もうすぐテスト
テスト本番が近づいてきている今日この頃。
あの日以来、雫に釘をさされたので完士と共に勉強はせずに1人で勉強をしている。
それはそれで集中でき、結構勉強が捗ったと思う。
本日も学校が終わると真っ直ぐ家に帰り、自室に引きこもり勉強に勤しむ。
自慢じゃないが、勉強は出来ない訳ではない。好きではないが、やればトップ10位に入る事は可能だろう。
元々プレッシャーに弱い訳でもない。それは野球をしていた頃から同じである。
ピッチャーをやっていた俺は、ランナーを2塁に置いても正直何とも思わず、得点圏にはいるけど3塁じゃないからマシだ、とか、バッティングで言えばツーストライクと追い込まれても、後1球チャンスあるじゃん、なんて思うタイプだ。
あれだな、コップに入った水が半分だとしたら、もう半分と思うよりも、まだ半分あると思うタイプだ。
それは勉強も同じで、もう日にちがないじゃなく、まだ日にちがあると思って勉強しているので、冷静に質の良い勉強が出来る。
このような性格になったのは大きいと思う。これは勉強やスポーツ以外にも生かせる俺の武器だと自負している。
――コンコンコン。
テンポの良い音がドアから聞こえてきた。
ノートにペンを走らせながら「あいあーい」と返事をすると「失礼します」とルームウェアに身を包んだメイドらしくないメイドがお盆を持って部屋に入ってくる。
「ミルクティーです」
「ありがとう」
失礼だが、今、キリが悪かったので相手の目を見ずに礼を言ってしまう。
それについて雫は特に気にする事なく空いているスペースにミルクティーを置いてくれるが、いつもならすぐに立ち去る雫がジーッとこちらに視線を送っているのが分かり、俺は気になってペンを置いた。
「どしたよ?」
「いえ……。真剣だなぁ……。と思いまして」
「そりゃ真剣ですよー」
集中力がキレてしまい、俺はコップから甘い湯気を上げているミルクティーを手に取り口に運ぶ。
「そんなに、青春の衝動の捌け口G行為、に勤しみたいのですか?」
「――ぶふっ!」
ミルクティーを吹き出しそうになり、何とか耐える。
「独特なオ○ニーの訳し方だな!」
「――はぁ……。図星ですか……」
「い、いや……そ、そんなこたぁ……」
「何年一緒にいると思っているんだか……」
呆れた声と共にジト目で俺を見てくる。
「時人様の思ってる事なんかすぐに分かりますよ」
「俺達の深い絆で?」
「アホだからです」
直球、ストレートが俺の心にズバン! と決まった。
「どうせ娯楽が出来ない=スマホが見れないと考えている。その中にまた懲りずにエッチな物でも入れ直し、かつ、新しい物もついでに入れた――と、いったところでしょう」
鋭すぎて最早キミが恐怖にしか感じません。
「そ、そんな事あるか! あ、あれだ。確かに娯楽が無くなるのは嫌だから必死こいてはいるけどさ……。雫に負けるというのは正直悔しい部分もあるんだよ。一応だけど、俺が主人って立場だし」
「ホントですか?」
「ホント、ホント」
俺が念を押して嘘を言うと「ジーッと」と言いながら顔を近づけてくる。
ちょ……近……。
息が当たる位まで近づけると、サッと顔を離されて「どうでもいいけど」と言われる。
「せいぜい悪あがきして下さい。私に勝てるとは思いませんが」
「その台詞絶対後悔させちゃる」
「それは楽しみにしてます」
♦︎
「――んっんー」
あれから何時間が経過しただろうか。時間を忘れて勉強に勤しんでいた為に、少し残っている雫がいれてくれたミルクティーは既に湯気を立つのをやめてアイスミルクティーと化していた。いや、アイスでもないか。
そんなミルクティーを飲んで「あっま……」と一言。どうやら底に沈殿していた砂糖諸共飲んでしまったみたいだ。
飲み終えたコップを片付ける為、立ち上がりキッチンへ向かう。
「――ん?」
