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水族館デート(ニ)

「きれい……」


 うっとりとした声が瑠奈から漏れる。


「ほんとだな……」


 180度水槽で囲まれたトンネル水槽。


 瑠璃色の水の中を様々な魚達が気持ちよさそうに泳いでいる。

 ここを歩くだけで本当に海の中にいるかの様な気分を味わえる。


 あまりにも幻想的な光景の為、通路なのに立ち止まっている人が多数いた。それには俺達も含まれる。


「まるで海の中のお姫様になった気分です」

「お姫様?」


 俺の返しに「あ……」と手を口元に持っていき、苦笑いを浮かべる。


「お姫様は……少し発言が幼かったですね」

「いや、良いんじゃない? 瑠奈がお姫様なら俺は王子様?」

『――ぶっ!』


 左耳より、口から何かを吹き出した音が聞こえた。

 笑ったのはどっちだ? ああん?


「時人君が王子様……ですか……」

「あはは……。流石にキャラじゃないか……」

「いえ。十分王子様キャラですよ」

「そりゃどうも……」


 明らかなお世辞だと思うが、そうであってもちょっぴり嬉しかった。




「――あ、すみませーん」


 ふと声をかけられると大学生らしき男性がスマホを持ってこちらに寄ってくる。その傍らには彼女らしき女性がいた。


「写真撮ってもらっても良いですか?」


 渡しながら言ってくるので、それは最早、写真を撮ってくれ、と言っている様なものでは? 何て思うが、そんな事はわざわざ口にする訳もない。


「あ、良いですよー」


 快くスマホを受け取り、水槽をバックに2人は仲良さそうに腕を組む。


「いきますよー」


 一応合図を送りスマホのシャッターを押す。


「――オッケー! 抜群!」


 そう言って彼にスマホを渡す。


「ありがとうございます!」

「いえいえー」

「そっちも撮りましょうか?」

「――あ、僕らは……」


 付き合っている訳でも、愛し合っている訳でもなし。

 それに片思いしていてようやく水族館デートまで辿りついた! 何て裏設定もないという事で、写真は撮らなくて良いだろう。


 瑠奈だって、別に好きで俺の事を狙っている訳じゃないんだから写真なんかいらないだろう。

 そう思って彼女の方を見る。


「写真……か……」

「ん? 撮ってもらう?」


 彼女が小さく呟いたので俺が聞くと「あ、いえ」と首を横に振った。


「私達は遠慮させてもらいましょう」


 どうやら彼女も俺と同じ意見みたいだな。


 そういう事で気を使ってくれたお兄さんに少しだけ申し訳なさそうな顔を作っておく。


「ありがとうございます。お気持ちだけ頂戴しておきます」


 軽くだけ頭を下げるのも付け加える。


「そうですか。では、ありがとうございました」

「ありがとうございました」


 彼氏彼女が俺に軽くペコって礼を言うと「うっは! 抜群に良いな!」「すごーい。良く撮れてるねっ」なんて、イチャイチャしながらスマホを見て言ってくれていた。


 良かった。喜んでくれたみたいで。


 何て思うのと、あの2人が純粋なカップルっぽくて羨ましい気持ちが出てしまう。


「俺らも行こっか」

「はい。ここは素敵な場所ですが、他にもいっぱい素敵な場所がありますもんね」


 俺達は歩みを再開させた。


♦︎




 海中トンネルを抜けるとイルカ達が出迎えてくれる。


 階段状のベンチの向こう側には巨大なプールが有り、イルカ達が物凄い速さで泳いでは大ジャンプをしている。

 着水の勢いで前の方の席には水飛沫が飛んでいるが、それを浴びて嫌悪感を出すお客さんは1人もおらず、むしろ浴びて最高! みたいに楽しそうな表情をしていた。


「イルカショーか」

「まだ始まったばっかりですし、見ていきますか?」

「そうだな。楽しそうだし」


 前の方の席は既に埋まっていたので、少し離れた席に腰を下ろしてイルカショーを見ることにした。


「イルカショーって人気だよな」

「可愛いし、賢いし、見ていて癒されますもの」

