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春のマラソン大会(2年生限定)

 俺の学校での恒例行事『春のマラソン大会(2年生限定)』


 何故2年だけなのかは謎だが、伝統なので仕方がない。そして、優勝した者が想い人に告白するというのも伝統だから仕方がない。


 その内容は、男女混合で学校を出て、学校の最寄り駅を越えた先にある河川敷まで向かい、そこでUターンして学校まで戻ってくるといった内容。


 元々は競う訳じゃなく、高校生活も1年経ったし、暖かくなってきたし、皆で走ろう! ってのがコンセプトらしい。全く……誰が考えた事やら……。




「時人様。重々承知とは思いますが、油断なさらずに挑んで下さい」


 昼休みがもうすぐ終わる時間の教室内。体操服に着替えた後、雫に誰もいない2年F組に呼び出される。


「油断はしないけどさ、完士が俺に何かを仕掛けてくるのか、それとも他の奴に仕掛けるのかで変わってくるよな」


 グラウンドの様子を眺めながら答える。

 まだ5限開始のチャイムは鳴っていないが、ほとんどの2年生は体操服に着替えさせられてグラウンドに集まっていた。


「ですので、私は彼の後を追い、彼の行動を監視します。何かあればインカムにてお知らせしますので、装着をお願いします」

「あいあい。もーしてまっせー」


 俺は返事をしながら左耳に付けたインカムを叩く。


「そういや、もし、俺が1位になった時はどうする?」


 そう言うと軽く睨まれる。


「私が失敗するとでも?」

「もしもだっての」

「そうですね。その場合は伝統に肖るしかないかと」


 それは俺が瑠奈に告白しろと言っているのだろうか。

 しかし、考えてみると、別に完士が瑠奈を差し出して来たとしても、無視すれば良いだけの話なんだよな……。


 俺はクルリと回り雫を見る。


「なら、そん時は雫に告るよ」

「――え?」


 珍しく鳩が豆鉄砲くらった様な顔をする雫。


「や……。その……」


 雫は髪をいじって少しモジモジとする。何だか懐かしい姿を見れた気がした。


「その方が丸くおさまるだろ。その場はOKしてくれて、後でフッた事にすれば良いんじゃない?」


 そう言うと「――はぁ」と溜息を吐かれた。


「ま……。良いんじゃないです? それで」

「え? 不満?」


 ナイスアイデアと思ったのだが、雫は呆れた声を出す。


「あーはいはい。それでいきましょう。ほらほら、さっさとグラウンド行かないと始まりますよー」


 冷めた態度を取り、雫は教室を出て行った。


 良い案だと思ったが、ダメだったかな?




♦︎




「いや、まじで、ホント、嫌だわ」


 5限開始のチャイムが鳴り、まだ先生達の姿は見えないので、適当に駄弁っている生徒達。その中には俺達も含まれる。


 隣で完士はブツブツと言っていた。


「そんな苦手なのか?」


 完士とは1年の時から同じクラスなので、体育の授業で彼の運動神経の良さは知っていた。

 しかし、体力に自信があるかどうかは知らないので、今回のマラソンが本当に嫌なのか、それともブラフなのか分からない。


「俺って運動神経抜群だろ?」

「自分で言うなよ」

「でも、マラソンだけはマジで無理なんだよな」

「へぇ」

「あ! 時人! 信じてねーな」


 まぁなぁ。と言う意味を込めて見てやると完士が眉を潜めて言ってくる。


「中学の時、良い感じになってた女の子がいるんだよ。その子にバスケで良い所見せれてさ――『完士ー! カッコいい』とまで言わせた女の子に、マラソンの姿見られて失望された俺の気持ちが分かるか?」


 そう言われて「あー」と理解したかの様な声を出して言ってやる。


「オカンにAV見てる所を見られた感じ?」

「そんな感じ――じゃねぇわ! 気不味い雰囲気になるタイプの話じゃねーよ! 全然話聞いてねーな」

「あ! あー……。あれか。ネットで知り合った子と初めて会う時にお互いが想像の顔と違って苦笑いしか出来ない、あの空気か?」

「違っ――! 違わなっ――! ――あー! ムズイわ! あながち違わない回答するのやめて。ボケるなら全力でボケて! ツッコミに困るから」


 彼のツッコミに笑ってしまい話を戻す。


「だから『一緒にゴールまで行こうぜ。俺達親友だろ』と約束をしたのに容赦なく置いて行く、のお約束行動が出来ないと?」

「そうそう。時人が俺に合わせてくれても良いけど、多分後ろの方だから、逆にしんどくなるかもな」

「ふぅん」


 なるほど、こうやって前置きを作り、後ろから何か仕掛けてくる作戦かな?


