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メイドとして

 結局その後、そのまま3人でファミレスで過ごしていたら良い時間になり、お開きとなった。

 その為、元々の予定であったパンケーキを食べるという目的は達成出来ずで帰ってきたのであった。


 家に帰ると「お先にどうぞ」と言われたので、先に風呂をもらう。

 いつもそう言われるが、雫が俺より先に風呂に入る所を見た事がない。そこら辺は主従関係を守っているのだろうか。


 風呂から上がり、コップ1杯の水をいれていつもの席に座る。

 雫がいつもの席に座りテレビを見ていたので、俺も何となくそれを眺める。

 この番組はクイズ番組らしいがお笑い芸人が多く出演していて、真剣にクイズに答えると言うよりは大喜利みたいな感じになっており、くだらない解答を出してスタジオを爆笑に包んでいた。それを見て俺も笑ってしまう。


「今日はかなり予定が狂ってしまいましたね」


 すっかりいつものメイドモードになった雫が俺とは正反対で、笑いもせずに愚痴る様に漏らす。


「そうだな。まさか紗雪にバレるとは……」


 テレビを見て笑っていたのもあり、口角が上がって苦笑いみたいな感じで返答してしまう。


「不覚です……。気を抜いてしまっていました……」


 雫は大事な場面で自分のミスで負けてしまった選手の様な表情をしていた。


 確かに。いつもの雫なら謎のセンサーが反応していた事だろう。

 

「バレたのが紗雪で良かったんじゃない?」


 フォローを入れるつもりではなく、心底そう思ったので、そう言いながらコップの水を飲むと雫は「まぁ……」と歯切り悪く返事をする。


「不幸中の幸いと言いますか……。あの子なら別に言いふらす様なタイプじゃありませんし」

「てか、そもそもこの年になって『あいつん家おっかねもーち』とか言わんだろう」


 俺としても雫と同じ気持ちなので、テレビを見て笑いながら言うと「そうですね」と素っ気なく返ってくる。

 先程信用していると言ったのにも関わらず、初めて自分の子供におつかいに行かせてその背中を見守る母親の様に心配そうな顔であった。


「信用してるんだろ?」

「勿論です。紗雪はそんな人間ではありません」

「なら大丈夫だろ」

「ですが、紗雪はバスケ部の人達と来たと言っていました。よくよく考えたらその人達に見られた可能性も捨てきれません」

「本当に嫌なんだな……。俺と付き合ってると思われるのが……」

「はい」


 普通に肯定してきて悲しくなる。


「ですが、それだけじゃなく。それをきっかけに時人様が身バレしてしまうかもしれません」

「身バレって……言い方。てか、どんなきっかけでそこまでたどり着くんだよ」

「何があるか分かりません。中学の時だってそうだったじゃないですか」


 過去の事を言われ、雫は俺の事を本気で心配してくれていると感じた。


「なになに? 心配してくれてんの?」


 しかし、あまり心配をかけたくないので、自分は大丈夫って意味を込めて出来る限り能天気な声を出して聞いてみると、キッと睨んでくる。


「誰の心配をしてると思っているんですか?」

「なははー。心配ご無用。もし、次、中学の時と同じ様な事になれば、今度こそ権力を振りかざしてやるぜー」

「――はぁ」


 雫は何も返さずに溜息だけを吐いた。


「――ところで……予定通りにはいかなかったけど、俺とのデートはどうだった?」


 いつまでも続ける話題じゃないので、話を変えると雫は鼻で笑ってきた。


「そうですね……」

「今、鼻で笑って馬鹿にしたな」

「別に……」

「別にって事ぁないだろ。そんなにつまらなかったか?」

「いやー……。正直に言いますよ?」

「言ってくれ」


 そう言うと「僭越ながら」と咳払いをして評価してくる。


「ナンパを助けてくれた事や、オシャレなお店に連れて行ってくれた事はポイント高いんですけど、ゲームセンターで意地張ってまでぬいぐるみ取ったり、付き合ってもないのにメダル落とししたりするのは……ちょっと……」

「雫だってゲーセン楽しんでたろうが」

「別にゲームセンターが悪いんじゃありませんよ。ただ、想像して下さい。私じゃない誰か。例えば初対面の人とかで」

「初対面の人――」


 そう言われてパッと出ないが、適当な女性芸能人を思い浮かべて雫と置き換える。


 意地になり50回クレーン動かし続ける。そこに会話は生まれないだろう。

 そして付き合ってもないのにメダル落としに夢中になる。

 確かにそれってどうなんだ――。


「――いや、てか、そもそも雫が『幼馴染雫』だからって言うから、それに合わせただけじゃないか。俺は立場に応じて計画をしただけだぜ」


 見苦しい言い訳をすると目を伏せて「そうですね」と、かなり珍しく受け入れてくれる。


「幼馴染って設定だったからいけなかったんですね。すみません」

「え? あ、うん? うん……」


 天変地異でも起きるんじゃないかって位にしおらしい発言。いつもならこんな時毒を吐いてくるのに。


「――だから、もう……。幼馴染とか何とか……って言うのは今後一切言いません」

「えっと……そこまで? 別にそこまでは言ってないよ?」


 そう言っても雫は首を横に振る。


「いえ……。これは気持ちの――私の気持ちの問題です」


 いつになく真剣な声を出してくる。


「幼馴染だと思い出すから――」


 そして悲しい声を出す。


「出来れば私だってメイドって立場より幼馴染っていう関係が良いんですよ? だけど――」

「雫……」


 ゲーセンでもそうだったが……もしかしたら彼女は過去の事を思い出しているのだろうか。辛い過去の事を――。


「主従関係も悪くないって思えているんです。その方が嫌な事も思い出さないですし。だから――」


 雫は悲しい瞳で俺を見てくる。


「幼馴染とは設定であろうと2度と言いません」


 そして無理に微笑んでくる。


「それに幼馴染って設定だと気が緩んでしまいますので」


 その言葉に俺は深く頷いた。


「それで良いよ。雫が辛い思いなんてする必要はもうないんだから」


 出来るだけ優しく言ってやると雫はそのまま立ち上がる。


「すみません。今日はちょっと疲れましたので、お風呂貰って休ませていただきます」

「ゆっくり休みな」


 そう言って雫はリビングを出て行った。


 やっぱり辛い過去というのはふとした瞬間に思い出してしまうものだな。

 それはショックが強ければ強いほど鮮明に――。


 彼女がメイドが良いと言うのであれば俺はそれを受け入れてあげるだけだ。

 メイドになる事で多少なりとも彼女の過去の記憶が薄くなっていく事を願うばかりである。

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