デートのお誘い(本番)
冷静に考えてみたら、異性をデートに誘うってめちゃくちゃ難易度高くないか?
いくら目的の為やバックに雫や紗雪がいるからって、いざ誘うってなると心臓バクバクなんだけど。
瑠奈の奴は俺を誘う時に何も思わなかったのか?
傍目にはナチュラルに買い物に誘ってきてたけど――。
やはり目的やバックに完士がいるから特に意識はしてなかったのかな?
そうなると状況は同じ。それでいて俺だけビビってるなんて男が廃るな。
男は度胸だ! 行くぜ!
4限が終わった昼休み。
ポケットには雫が手配してくれた有名水族館のチケットが入っていた。
俺はポケットに手を突っ込んで4限を過ごしていたので、恐らく緊張の手汗でチケットはしおれてしまっているだろう。
大丈夫だ。思い出せ雫を誘った時を。
ナチュラルにナチュラルに。
「瑠奈! 今度――」
パッと横を見る。
「――あり?」
隣の席に瑠奈の姿は無かった。
「どこ行った?」
意を決した時に限って何処かに消えられるのは非常に困る。
雫達が「はよ誘えよヘタレが」みたいな雰囲気で見てきたから、早く誘いたいのだけど――。
立ち上がり廊下に出てみる。
廊下を見渡しても瑠奈らしき人物は見当たらない。
もしたかしたらトイレ? なんて思い数分廊下で待ってみたけど帰ってくる気配はない。
「どこ行った?」
本当にタイミングの悪いお嬢様だ。
俺は中庭に足を運んだ。
♦︎
「――あり? いないか……」
中庭では瑠奈と弁当を食べた事もあり、彼女は気に入っていた様であったからいてるものだと、ほぼ確信に近い思いでやってきたのだが――。
「うっは。わっかんね……」
頭をかきながら瑠奈が行きそうな場所を思い浮かべる。
行きそうな場所ったってまだ転校してきて日も浅いから、そこまで選択肢は多くないだろう。
行きそうな場所……。瑠奈の反応から学食はないとして――。
もしかしたらジュースでも欲しかったりして?
俺は渡り廊下の自動販売機の所へ足を運んだ。
♦︎
「――いない……な……」
まだお昼ご飯中の時間なので、食後のジュースタイムでもなし、ベンチには誰もいなかった。
なので回れ右して次なる場所を求める。
「――きゃ!」
バフっと俺の胸元に誰かの顔がうずくまる。
そして地面に何かが落ちる音がした。
「おっと……ごめん」
「す、すみません」
どうやら女の子とぶつかったらしい。
女の子は俺から離れて1礼すると気まずかったのか、その場をダッシュで去る。
――が……。
ゴーン! と渡り廊下の柱に思いっきりぶつかった。
「お、おい! 大丈夫か?」
一瞬、意味不明な状況に笑いがこみ上げそうになったが、何とか耐えてぶつかった女の子のもとへ歩み寄る。
「――いつつ……」
女の子は額を抑えて痛がっていた。そりゃ痛いだろうよ。思いっきりぶつかったからな。
「大丈夫か?」
「は、はい……」
涙目で返事される。
「そりゃ涙も出るわな。ほら、これで涙拭いて」
俺はポケットからハンカチを取り出して女の子に渡す。
「あ、ありがとうございます……」
「いや、どういたしましてなんだけど……」
この子俺と目が合ってないな。どこ見てんだ? 明後日の方向見てるぞ。
「あ、あれ?」
ハンカチを渡して女の子が涙を拭くのかな? と思っていたら、彼女から疑問の念が飛び出る。
「眼鏡が……」
「眼鏡? あー……」
さっき何か落ちた音したな。
先程ぶつかった方を見てみると、確かにそこに眼鏡が落ちていた。
俺はそれを拾って彼女に渡す。
「――ほい」
「あ……。すみません。ありがとうございます」
眼鏡かけてからお礼を言って欲しいものだ。この子さっきぶつかった柱にお礼言っているぞ。ドMかて。
ま、どうでもいっか……。
「それじゃあな。気を付けなよ」
「――あ……」
そう言い残して堂路 時人はクールに去るぜ。
♦︎
おいおい。これなんてギャルゲーだよ。
学校中探してもエンカウントしないとか……。
普通のギャルゲーならセーブとロードを駆使してとっくに出会ってるってのに……。
本当にリアルってのはクソゲーだなバカやろー。
グラウンドから校舎内までぐるっと1周したが瑠奈の姿は見つからなかった。
お昼ご飯を食べてない俺はふらふらーっと中庭に戻ってきたのだが――。
それが正解だった。
なるほど、時間差イベントね。分かりますそういうの。
俺の目的の人物が中庭のベンチで少し雰囲気暗くして座っていた。その膝下にはお弁当が広げられている。
「――はぁ……」
「どうした? 溜息なんか吐いて」
「――え?」
ふと、いきなり俺が現れたものだから、瑠奈は目を丸くして目の前に立つ俺を見る。
「時人君」
「元気ないな。何かあった?」
そう言いながら隣に座ると瑠奈は視線を逸らして「いえ……」と覇気なく答える。
「今から飯か?」
「はい。少し遅くなりましたが……」
やはり元気なく答えてくる。
一体どうかしたのだろうか? 家の事か? もしかしたら親から「さっさと堂路家と婚約を結んで来い!」みたいなお叱りを受けたとか?
