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テストデート(一)

「ハルくん。今からどうするの?」


 早速『幼馴染』モードと化した雫。

 雫からはそう呼ばれるのが慣れているので違和感はない。

 逆に様付けで呼ばれたり、苗字で呼ばれる方が違和感なので俺としたらこっちの方が落ち着く。


「そうだな……」


 商店街を歩きながら考える。

 時間はお昼前だ。正直腹が減った。


「パンケーキ食べに行くか?」


 早速今日のメインを言うと雫がピタリと止まった。


「お昼ご飯にパンケーキ?」

「――っていうのは冗談でー」


 明らかに顔に、不正解、と書かれていたので茶を濁して再度考え直す。

 しかし、女子とご飯なんて、この前瑠奈と食べたのが初めてだし――。

 パスタとパンケーキ食わしときゃ何とかなるって発言している人物にパスタって提案したら何を言われるか分からないな。


 考えていると、ふと、良い店が思い浮かんだ。


 あそこなら――。


「雫。昼は特に食べたい物ない?」

「何でも。ハルくんに任せる」

「分かった。じゃあこっちだな」


 お任せという事で、なら俺の思い浮かんだ店に行こうと決定し、商店街を外れる。


 商店街を外れ、裏道を歩く。この裏道は飲み屋ストリートなので、まだ昼間の為、半分以上の店は開いていないが、開いている店には飲兵衛のおっちゃん達が昼間から楽しそうに酒を交わしていた。


