第3回PPP秘密結社作戦会議
「第3回PPP秘密結社作戦会議!」
「いえーい!」
放課後の学校。
俺は雫と紗雪に呼び出されて、使われていない小教室へと連れ出された。
俺達の前に立つ雫は珍しくテンション高めで拍手しながら言い放ち、それに続いて俺の隣に座っている紗雪がそのテンションを軽々と超えて盛り上げる。
「色々言いたい事があるんだけど」
「そこ! 御曹司だからってでしゃばるな! です」
「そうだそうだー! 発言は挙手制だぞー!」
くっ……。女子が2人いるとすぐ結託しやがる。それに対して男子は俺だけ。傍目には両手に花状態だが、現実は反抗出来ない状態だ。
「はい。質問」
素直に挙手する。
「はい。時人様。どうぞ」
「こんな教室、どうやって確保したんだ?」
「ふっふっふっ。よくぞ聞いてくれました」
雫が含みのある笑みで紗雪を見る。
「聞くも涙。語るも涙の物語だったよね」
「辛く困難な道のりでした……」
「この教室を借りるのにそんなに……。何があったんだ? 2人共」
俺が尋ねると雫が答えてくれる。
「葛葉先生に『テスト勉強の復習するから空き教室貸して』とゴネました」
その台詞から数秒待っても何も発言してこないので俺は椅子から転げ落ちそうになる。
「――それだけかよ!」
「なにか?」
「いやいや、大層苦労しました、みたいなニュアンスだったから」
期待外れな声を上げると紗雪が苦しそうな顔をして胸を押さえる。
「大好きな愛ちゃん先生を騙したんだよ?」
「愛ちゃん先生? あー……葛葉先生の下の名前ね……」
「心が痛いよ」
何でそんなに儚い表情が出来るのか、俺には全く理解出来なかった。
「――ここの確保理由は分かったけどさ、これは居ていいのか?」
親指で儚い表情をしている奴をさして雫に問う。
「勿論です。事情を知っている数少ない仲間ですよ紗雪は」
雫の答えに紗雪は先程の儚い表情とはうって変わり、ひょうきんな表情を見せてくる。
「意見は多い方が良いでしょー? それも相手が女子なら女子の仲間がいて損はないよー。しかもスポーツ万能の美少女だし」
ピースサインをしながら言ってくる。
「自分で言うなっての……」
否定出来ない事を言われると返しに困る。
「もう良いですか? 時間押してるんで始めますよ?」
「へーへー」
「いえーい」
俺達の返事を聞いたところで雫が制服のポケットからリモコンを取り出しスイッチを押した。
押すと、窓の方には視聴覚室にあるような黒いカーテンが現れて光を遮断する。そして雫の立っている所の真上からスクリーンプロジェクターが降りてくる。
いつの間に教室を改造したんだ?
なんてツッコミも最早出ず、ぽけーっとそれを見届けていると、隣では初見の紗雪が「すっごーい」なんて少し興奮気味であった。
そしてスクリーンに『第3回PPP秘密結社作戦会議』と題名が記されている。
「――では、これより『第3回PPP秘密結社作戦会議』を開始します」
「うぇーい!」
紗雪がデジャブの様に盛り上げているので、俺も拍手くらいしておこうと適当に手を叩く。
「今回は新しく南方 紗雪さんが我が社に加わったので、敵の情報をおさらいしておこうと思います」
そう言った後、この前家でやった時と同じ画像が映し出される。
「一ノ瀬 瑠奈。大手外食企業『イチノセフードサービス』の社長、一ノ瀬 功成の1人娘。職業は社長令嬢ですね」
社長令嬢は職業ではないだろうに。
「こう、改めて聞くと本当にさっきまで一緒にいた人とは違う人物みたいに感じるね」
「まぁ確かに……」
「あ! でも、それ以上にお金持ちが時人くんか!」
ポンと手を叩いてこちらを見てくる。
「まぁ……一応?」
「にゃはは。時人くんにはそんなオーラないから実感ないやー」
「うん。分かってるけど、なんかムカつくな」
俺達の会話を置いて、雫がボタンを押すと同時に吹き出しに様々なコメントが書かれていた。