しかし、それなら逆に好都合。元気がないならデートに誘いやすい。
早速俺はポケットに手を突っ込んでチケットを取り出そうとしたら――。
――ぎゅるるるる!
俺の腹の虫が壮大なオーケストラの様に響き渡る。
もう! バカ! こんな時に鳴るなんて! カッコ付かない!
「時人君お昼食べてないんですか?」
「あははー。そうなんだよねー」
腹が鳴って、気恥ずかしさで頭をかいてしまう。
「もうお昼休み終わっちゃいますよ? 食べないんですか?」
「それを言うなら瑠奈だって今から飯って遅くない? どうかしたのか?」
「――私は……。その……」
随分と歯切りが悪い返事である。
「――あの……私、食欲無くて……。食べます?」
「ん? 良いの?」
正直、今から教室戻って弁当を食べるのは面倒なので、くれると言うならば欲しいところである。
「良いですよ。全部冷凍食品ですし……」
「――え?」
今……この弁当の事なんてった? 俺の聞き間違いか?
「どうかしました?」
可愛らしく首を傾げて、私何かおかしな事言いました? みたいな表情をしてくる。
「いやいや。別に何も」
俺は手をブンブン振って苦笑いを浮かべる。
確か、花嫁修行してて自分で作ってるって設定にしてなかった? してたよな? うん、してた。絶対。
それを「全部冷凍食品ですし」だと?
おっちょこちょいなんて甘い言葉じゃあすまないぜ、これはよ。
まさに、目の前にドブ川があると分かっているのに自ら飛び込む位に阿呆だぜ。
てか、この子ちょこちょこ自分の設定忘れるよね。
もしかして……アホ?
――いや、頭は良いはずだから天然か?
しかし、なんだ……。元気のない子に「あれ? 自分で作ってるんじゃないの?」何てオーバーキルな事は俺はやらない。
それが出来るのは俺のバックにいる性悪女2人だけだろう。
「それじゃあ――」
瑠奈は箸でアースフレンドのメニューにありそうなハンバーグを切って摘んだ。
そして、それを俺に向ける。
「あ〜ん」
「あ〜ん!?」
いきなりの出来事に俺は少しパニックになる。
「どうかしました? 食べないんですか?」
「いや……。流石にちょっと恥ずかしいかな……って……」
「恥ずかしい?」
そう自分で呟いた後、みるみる瑠奈の顔が瞬間沸騰される。
「――ご、ごめんなさい!」
俺に向けていた箸をそのまま自分の口に持っていきパクリと食べる。
どうやら、計算ではなく天然であ〜んをしていたらしい。
「い、今のは冗談というか……。ジョークというか……。ギャグというか……。あはは」
全て同じ意味だぞ。相当焦ってんな。
「中々に可愛い冗談だな」
完士の指示じゃなさそうだ。どうやら落ち込み過ぎて周りが見えてないらしい。
――よし、さっきはタイミングを逃したが今なんじゃないの?
「なぁ瑠奈? やっぱり元気ないよな? 大丈夫?」
「そ、そんな事ないですよ」
「無理に理由話さなくても良いからさ――」
俺はポケットからしおしおの水族館のチケットを取り出して瑠奈の前に差し出す。
「俺と水族館行かないか?」
「――水族館……ですか?」
いきなり出したのにも関わらず、瑠奈は差し出したチケットを受け取り俺を見る。
「元気ない瑠奈が心配だよ。だから気分転換に行こう」
「い、良いのですか?」
「元々瑠奈を誘う予定だったからな」
「――ありがとうございます……。行きたいです……」
よっしゃ! 誘う所はクリアした! 良かったぁ! マジで良かった。断られたらどうしようって思ったわ。
「それじゃあ、今度の日曜日に水族館前集合で」
「はい。ですが――」
おっと……。
「何で私に?」や「他の人を誘う予定は?」とか「どこでチケットを?」みたいに、これ以上深く掘り返されると困る。
俺はその流れを断ち切る為に立ち上がり、最後に背中で語る。
「これで、少しでも瑠奈が元気になってくれる事を願うよ」
今のはかなり決まったんじゃないのん? グフフ。最高にクールだぜぇ。