「――ここだわ」

「ここ?」


 俺が立ち止まった場所で雫は首を捻る。

 そりゃ捻りたくもなる。

 目の前には地下へと続く階段。その前に置かれた看板には『close』の文字が書かれていた。


「お店閉まってるんじゃない?」

「そうだな。ここの営業は夜からだし」

「ダメじゃん」

「ま、いいから」


 そう言いながら俺は階段を降りていく。それに雫も続く。

 階段の先のドアを開くと、カランカランと鈴の音が鳴り響いた。


 ドアの先に広がるのは、カウンター席が10席とテーブル席が2つといった小さな内装の店。


「まだやってないよー」


 店のカウンターの奥で仕込みをしている人物がこっちを振り向かず、面倒臭そうに言ってのける。

 そりゃ看板に閉まってるって書いてあるのに来られたら面倒だわな。

 そんな事を思いながら、店の人真前のカウンター席に座る。


「ジュン兄さん。久しぶり」


 お兄さんと言うには少し高い年齢だが、そう言うとピクッと反応してこちらを見てくる。


「――ぼっちゃん……?」


 そう言われて軽く笑って手を振る。


「え!? ぼっちゃん!」

「あ……台田さん」


 漏れる様に言ってのける雫に反応してジュン兄さんは彼女を見て驚く。


「あれ!? 雫ちゃんかい?」

「はい。雫です」

「ありゃま! こりゃまたべっぴんさんに育って」

「ありがとうございます」


 雫は嬉しそうに言いながら俺の隣に腰を下ろした。


「しかし、どうしたんですか? こんな所に2人で」

「いやー……。本当は成人した時に来たかったんだけどね。ほら、ここってバーでしょ?」

「そうですね。昔にそう約束してくれてましたね」

「そう。だから大人になったらって思ってたんだけど……。ちょっと色々と……」


 女の子とご飯って何処行ったら分からずだったけど、ここってオープン前に親父と一緒に見に来て、確かお洒落な感じだからとりあえず来た。


 ――って言ったら雫に怒られそうだから黙っておこう。


「台田さんが脱サラしてお店出すとは聞いてましたけど、バーを出していたんですね」


 雫がジュン兄さんに言うと笑顔で答えてくれる。


「そうそう。長年の夢か叶ったのも社長のおかげだよ。本当社長には感謝しかないよ」


 しみじみと頷いた後に、今度はジュン兄さんから雫に質問が返ってくる。


「雫ちゃんはぼっちゃんの付人続けてるんだな」

「はい。まぁ不本意ですがやるしかないので」


 そう言うとジュン兄さんが大きく笑った。


「またまたぁ。天職って言ってたのに」

「天職?」


 俺が問いかけながら雫を見ると「わー! わー!」と大きな声でかき消しにきた。


「『ハルくんがいなかったら――』とか、なんとか――」


 ニヤつきながら言うと「わー! わー!」と腹の底から大きな声を出す。

 それを見てジュン兄さんが「若いねぇ」と嬉しそうに呟いた。


「それより! ここってバーでしょ? 私達が入っても良いの!?」


 話を切り替えてくる。


「こういう雰囲気のお店が女の子って好きなんじゃないの? お洒落で落ち着いた感じの」

「そうですけど……。私達未成年だし、お酒は飲めませんよ」

「あはは。何も酒飲みに来た訳じゃないよ」


 笑いながら言ってジュン兄さんを見る。


「ジュン兄さんごめん。ランチとかないと思うけど、頼めない?」

「ぼっちゃんの頼みなら何でも聞きますよ。それにランチ位パッと出しますよ」

「ありがとう」


 お礼を言うとジュン兄さんは笑いながら、カウンターの奥にある棚の瓶から2つを取り出し、カクテルシェイカーにいれてシェイクする。

 その姿はテレビとかで見た事ある、バーテンダーがやる姿と同じだ。


 シェイクが終わると、カクテルグラスに出来た青色の飲み物をいれて、俺達に提供する。


「どうぞ、出来上がるまでこちらをお楽しみください」

「これってカクテル?」


 俺が聞くと「まさか」と笑って答えてくれる。


「ジュースですよ。この前下戸のお客さんが来てね、ジュースくれってんで、作ってみたら好評でしてね。メニューにはないんですけど」

「へぇ」

「綺麗……」


 雫はグラスに入った液体を見てうっとりとしていた。

 確かに、こんな飲み物を見る機会はないので見た目でも楽しめる。


 そして香りも甘く、まるでリンゴの様な匂いがした。


「美味しい」


 雫が口に付けて飲むと声を出す。

 それに続いて俺も口に運ぶ。


「うん。甘い匂いの割に甘すぎないから飲みやすい」

「お。若い子の口にも合いますか。なら良かった。どうしようかな。メニューに出そうかな」

「良いと思いますよ。色も綺麗で女性人気が出そうです」

「ありがとう。なら、ちょっと商品化として考えようかな」


 そう言いながら、ジュン兄さんは料理を始めた。


「そういえば、ここは何の料理を提供してるんですか?」

「ああ。たこ焼きだよ」

「たこ……焼き?」

「たこ焼き」


 雫がこちらを見てくる。


「たこ焼きってあの?」

「他のたこ焼きを知らないから分かないけど、雫の思っているたこ焼きだと思うけど」

「こんなにお洒落な空間でたこ焼き?」


 そんな雫に対してジュン兄さんがタネを作りながら言う。


「雫ちゃん。たこ焼きを侮っちゃいかんよ。奥が深いんだから」

「そうだぞ。安い屋台のたこ焼きもあればチェーンのちょっと高めのたこ焼きもある。そして、こんなお洒落な店のたこ焼きもあるんだぞ」

「いや別にたこ焼きをバカにしている訳じゃありません。私もたこ焼きは好きですよ。だけど――」


 そう言って雫は壁にかかってあるイタリア国旗を指差して言った。


「明らかにイタリアンの店でしょ」

「あー、あれね。何かバーっぽいだろ?」

「ちなみにイタリアン料理は?」

「ない」

「国旗外して! イタリアの国旗外して!」


 雫のツッコミに笑いながらたこ焼きを作っていくジュン兄さん。


「良いじゃないか。雰囲気良ければ」

「雰囲気良いし、飲み物も美味しいけど、イタリアンじゃないじゃないですか! 日本国旗にして下さいよ!」

「日本ねぇ。俺、サッカーがイタリアリーグ派だからねぇ」

「それ関係ないでしょ!」


 そんなツッコミが続く中、ジュン兄さんは笑いながらたこ焼きを作ってくれたのであった。

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