『見た目は美少女』
『長くきめ細やかでよくケアされた髪』
『愛らしい顔立ち』
『結構友好的』
『謙虚な姿勢』
『ファッションは高級ブランドを好む』
『身長156cm。体重47kg』
そこら辺の編集は面倒だったのか、以前と変わらなかったが、バストの所は流石に性格悪いと自覚したのか消したのだな。
「続いて――」
次に画面が切り替わり、今度は完士の姿が映し出された。
「室壁 完士。幼い頃より両親不在の為、一ノ瀬家で住み込みの執事として働いている方。主な仕事は一ノ瀬 瑠奈さんのお世話係」
「うーん……。まさか完士くんが執事だなんて。予想外だね」
「俺もちょっとショックだったな」
「あ、やっぱり? 仲良さそうだったもんね。漫画でいう仲間と思ってた奴が実はラスボスだったみたいな展開?」
紗雪に言われて俺は吹き出してしまう。
「それに近いな」
そんな会話を傍目に、完士にも吹き出しが表れる。
『見た目は爽やか系イケメン』
『フレンドリーで友達が多い』
『運動神経抜群』
『よく部活の助っ人に呼ばれる』
『成績優秀。成績は常に学年3位以内』
『でも、彼女いない』
『身長181cm。体重72kg』
「以上が彼等のプロフィールとなります」
流石にあの悪意のある完士のマラソン画像は見せないか。あれは放送禁止レベルだもんな。
「そして、現在の彼女の好感度ですが――」
次の画像はマトリクス図が映し出され、それぞれ――。
上には『好き』
下には『嫌い』
右には『イケる』
左には『無理や』
――となっており、小さな可愛い瑠奈、通称『チビルナ』が『好き』と『イケる』の右上の方にいた。
「――この様になっております。ここまでが前回までのおさらいです」
「なるほど、瑠奈ちゃん的には『惚れさせれるし、時人君ちょっと良いかも』みたいな感じなんだね」
「そう……。だから、好感度を保ちつつ諦めてもらうのが理想なんだよね」
「あー……堂路家の家訓とかいうやつだよね」
どうやら俺の知らぬ間に雫が紗雪に教えていたみたいだな。
「――だったらさ、架空の彼女を作って諦めてもらうってのは?」
紗雪の提案に雫は首を横に振る。
「それも少し考えたけど――根本的に誰が彼女役をやるかって所なんだよね」
「雫やれば良いじゃ――」
「嫌だよ! 絶対!」
食い気味で言われる。
「おーい。そんなに強く否定されると辛いぞー」
「そういう紗雪は出来るの?」
俺の言葉を無視して雫が紗雪に問うと、紗雪は悪戯っ子みたいな笑みで俺を見てくる。
「んー……。別に良いけど?」
「――え!?」
雫が鳩が豆鉄砲をくらった――なんて可愛いものじゃなく、鳩がバズーカでもくらったかの様な表情を見せる。
「時人くんなら全然良いけど?」
「え……? ――え!?」
雫は思春期男子が朝のヘアセットをしているかの如く髪の毛をいじりまくっている。
「だよな。別に本当の彼女じゃなし」
「そーそー。逆に噂が広まった方がもう私に寄ってくる人もいないだろうし」
「お前、それが本心か」
「にゃははー。バレましたかー」
そんな俺達の軽い会話が聞こえていないのか、雫は切羽詰まった様子で紗雪に問いかける。
「あ、あれだよ! 時人様に彼女がいるってなっても瑠奈さんならどんな手でも使ってくるよ!? 例えば権力を使って紗雪を学校に来させなくするとか!」
「え? それは嫌だな」
「――で、でしょ? だから、彼女役とかそういうのはやめた方が良いよ」
「そだねー」
紗雪の返事に雫は勝ち誇った様に頷いている。
「その方法は危険なんだよ。だから、もう相手から本性を表してもらうが今のところベストかな? って」
「あー『もうネタは上がってんでぃ! 白状しな!』作戦?」
「それそれ」
そんな作戦名なのか……。なんともださい作戦名だな。
「――っという訳で、今回のデートは絶対に負けられない戦いなのです!」
日の丸を背負って戦う日本代表みたいなコメントだな。
