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ファミレスの席

 ファミリーレストラン『アースフレンド』

 最近は人気が減ってしまい、店舗数が減ってきているものの、それでも大手に変わりはない。

 

 完士と共に『アスフレ』にきたのだが、コイツはどういう気持ちで店に入っているのだろうか……。

 直接的なアスフレの店員ではなく、あくまでもお嬢様の執事的な存在なので気にならないのかな。


 なんて、割とどうでも良い事を軽く思いながら、可愛い制服に身を包んだウェイトレスに席を案内される。

 しかし、次の瞬間に俺の思考は吹き飛んだ。


「――あ……」


 声が漏れた。


 なぜなら、その席の隣には雫と紗雪――そして瑠奈が一緒に勉強していたから。


「時人くんに完士くんじゃん」


 勉強していた手を止めて紗雪が声をかけてくる。


「うぃっす。偶然だな」


 完士が手を上げて挨拶する。


 コイツ……やりやがったな! 何が、うぃっす、だよ! 白々しいな!

 いや、何が『一ノ瀬 瑠奈が俺を惚れさす為にテスト勉強を共にするのを阻止する事』だよ! バカなんじゃないの? 

 まぁ分かってたよ。こうなる事は。分かってたけど、雫のいない所にしてくれよぉ……。仕掛けるの分かってたけどウチのメイドがいたら――。


 チラリと雫を見てみる。


「2人も勉強?」なんて普通の声を出しつつも、俺にしか見えない背中のオーラは具現化し、こちらに圧をかけていた。


 そりゃそんなオーラは放つよな。だって、瑠奈の事はこちらにお任せ、って言ってたもんな。それを俺が自らノコノコと敵に接近してんもんな。お前の気持ちは分かる。分かるけど、怖すぎるっての。


「しょ、しょーしょー。べんきょー」

「あはは! 時人くん何で噛んでんの?」


 紗雪が笑いながら指摘してくる。


「紗雪しょうがないよ。こんだけ可愛い女の子が3人もいれば堂路くんも緊張するんだよ」


 お前だよ。お前の恐ろしさに緊張してんだよ。そんな可愛い緊張なら幾らでもしてやるよ。


「あの、折角ですし、皆で勉強しませんか?」


 瑠奈が、偶然会ったしそれなら一緒にどう? みたいなテンションで言ってくる。

 上手いねー。実にナチュラルな言い回しだ。


「そうだね。一緒に勉強しようよ」


 それに紗雪が乗っかる。


「良いの? 女子会の邪魔にならない?」


 完士がしらこく聞くと雫がクールな笑みを溢す。


「クラスメイトが隣にいるし、それなら一緒の方が楽しいじゃん」


 思ってもいない事を発言している事だけは分かる笑み。

 はぁ……。帰ったらまた説教されるんだろうな……。




『ご来店ありがとうございます』と先程の可愛い制服に身を包んだウェイトレスがお冷やを持ってやってくる。


「すみません」


 俺はウェイトレスに声をかける。


「はい?」

「隣と席をくっ付けても良いですか?」


 一緒に勉強する流れになっているので、それならば席を付ける必要性があるだろう。

 自然の流れで完士が奥の席に座っている。女子側の奥は紗雪と瑠奈。手前が雫と俺だ。

 なーに、ウチのメイドの隣に座ってたら仕掛けられても回避出来るだろ。


「はい。大丈夫ですよ。えーっと……少々お待ち下さい」


 多分1人でやるには重いと判断してもう1人呼んで来ようとしてるんだな。


「あ、こちらのワガママなので自分達でやりますよ」

「あ……よろしいのですか?」

「全然。大丈夫です」

「すみません。ありがとうございます」


 ぺこりと頭を下げられるので俺は手を振って「いえいえ。こちらの方がすみません」と返しておく。


「完士。そっち持って」

「はいよ」


 机を持って隣とくっ付ける。確かに女性1人ではちょっと重たい位の机だったな。


「――ん?」


 ふと視線を感じて向かいの席に座っている瑠奈と目が合う。

 するとサッと視線を逸らされた。

 俺の事を見てたな……。これからどうやって料理するか考えているのだろうか?


「なになに? 瑠奈ちゃんの方見て」


 紗雪が俺の視線に気が付いてからかう様に言ってくる。


「んー? 見てた?」

「バッチリ見てたよー。誤魔化せない程にね」

「たまたま視線がそっちにいっただけだろ。勘ぐり過ぎだわ紗雪」

「ほほーん? ホントかなー?」


 疑いの声を出した後に紗雪は目をキランと光らせる。


「――よし! 席替えしよう!」


 いきなりの紗雪の発言に全員が彼女を見る。


「折角だしさ、アミダで決めようよ!」


 いきなり席替えなんていらん提案してんじゃねーよ! この席がベストなんだよ!


