
「そうだな」
「このままじゃ時人君ずぶ濡れで帰る所でしたね」
「風邪ひくな」
「もし風邪をひいたなら私が看病してあげます」
「そりゃどうも」
「逆に風邪をひいてもらって看病して惚れさすのもアリですね」
「なしだよ」
「私のお粥で時人君をメロメロに――」
「なげーよ!」
つい我慢出来なくなりツッコんでしまう。
「傘に入れてもらう立場で差し出がましいけどさ! どんだけ鞄の中漁ってるんだよ! その鞄4次元空間かよ!」
「いやー。あははー」
瑠奈は頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。
「もしかして」
俺の言葉に一昔前のぶりっ子よろしく、頭をコツンと叩いて舌を出す。
「時人君の察しの通りかと….てへっ」
スッゲームカつく……。
「なんだったんだよ! さっきのドヤ顔! 見せられ損だわ!」
「あ、あははー。こうなったら2人ずぶ濡れで帰ります?」
「嫌だわ! 風邪ひくわ!」
「ですから、風邪をひいたら私が――」
「お前もひく側だぞ?」
「――それでしたら濡れる意味はありませんね。仕方ありません。時人君。申し訳ありませんが鞄を預かっていただけませんか?」
「ん? あ、ああ……。なにすんだ?」
「見ていて下さい」
瑠奈が俺に鞄を渡してくるので受け取ると彼女は深呼吸をして目を見開いた。
「――は〜れ〜。はいや〜。は〜れ〜」
俺も彼女を見て目が見開いた。
謎のダンスを始めたからだ。
「なに……してんの?」
「晴れ乞いですけど」
さぞ当然な言い方をされて「そっか」と妙に納得してしまう。
「傘忘れたもんな」
「そうですよ。傘忘れたら普通晴れ乞いですよ」
「――いや、普通じゃねぇよ」
冷静になった。
「お前、完璧にキャラぶっ壊れてるじゃねえか」
「はい? 前の学校でも傘を忘れた生徒はやっていましたよ」
「まじで?」
「それに、この前この学校でもやっている方々をお見かけしましたが」
「これ、俺が異端児なの?」
――言われてみれば俺は何かと決めつける傾向にある。固定概念に縛られてはダメだ。柔軟な発想がなければこの世は生きられない。
認めようじゃないか、ここは俺が異端児だという事を。
「瑠奈……。俺もその世界に立たせてくれないか?」
「勿論です! ――手はこうして――」
「こう?」
「そうです!」
――数分後。
「あのさー」
「なんです?」
「これ意味ある?」
「効果が出るのは数時間から数日後ですね」
「意味ないじゃん!」
俺は踊りをやめて激しくツッコミを入れる。
「数時間から数日じゃ全く意味ないじゃんかよ! 今すぐ晴れて欲しいんだよ! 傘忘れたからさ!」
「あらあら。そうお怒りにならないで下さい」
「なるわ! ここを通った数人の生徒が俺達を異端の目で見てきて辛かったわ」
「モブキャラはそうやって人を嘲笑うしか出来ないから許してあげて下さい」
「口悪いの安定だな!」
俺の周りの女の子はどうしてこうも口が悪いのか……。
「――しかたありません。使いたくはありませんでしたが――」
瑠奈はポケットから2cmの程の大きさの笛のような物を取り出した。
「――なんだ? それ」
「カズーですけど」
「ああ。それな。うん。知らんわ」
「え? 知らないのですか?」
「知ってて当然の楽器? それ」
「音色を聞いたら分かると思われます」
そう言って瑠奈はカズーの音色を聞かせてくれた。
笛みたいだからピッ! ピッ! って音が鳴ると思ったら予想外にもブーッ! ブーッ! っという低音が流れた。
「ね?」
「うん。その『聞いた事あるでしょ?』みたいな感じやめて。全然知らんわ」
「嘘でしょ?」
「ホントだわ。逆にありがとう。新しい楽器を知る事が出来たわ。――で? 何でそれを吹いた?」
「まぁ待っていて下さい」
そう言った途端、どこからともなく瑠奈の前に現れたのは――完士だった。
「如何なさいましたか? 瑠奈お嬢様」
「お、おー」
流石は瑠奈の使いの者。目にも留まらぬ速さで主人の前に現れた。
あれって完士を呼び出す笛なのか……。
「完士くん。傘忘れちゃって……」
「え……」
完士が絶望の声を出してチラッと俺を見る。
「こ、ここに――」
完士は良薬でも飲んだかの様に苦い顔をしてどこからともなく折りたたみ傘を瑠奈に差し出す。
「ありがとう」
「ご、ご用件は以上でしょうか?」
「はい」
「ではお幸せに――」
完士は用件が終わると目の前から消えた――かのように速いスピードで昇降口を出て雨の中を切るように走って行った。
あの傘は完士の傘だったのだろう……。めちゃくちゃ苦い顔してたもんな……。
「仕事人だな……」
雨の中を走る完士に感服の言葉を放つ。
「――時人君。さ、傘が手に入りましたよ」
「完士の思いが詰まった傘……。ありがたく使わせてもらおう」




