バレちゃった
どうやら紗雪はバスケ部の人達と上の階でボーリングに来ていたみたいだな。
それでボーリングを終えて下の階にあるゲームセンターに来たって流れらしい。
これ以上学校の人達に見られたくないのと、何かと言い訳をしたい事もあり場所を移させてもらう。
こちらからの場所移動の頼みに「こっちのがおもしろそうだから良いよ」と、バスケ部の人達に急用が出来た事にしてくれた。
そして、今、商店街にある一ノ瀬 瑠奈の父親が経営するファミレスに入ったのだが――。
「――それでぇ? いつから付き合ってるの?」
先程からニヤニヤを抑えられなくて、ようやく席に着いたと同時に紗雪が予想通りの質問をしてくる。
席も紗雪が無駄な気を使ってきやがって俺達を隣同士に座らせる。
「いやいや、付き合ってないっての」
俺の否定に紗雪は「いやいやいやいや!」と、手をブンブンと振って行ってくる。
「無理無理。あーんなにラブラブな所見て付き合ってないとかあり得ないよ」
「ラブラブ?」
「そりゃもう! 見ててこっちが恥ずかしくなる位に」
そう言われて雫は顔を手で覆う。
そんな事言われたら、流石の雫も恥ずかしいのだろうか。
「『しずくぅ。俺達の愛のコインでいっぱい稼ごうな』みたいな感じたったもん」
そう言われて雫は机に伏せて「これと勘違いされるとか……まじ無理……」と声を漏らした。
おいおい。雫……。そんなに嫌かよ……
「またまたぁ。雫そんな事言って。時人くんと隣の席でイキイキしてたよ」
トドメの言葉を発して、雫がビクンとなる。
こいつらはオーバーキルが好きなのだろうか。やめてあげて欲しいものだ。
「――いやー……そうかそうか。まさか雫と時人くんがねぇ。知らなかったなぁ」
嬉しそうにアホ毛をビンビンと跳ねさせている――様な気がした。
「で? いつから付き合ってるの? ね? いつから?」
「だから……。はぁ……」
どう言えば良いのやら……。
頭を掻いてどう上手く言えば伝わるか悩んでいると、机に伏せったままの雫が顔だけこちらに向けて言ってくる。
「時人様。如何致しますか?」
「雫はどう思う?」
「私なら背に腹は変えられないと思い事情を言います」
「俺と付き合ってると思われるのがそんなに嫌か?」
「嫌です。無理です。気持ち悪いです」
「残酷な3コンボどうも」
そんな俺達とのやり取りを見て「――様?」と紗雪が首を傾げる。
「時人くんそういうプレイしてるの?」
軽蔑の目で俺を見てくる紗雪。
「待て待て。そんなプレイってなんだ?」
「付き合ってるのに様付けで呼ばせるとか……。雫。恋は盲目って言うけど……。本当に時人くんはやめた方が良いよ」
「ホントに待って。そういうプレイじゃない――」
「えー。じゃ何で付き合ってるのに様付けなの?」
「――あー雫。もう言って良いのか?」
雫に問うと、伏せた顔を上げて俺を真剣な目で見てくる。
「時人様がよろしければ」
「そうだな……。そもそもは俺のわがままだもんな……」
手を組んで顔を伏せる。
脳内に嫌な思い出がフラッシュバックしてしまい、紗雪に言うのを躊躇ってしまう。
「――えっと……時人くん大丈夫? ごめん。ちょっと悪ふざけが過ぎたかな?」
紗雪が申し訳なさそうに謝ってくる。
「あー……いや……」
「時人様。紗雪なら大丈夫だと思われます。前の様な事にはならない事を保証します」
「そ、そうか?」
「はい。紗雪は私の友人ですので信用に値します。それに、そもそも状況も立場も性別さえも違います。大丈夫ですよ」
「――だな……」
深く考え過ぎて頭がこんがらがいそうになったが、雫の言葉で少し救われる。
まぁあいつはただ単に俺と付き合ってるって思われるのが嫌なだけなんだろうが――。
「紗雪。俺達――俺はさ……」
「俺は?」
「いや、俺と言うか……。別に俺が凄い訳じゃないんだけど……。俺は大企業グループの御曹司なんだよ」
「――へ?」
あっけらかんな声が聞こえてきた。
そりゃそうだ。いきなりクラスメイトが「俺金持ちー!」とかイキッてきたらそんな反応にもなる。
「御曹司って……。あの? 髪の毛テンパツーブロックで、4人組で、最初ヒロインをいじめてた?」
「そりゃ有名な漫画の御曹司だけど……。まぁそんなイメージ」
「じゃあ雫はそのヒロイン位置?」
「雫は俺の専属メイド」
「専属……メイド……?」
ポカーンと少し間が空いてしまった後、紗雪が聞いてくる。
「――っていう設定?」
「じゃなく。マジメイド」
「マジメイド? 雫ってマジメイド?」
紗雪の言葉に雫が便乗して答える。