「えー。別にこのままでも良いじゃん?」


 紗雪の提案に速攻否定する雫。流石はメイド様。今の状況を理解している。


「そうだよ。わざわざ移動するのもだりぃし」


 雫に合わせて言うと「ははーん?」と紗雪はニヤリと笑う。


「時人くんったら、そんなに雫の隣が良いの?」


 紗雪の髪の毛がセンサーみたいに立っている――気がした。


「おいおい。そんな小学生じゃあるまいし」

「そうやって大人ぶってる台詞を吐くのが怪しいんだよねー」


 紗雪の台詞に完士が加勢する。


「なんだ時人。星野さんが好きだったのか?」

「完士まで何言ってんだよ」

「へぇ……。まぁクラスでもちょこちょこ喋るのは見た事あるけど、ちょっと意外だな」


 そう言ってもらえるって事は上手い事関係を隠せている証拠。これ以上ない褒め言葉である。


「時人君は雫ちゃんが好き……なんですか?」


 続いて瑠奈も波に乗ってくる。


「いやいや。好きな訳ないだろ」


 そう言うとピキッと隣から音が鳴った気がした。

 視線だけ横に向けると、明らかに不機嫌なオーラを出しているのが分かる。


「雫はどうなの? 時人くんの事」


 紗雪が楽しそうに雫に聞く。


「どーって? もしかして恋愛対象みたいな?」

「そーそー」


 頷いた紗雪に対して、雫は小さく笑って俺を見る。


「ふふ。お友達から――かな」


 冷たい目で俺を見ながら言われてしまう。


「あちゃー。フラれちゃったねー」

「時人フラれたな」

「フラれましたね」


 3人がそれぞれ同情の声を出してくる。


「あれ? 俺、フラれた感じ? なぁ? 完士?」

「その、いつもくだらない事言う所だと思うよ? 堂路くんがフラれたの」

「は? 俺は星野じゃなくて完士に聞いたんだけど。なぁ? 完士? そんな感じ?」


 そう聞くと完士は視線を伏せていた。


「完士?」


 改めて問いかけると「あ……」と我に返ったかのように返事をされる。


「ごめんごめん。ま、次の恋を探せよ」

「いや、失恋してないし」

「そうだよ時人くん! さ! 仕方ないから時人くんからで良いよ。アミダ選ぶの」


 そう言いながら紗雪が俺の目の前にノートを置いた。

 そのノートにはアミダの線が書かれており、下にそれぞれ番号が振り分けられている。


「いつの間に」

「さっきパッと作ったよ。さ、どこにする? 決まったら名前書いてね」

「じゃここで」


 適当に端っこの方を選ぶ名前を書いて一旦紗雪に返す。


「次は――誰いく?」

「俺貰って良い?」


 完士が手を小さく上げる。


「良いよー。はい」


 紗雪は完士の前にノートを置いた。


「それじゃあ、ここで」


 完士は真ん中を指名すると「次、良いですか?」と瑠奈が手を上げたので完士が「どぞ」とそのまま瑠奈に渡す。


「私はここで」


 瑠奈は俺と正反対の線の上に名前を書いた。


 瑠奈が名前を書いている時に俺の膝がツンツンとされたので反射的に雫を見てみると小さくポケットを指さされる。


 俺はスマホを取り出すとメッセージが届いていた。


『かんじ ちゅうい 引きつけ』と書かれていた。


 なるほどね。アミダに細工をするってか。

 しかし、いつの間にメッセージ打ったんだ? 雫がスマホ出してる仕草なんて無かったぞ。恐ろしいな……。


「なぁ? 完士」

「うん?」

「この動画なんだけどさ」


 俺はスマホを取り出していたから、そのまま見て欲しい動画があると言ってスマホを見せる。


「紗雪先どうぞ」

「私が作ったんだから、雫が先で良いよん」

「そ? それじゃあ」


 そんな会話を聞きながらも、視線をやると逆に怪しまれるから完士にくだらない動画を見せてお互い笑い合う。


「はい、紗雪」

「オッケー」


 一体どんな細工をしたのだろうか。気になる。後で聞くとしよう。


「じゃあ、最後に――ふんふんふーん」


「――!!」と紗雪以外の全員が驚愕の目で彼女の手元を見た。


「おいおい」

「何してんだよ」

「嘘……ですよね……」

「ふふ……紗雪らしい……」


 そんな台詞達を無視して、紗雪はこれでもかという位に線を付け足していた。


 これじゃあいかさまもクソもあったもんじゃない。

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