「だなー。イルカに乗って世界中を旅したいなんて思った事もあったなぁ」


 ペンギンを見ていた時に引き続いて昔を思い出し呟くと隣で瑠奈が小さく笑う。


「思った事ない?」


 尋ねると笑いながら頷いてくる。


「ありますよ。世界中――とまでは考えていませんでしたが、どこか海外に行ってお洋服を買いに行ったりとか思っていましたね」

「服か……。瑠奈はお洒落だもんな。今日の服も似合ってるし」

「――あ、ありがとう……ございます」


 少し恥らないながらお礼を言われる。




『なるほど、本来なら出会って1発目当たり、キックオフの瞬間に持ってきそうなカードを前半30分位に持ってきましたか。この判断どう思いますか? 解説の雫さん』

『効果はあると思いますね。前回は初手から使っていましたから――。攻撃パターンを変える、というのは相手に絶大な効果があると思います。彼なりに成長していると言える攻撃でしたね』

『なるほど。現在平行線が続いている中、ここから展開が変わるかも――と言った所でしょうか?』

『それはどうでしょうか? 確かに効果はあると思われますが、クリティカルとまではいってないかと……。相手は成金お嬢様。見た目も極上となれば、そんな臭い台詞言われ慣れているはず。つまりは経験値が違います』

『なるほど……。ここで経験の差が埋まるかが勝利への鍵となると言う事ですか?』

『そういう事でしょう』




 サッカーの解説かよ……。なんて思いながら左耳から聞こえる実況と解説を流し聞きしていると『――それじゃあ……そこのカップルさん!』と声が聞こえてきた。

 それと同時にスタッフさんが俺達の席に現れて「お願いできますか?」と尋ねてくる。


「――ふぇ?」


 ボケーっと左耳から出る音声をベルトコンベアに乗せて右へ流すイメージをしながらイルカ達を見ていたのでなんのこっちゃか全然分からない。


「わ、私達が……その……お手伝いに選ばれたみたいです」


 なるほどイルカショーによくあるアレか。


「中々無い機会だからやるか?」

「は、はい……」


 男女2人で来ていたら誰だってカップルだと思うわな。

 それをわざわざ否定してイルカショーの段取りを崩すのも忍びないからそのままカップルって事で良いか。

 瑠奈も別に気にしてなさそう――なさそう? 少しだけ頬が赤い気がする。


 スタッフに誘導されて俺の前を行く瑠奈の歩き方が少しぎこちない気がした。




『もしかしたらカップルと勘違いされて恥ずかしがっているんじゃない? これは大きな一歩でしょ。もう次辺りで本性暴いても良さげじゃない?』

『いえ、むしろ逆かも』

『逆?』

『あえて純情ぶって時人様の気を引く作戦』

『あー……。時人くんって清純な子が好きそうだもんねー』

『そうそう。後は胸の大きい子とか』

『あは! 分かる! おっぱい星人っぽい!』




 ホントね。女の子って2人以上だと最強だよね。もう怖いもん。左耳から聞こえる音声がすんごい怖い。


 ――しかしだ。雫が言った通り演技の可能性もある。

 2人の予想通り、俺は完士に清純派とハッキリとシッポリとネットリと言った事がある。ちなみに完士はギャル派らしい。


 なので、これはフェイク。俺の気を惹こうって作戦かもしれない。


 しかし、瑠奈レベルまでなると、恥じらいの姿はめっちゃ可愛いな。例え演技だったとしても。


 そんな事を考えながらプールサイドに立つお姉さんの元へ辿り着くと彼女から俺達に旗が渡される。


『こちらの合図でこの旗を上げるとイーくんとルカちゃんがジャンプするので――』

「こうですか?」


 瑠奈が旗を上げてしまう。

 どうしてここで天然が炸裂してしまったのか――。


『あ! まだ――』


 お姉さんの静止は届かず、イーくんかルカちゃん、どちらか分からないが水中から天高くジャンプをしてくれた。

 特等席でそれを見せてくれた俺達はもれなく頭上から降り注ぐ雨の様な水飛沫をシャワーの様に浴びる事になったのは言うまでもない。

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