「今回は次のデートプランを用意しました」
雫の言葉の後に映し出されたのは有名なテーマパークの動画。最新アトラクションにモデルが楽しそうに乗っていたり、テーマパーク内をキャストやキャラクター達と共に和気あいあいと歩いて最後に『わお!』という声が聞こえてきた。
何とも楽しそうで足を運びたくなる動画である。
「『絶叫系でストレス発散! 本性も発散! 大作戦!』」
「うぇーい!」
「――続きまして」
次に映し出されたのは水中を様々な魚達が泳いでいる水族館の動画。気持ちよさそに泳いでいると思ったら、巨大なサメが出てきて、吹き出しで『おいでやー』とアフレコしていた。
「『まるでアトランティス! まじファンタスティック! ウチなる心はロマンティック! 大暴露作戦!』」
「ふゅー!」
「――そして」
次は峠を走るオープンカーの動画。有名俳優がドヤ顔でオープンカーを運転して『やっちゃえ』とか言ってる。
「『風を感じろ! テンション上げろ! 上がったまま本心爆発! 大作戦!』」
「やっふぅー!」
「――以上3つのプランがあります。如何致しますか?」
そう尋ねられて俺がまず最初に思ったもの。
「作戦名が全部ださい」
そう言うと雫がチラリと紗雪を見てしまう。
なるほど、コイツの命名か……。
「えー! どこが?」
納得いかない紗雪が俺に納得いく説明を求めてくる。
「なんか、中学生男子が考えたみたい」
「うわー。そう言われるのショックだなー」
全然ショックを感じていない様子で言い放つ。
「――今は作戦名はどうでも良いです。さ? どれで瑠奈さんの本性を表します?」
雫が紗雪にフォローをいれるかのように俺に問い話を戻す。
「どれって――これ、3択であって2択だよな?」
「なんで?」
俺の言葉を拾ったのは紗雪だった。
「車の免許なんかもってねーよ」
「御曹司に免許なんかいらないんでしょ?」
「己はどんな漫画を読んだんだ? 御曹司だから免許いらない道路交通法なんかないわ!」
「えー。そこら辺はお得意の権力でしょ? 警察官も顔パス的な?」
「あかんあかん! そんなん絶対あかん! 日本国民の今の法律は18歳から自動車免許取得可能なの! 例外はなし!」
「――なんだ……」
つまらなそうに唇を尖らせる紗雪。
どうやらコイツもぶっ飛んだ考えの様だな。
「――では、実質2択のうち、どちらを選びます?」
雫がもう1度テーマパークの動画と水族館の動画を流してくれる。
「――女子的にはさ……。2回目のデートでテーマパークや水族館って有りなの?」
そう聞くと2人がピクッと反応する。
そしてお互いが見合って苦笑いをする。
「わ、私はメイドのお仕事で忙しい日々ですから、あまりデートというの詳しくなく――」
その割にはデートの訓練させられたけど――ツッコむと怒られるからやめておこう。
「あ、逃げた……」
「まぁ確かに雫はメイドだから仕方ないよな」
俺は紗雪に視線を送る。
「――で? どうなん?」
「ええっと……」
「スポーツ万能の美少女の意見を教えてくれや」
「にゃほほ……」
珍しく困った様子を見せる紗雪。
いつもならフォローに入る雫も、今回は視線を外して知らんぷりしている。
「水族館かな?」
「本当に?」
「私はだよ? うーん。2回目も様子見というか、落ち着いた場所の方が良いかなー? って思う」
「なるほど……。まだお互いの事を知らないうちからテンションアゲアゲ系ではなく、落ち着いた雰囲気の水族館の方が良いと? つまりは水族館なら有りだという事だな?」
「有りだよ有り」
ブンブンと頷く紗雪。
「よし、じゃあ瑠奈を水族館に誘うわ」
そう言うと雫が頷いた。
「かしこまりました。では、手配しておきますので、時人様は瑠奈さんをデートに誘っておいて下さい」
「りょーかい」
「よーし、頑張ろうねー!」
こうして瑠奈を水族館デートに誘う事になった。




