テストデート(ニ)
「めちゃくちゃ美味しかったな」
ジュン兄さんの店を後にして商店街へと戻ってきた俺達は、先程食べたたこ焼きの感想を言い合っていた。
「外カリ、中ふわで……。今まで食べたたこ焼きの中でも群を抜いて美味しかったー」
幸せそうに思い出しながら言う雫。その顔は年相応の女子高生の表情である。
「帆立の風味があったよな」
「分かります! 恐らく帆立の出汁を使用しているのでしょう! あー……美味しかったなぁ」
「また顔出しに行こうぜ」
「はい! 是非」
愛らしい笑顔を見せてくれる。
「でもイタリアの国旗は――あ……」
ふと商店街の出口付近で立ち止まる雫。
その視線の先にはUFOキャッチャーがあった。
ここは有名なアミューズメントパークだ。
屋上と上の方の階では様々なスポーツが出来るスポーツアトラクションが設置されており、真ん中の階はボーリングレーンが設置され、下の階はUFOキャッチャーやメダルゲームを始めとした様々なゲームが楽しめる階となっている。
「――ん? 何か欲しい物でもあった?」
そう尋ねると首を横に振る。
「ううん……。何も……」
そうは言うものの、ジーっと何かを見つめている。
「入る?」
入り口を指差して聞いてみる。
正直行く所なんて何も考えていなかったし、元々パンケーキ食いに来たのに、たこ焼き食べたから腹いっぱいだしで、逆に雫が何かを欲しそうな目で見てくれているのはありがたかった。
「どうせこの後何も考えてないんでしょ?」
どうしてコイツは俺の心が分かるんだろうか……。
「そんな事はないっての。ゲーセン行こうと思ってたから」
「ホントかなー?」
「ホント、ホント。ほらほら行くぞー」
これ以上詮索されたくないのでイソイソと店へと入っていき、それに雫も続く。
「――うわっ! 懐かしっ!」
店の中に入り、雫がジーっと見ていたUFOキャッチャーの中身を見て俺はつい声が出てしまう。
中に入っているのはタレ目が可愛いパンダがグデーっとしているぬいぐるみであった。
「覚えてる?」
雫がそう尋ねてくるので俺は笑いながら答える。
「そりゃな。小学生の頃、小遣い使い果たしても取れなかったからな」
そう言うと雫は嬉しそうに笑った。
「その後ハルくんが泣いてあやすの大変だったな」
「はぁ!? いやいやいや! 泣いたのは雫だろ?」
「違うよ! ハルくんだよ」
「いやいやいや」
「いやいやいや」
記憶の相違が生まれ、お互いに譲らない。
「――ぷっ」
俺が吹き出すと雫もつられて吹き出した。
「あっはっは! まぁどっちでもいっか」
「そうだね。子供の頃の話だし」
「そーそー。でも――」
俺は財布から100円を取り出してUFOキャッチャーに入れる。
「――リベンジマッチだ」
「取るの?」
「雫が欲しそうにしてたから」
「別に……。してないよ……」
そんな事を言いながらぬいぐるみを見る雫。
分かりやすい奴。
ボタンを操作してクレーンがぬいぐるみをキャッチする。
そしてそのまま持ち上げる。
「え? うそ!?」
雫のテンションがふわっと上がった。
「いけいけいけ!」
俺のテンションもふわっと上がっていた。
しかし、クレーンが持ち上げのリミットまで来ると、その衝撃でぬいぐるみを落としてしまう。
「ああ……」
「まぁそう簡単じゃないわな……」
――数10分後。一体何回目のチャレンジだろうか。最早数えるのもやめていた。
「ねぇ? もうやめない?」
「雫。諦めたらそこで試合終了たぞ?」
「使い所間違ってる気がするけど……」
呆れた声が聞こえる中、クレーンも良い加減動くのが疲れたのか、ぬいぐるみをガッチリキャッチして落口に運んでくれる。
「あ……」
「やっとか……」
そこに感動もドラマも無かった。
俺は味の無くなったガムを噛み続けているみたいな感情でぬいぐるみを取り出して雫に渡す。
「何か感動とかないね」
「そりゃ5000円以上注ぎ込んだんだからな」