キッチンに向かっている時に気が付いたが、リビングのダイニングテーブルで雫が珍しく身体を伏せて眠っていた。
俺はコップをシンクに置いて「雫?」と声をかけるが無反応。どうやら深い眠りについているらしい。
「珍しい……」
しかし、こんな所で寝ていると風邪をひくぞ。だが、起こすのも気が引けるな。
俺は雫の部屋に向かった。
雫の部屋のドアを開けようとして前に「勝手に入ったらドツキます」と言われた事を思い出し、自分の部屋から小さめのタオルケットを取り出してリビングに戻る。
それを優しく雫にかけてやる。
敏感な雫の事だから、こんな些細な感触でも起きるかな? とか思ったりしたが、全然起きる気配を感じない。
疲れてるんだな……。
そういえば雫が寝てる姿って初めて見るかもしれない。
いつも俺より遅く床につき、俺より早く起きるから寝顔なんて見たのは初かもしれないな。
そういう所を考えると雫はやっぱりメイドなんだなぁと思える。
いつもお世話になってます。
俺はいつものダイニングテーブルの席に座り、マジマジと雫の顔を見る。
長いまつ毛にスッと通った鼻筋、唇もぷっくりと愛らしく、まさに美形というのに相応しい顔付きだ。
こんな無防備な雫を見るのは新鮮でドキドキしてしまう。
そこら辺のテレビに出てる女性タレントも裸足で逃げそうだな。
ちょっとイタズラしてみたいな。こんだけ可愛いと。
鼻つまんだり、ほっぺたツンツンとか。
キス――とか?
いや、流石にそんな事したら後が怖すぎるな。
雫って寝起きどうなんだろう? 良いのかな? 悪いのかな?
そんな事を思いながら彼女の顔を見続けていると、パチっと目が開いた。
「おはよ」
そう言ってやると、最初状況が分かっていなかったのか何の反応もなかった。
「おはよう……ハルくん……」
そう言いながら身体を起こしてボーッと1点を見つめる。
「雫?」
名前を呼ぶが、何の反応もなく1点を見つめる。
「――いや……変態ですか?」
「いきなり戻ったな」
雫は眠たそうに目を擦りながら言ってくる。
「乙女の寝顔をニタニタした顔して見てたら変態以外の何者でもありませんよ」
「乙女?」
あんまり雫の口からは出ないであろう単語を復唱してみると雫は口元に手を持っていき「いえ……」と、いつものキレのある言葉が出てこなかった。
流石に人間離れしている雫も、寝起きは余り脳が働いていないみたいだな。
俺は立ち上がりキッチンへ向かう。
「これ……は?」
「ん? ああ……。そんな所で寝てたら風邪ひくと思ってな。でも、起こすのも悪いからさ」
キッチンに行きながら答える。
「時人様がかけてくれたの?」
「俺以外に誰がいるんだよ」
笑いながら、市販で買っているミルクティーを作ってやる。
ミルクティーを雫の前に置くと「これは?」と、原始人が初めての物を見るかの様な表情で聞いてくる。
「ミルクティー」
「それは見たら分かります。私に?」
「そうだけど?」
「なんで?」
純粋な疑問文なのだろう。なぜ、私の為にミルクティーをいれたのかという。
それに対して笑いながら答える。
「なんで? って、そりゃ疲れてる時、雫がいつもやってくれる事だろ?」
「そうですが……。それは当然の事で……」
「雫に取ったら、疲れている俺にミルクティーをいれるのが当然なのであれば、逆もしかり。疲れている雫にミルクティーをいれるのは当然だろ」
そう言ってやると「そう……ですか……」と呟いてミルクティーを飲む。
「あま……」
「甘すぎた?」
少し砂糖をいれすぎたかな? 失敗しちゃったかな? 雫のを見様見真似で作ってみただけだからな。
しかし、雫は、台詞タオルケットを握りしめ、嬉しそうな顔をして台詞とは違う表情を見せてくる。
「はい。甘すぎです。甘すぎですよ。ハルくんは……」
そう言いながらも彼女はミルクティーを全部飲んでくれたのであった。