「マジメイド。こいつマジ御曹司。私、このトチ狂ってる奴のメイド。だから別にこれの隣に座ってイキイキしてない。いやいや座ってた」
ここぞとばかりに悪口言ってきやがる。
「え? じゃあ2人はご主人様とメイドの禁断の恋ってやつ?」
「別に主従関係での恋愛は禁止されてないけど――ってか、お前は俺達をくっつけたがるな。別に付き合ってないって。それより御曹司の方は疑わないのか?」
「だって本当なんでしょ?」
「――まぁ……」
「だったら信じるよ。雫も言ってたけど、私だって雫の事信用してるし」
「そうかい」
美しいね。女の友情ってのは。
「てか、そんな嘘わざわざつかないでしょ。それが本当でも嘘でも私にはどっちに転んでも何の被害もないし」
「そりゃ、まぁ……そうか」
そういう性格だからモテるんだな。紗雪は。
「でも、禁断の恋かー。漫画じゃなくて現実でそんな事あるなんてねー。うぇーい」
紗雪のアホ毛がピクピクとひくついて、まるで犬の尻尾みたいになっている――気がした。
「話聞いてた? 別に付き合っちゃないっての」
「いや、なんだかんだと2人の関係性は分かったけどさ。結局はデートしてるじゃん」
「――ぐはっ!」
図星を突かれて雫にダメージが当たる。
「紗雪。これには深ーい訳が――」
「もう認めなよー。そっちの方が楽になるよー? えー? もう楽になりなー」
「――うう……。時人様ぁ……。言って良いですよね? 私、このままあなた様と恋人関係って思われるの本当に嫌なんです。まだミジンコマニアとか言われた方がマシです」
「いや、珍しく弱々しい声を出したと思えば強烈な言葉で人の事えぐってくるねキミ……。ま、事情を説明しなさい」
「分かりました」
こうして雫の口から紗雪へデートをした発端を説明したのであった。
♦︎
「――へぇ。瑠奈ちゃんがねぇ……」
長い説明を終えた所で、紗雪が先程いれてきたドリンクバーのジュースを飲みながら頷く。
「お金持ちも大変なんだね」
「まぁ今回のケース、俺は初めてだけどな」
「政略結婚……。だから瑠奈ちゃんは初日辺りから時人くんにねー」
「政略結婚目的じゃなかったらこれに一目惚れとかないでしょ」
親指でさしてきて主人をこれ扱いしてくるメイド。
「まぁ……あはは……」
愛想笑いでかわされる。ちょっと辛い。
「そういや紗雪の兄ちゃんの恋人? 婚約者? がお嬢様だっけ?」
「あ、うん。そだよー」
「政略結婚みたいな話は無かったのか?」
「あー……。そんな話は聞いた事ないけど、多分……いや、絶対ないかな」
「そうか……。もしあったら参考にしたかったんだけど……」
やっぱり今時、そういう話は無いよな。
「まぁ事情は分かったよ。瑠奈ちゃんから本心を聞きたくて、女性経験が乏しい時人くんを鍛えてたって事は」
「紗雪。分かってくれて嬉しいよ」
心底雫が嬉しそうな声を出す。
「うん。そのデートで2人の距離が縮まったって事がね」
コケそうになった。
「紗雪ー! だから――」
「ホントすぐにくっつけたがるな!」
「あははー!」
紗雪の嬉しそうな笑いの後にスマホが鳴り響く音がした。
俺では無い。反応から紗雪でもない。どうやら雫みたいだ。
雫はスマホを見て「――時正様?」と呟いて「すみません。ちょっと」と席を外した。
「時正様って?」
「俺の親父」
「あー。なるほど。ご主人様のお父さんだから、出ない訳にはいかないね」
そう軽く言う紗雪に対して俺は疑問に思っている事を聞いた。
「紗雪。今日いきなりな事ばっかり言ったけどさ……。聞かないのか?」
「ん? 何を?」
「例えば……。何で雫は同級生なのにメイドやってる、とか。何で俺が御曹司って事黙ってた、とか」
そう言うと紗雪は悟った様な声で言ってくる。
「誰だって秘密にしてる事あるよ。どれだけ親しくても、家族にだって――それをわざわざ私から聞くのって失礼でしょ? だから、本人が言いたくなったら聞く様にする。聞く時は親身になってね。だから、雫が私にメイドさんになった生い立ちを話してくれるなら、私は聞くし、時人くんが何で自分の事黙ってたのか言いたくなったら聞いてあげるよ」
「紗雪……」
「だから時人くん達が自分達の話題を言わない限り、私からは聞かないから安心して」
「ありがとう……」
そう言った後、先程の声とはうって変わり、無邪気な声で言ってくる。
「でも瑠奈ちゃんとの件は別だよ」
「へ?」
「こーんなに面白そうな事が起こってたのに蚊帳の外だったとか残念だったよ。だから全力で応援するよ!」
「応援って?」
「瑠奈ちゃんの事好きなんでしょ?」
「ちっがーう!」
どう転んでも紗雪は恋バナが好きな、ただの恋に恋する少女らしい。