「それだけ注ぎ込んだら流石に取れるよ……」
「まぁ値段じゃねぇよ」
「負け惜しみ」
雫がぬいぐるみの手を動かして言ってくる。まるでそいつに言われている気がして腹が立つ。
「うるせ! ちょっとテンション下がってるっての」
「あはは……。そりゃそうだよね……。ま、取れないよりは良いじゃん」
「ポジティブ思考だねぇ」
そんな事を言いながら、つい、他の商品見たさでグルグルと店内を回る。
しかし、まぁ可愛いぬいぐるみやら、市販じゃ見ない巨大なお菓子やらがあるだけで、他に目ぼしい商品は無かった。
そんな中――。
「――あ、雫。あれやらない?」
UFOキャッチャーゾーンの奥の方にはメダルゲームゾーンとなっており、そのゾーンの中央には巨大なメダル落としのゲームが聳え立っていた。
「別に良いよ」
「よっしゃ。ほんじゃメダル買ってくるわ。雫は席取っといて」
「はーい」
雫に席を任せて俺はメダル変換機にて、お金をメダルに変える。
子供の頃に夢見たカップ一杯のメダルを持って雫が取ってくれた席を探す。
見つけた雫の隣にはぬいぐるみが置いてあり、俺はぬいぐるみを挟んで座る。
「残り1席だったよ」
「そりゃラッキーだな。ほんじゃこの台当たるんじゃない?」
そう言いながらコインの落口にカップ一杯のメダルをいれる。
それを見て雫が目を見開いて驚いていた。
「また……大量に持ってきたね」
「子供の頃、憧れたろ?」
「――ぷっ……」
俺の問いに何故か吹き出した。
「何?」
聞くと雫は懐かしむ様な笑顔で言ってくる。
「昔もやったよね。このメダル落とし。お父さんと3人で」
「あ、ああ……。親父とな。行ったねー」
「それでお父さん、余りにもメダルが落ちて来ないからブチ切れて『これが社長の力じゃ』とか何とか言って溢れる位に持ってきたよね」
「あー。あはは! そんな事あったな。大人気ないってかなんというか」
「ホント……。お父さんは社長で仕事が忙しいはずなのにちゃんと自分で子供に向き合ってくれてたよね。――それなのに……私の――」
「雫……」
雫の横顔がかなり寂しそうであった。
もしかしたら過去の事を思い出してしまっているのかもしれないな……。
「――おりゃー!」
俺は大量のメダルを投入口に連射する。
「あ! ハルくん。そんな無計画に入れたらダメだよ」
「こんだけメダルあるんだから数撃ちゃ当たる理論だろ」
「ダメダメ! こういうゲームこそ計画を練って1枚1枚丁寧にいかないと!」
「イケるイケる!」
俺は雫の言葉を無視してメダルを入れまくる。
「ダメって言ってるのに!」
「にゃはは! たのしー!」
「もー……」
「雫もやってみ? スカッとすんぞ」
「私はいいよ。丁寧にしたいし」
「そんな事言わずに。ほらほら」
「えー……。それじゃあ1回だけ」
雫はしぶしぶと連射してみる。すると彼女の顔付きが変わった。
再度コインを数枚取り連射する。
次はコインを鷲掴みして連射する。
「なにこれ! 超たのしー」
「ハマてもうてるやん」
「あははー! イケイケー!」
「ぬ! 俺も負けるか! うおおおお!」
ゲームの趣旨とは違うが、連射する楽しみを雫が分かりお互い連射に夢中になる。
『みーたーわー』
ふと、うらめしそうな声が後ろから聞こえてきて、俺は、いや、俺達はビクッと肩を震わした。
まだ夏じゃないのに? てかここゲーセンなのに? 出るの? ゲーセンにも出るの?
そう思いながら恐る恐る振り返る。
『ばぁ』
「ぎゃああああああ!」
そこにはお化けの方がまだマシだと思える人物が立っていた。
それはビジュアル的なものではない。ビジュアルで言えば出会って良かったと思える程に整っている。ていうか、出会いたい顔である。
問題はシュチュエーションといえよう。今の状況で絶対に出会ってはいけない人物である。
「失礼だよ。化物見たみたいに驚いて」
俺達の後ろに立っていたのはクラスメイトの南方 紗雪であった。