『――なになに? 何の話ー?』


 俺達の会話中にナチュラルに声をかけてきたのは、裏モードの雫と瑠奈だった。


「完士が体力ないって話」

「へぇ。室壁くんって運動神経良いからマラソンも得意と思ってた」

「そうなんだよ……。俺、体力だけはマジで無くて……」


 そう言うと瑠奈が頷きながら言う。


「私も体力には本当に自信が無くて……。マラソンは苦手で、すぐにバテてしまいます」

「そうなんだ。私もなんだよね」


 瑠奈の会話を拾う雫。


「そうなのですね。意外です」

「あはは。マラソンはちょっとね……」


 苦笑いを浮かべる雫。


「雫ちゃんも室壁君も何でも出来そうな見た目なのに意外ですね」


 何ともしらこい台詞が聞こえてくる。


「え? 俺ってそう見える?」

「ええ。そう見えますよ」

「照れるな……」


 完士はしらこい台詞を吐く。


「2人共マラソンが苦手ねぇ……。ふぅん」


 雫は怪しむ様な声を出した。


 あー……。俺と雫、瑠奈と完士が集まると何だか腹の探り合いみたいな会話になっちまうな。


 ちなみに雫の言葉は全くの嘘。こいつの体力は並大抵の物じゃない。多分、普通にやったら上位、下手したら優勝してしまうのではなかろうか。


「時人君はどうなのですか?」

「俺? 俺は……普通かな」

「あー。分かる。堂路くんって無難って言葉が似合うもんね」

「星野……。それ褒めてるのか、褒めてないのかどっちだ?」

「さぁねー」


 半笑いで手を上げて言ってくる。


「はぁ。どうせなら、私も走るんじゃなくて、時人君を応援する側に回りたかったです」

「うぇーい。時人ー」


 瑠奈の言葉に完士が肘で俺をつついてくる。

 会話をすると、やっぱりちょこちょこぶっ込んでくるんだな。


 そんな肘チョンをされてる中、何か足りない事に気が付いて雫に尋ねる。


「――あれ? 紗雪は?」

「あ、紗雪なら、そこだよ」


 雫が指差した方向を見ると、1人黙々とストレッチをしている紗雪。


「やる気だな」


 その後ろ姿は、いつもの紗雪とは一味違うかった。


「そうですね。何だか優勝を目指している様な勢いですよね」


 瑠奈が紗雪の後ろ姿を見て呟く。


「優勝ねぇ」


 もしかしたら昨日の事と何か関係があるのだろうか?




♦︎




 さぁ始まりました。2年生全員参加イベントの『春のマラソン大会(2年生限定)』


 コースのおさらい。


 学校を出て、学校の最寄り駅を超えた先にある河川敷をUターンして学校へ戻るといった簡単なコース。


 俺は元野球経験者という事で、体力には自信があるから上位グループに入っている。

 流石に現役運動部の奴等には勝てないが、まずまずの貢献といえるだろう。

 しかし、完士達が何をしてくるか分からないので、このままの順位をキープするのは危険かと思ってはいる。思ってはいるのだが、体育会系精神が邪魔をして、手を抜く事が出来ない。

 このまま何も無ければ陸上部の小林が優勝となるのだが――。


「雫。そっちの様子はどうだ?」


 河川敷に入り、Uターン地点を目指している途中に周りとの距離は充分にある事を確認して声を出してみる。


『異常なし。そして室壁 完士さんが言っていた事は本当の様ですね』

「体力ないってやつ?」

『はい。到底見せられない顔で走っておられます。綺麗な顔が残念になっておられます。そりゃ幾らカッコいい所見せても女にフラれるわ。ですね』


 どうやらさっきの俺達の会話を聞いていたらしい。


「完士の奴、マジだったんだな……。瑠奈は?」

『一ノ瀬 瑠奈さんは私達よりも先を走っておられますので姿は見えません。恐らく大丈夫だとは思われますが、私は引き続き室壁 完士の監視を続行します』

「頼んだ」


 ご主人様よりも体力のない執事。それって執事務まるの?




♦︎




 俺達の警戒は無駄に終わりそうだ。

 それと言うのも、Uターンをして河川敷から学校へ戻って行く最中にようやく河川敷にやって来た完士の顔はくっそ不細工だったし、走り方はくっそ気持ち悪かった。

 あれじゃあ何も仕掛けてこれまい。


 その後ろを汗1つかかずにある一定の距離を取り、完士を追いかける雫を見ると、ウチのメイドは優秀だなぁ、と実感出来た。


 俺の今の順位は多分7位だろう。だろう発言なのも、俺の前の連中は見当たらず、後ろとも距離があるので予測しか出来ない。

 まぁとりあえずは俺が公開告白をするという選択は消えたのでよしとしよう。


 しかし、心残りがあるとしたらUターンで下位グループとすれ違う時に瑠奈の姿が見えなかった事だ。

 

 ――もしや何処かに潜んで社長令嬢直々にトップグループを消すとか!? 


 いや、考え過ぎか。それなら完士の存在意義が無くなってしまうもんな。

 Uターンで見えなかったのは誰かの影に隠れていたとかそんなオチだろう。

 俺はこのまま7位という、まぁ凄いんじゃない? 的なポジションでゴールさせてもろおう。


 そんな事を考えながら河川敷に続く道と出口の分かれ道にやって来る。

 一瞬身体が間違えた方向に行きかけたが、何とか出口の方へ身体を向ける。


 1週間位前にもらった地図でコースの確認をしてないと間違えるよな――。


 ――ん? 1週間前?


 そういや瑠奈が転校して来てまだ1週間経ってないよな。

 もしかしてアイツ道間違えたんじゃない? いや、それだったら周りの連中が教えてくれるだろ。


 そう思い俺は周りを見る。俺以外誰も見当たらない。

 このパターンで間違えた道行ったとかどんだけミラクルだよ。


「雫」


 俺はスピードを緩めて歩き出す。


『いかがなさいましたか?』

「瑠奈の姿は見てないよな?」

『はい。先程から羊より間抜けな執事は前方にいますが、瑠奈さんの姿は見ていません』

「もしかしたら瑠奈の奴、道間違えてるかも」

『え? ――あー……あの分かれ道ですね? しかし、地図を頂いたと記憶しておりますが』

「瑠奈が転校する前にもらったけど、瑠奈はもらってないとか?」

『――なるほど。その可能性はありますね。どうしますか? 私が確認に行きましょうか? 彼はグロッキー状態なので恐らく危険性は皆無ですので』

「いや、ここからなら俺の方が近いから俺が行くわ。ま、一応間抜けな完士の監視を頼むわ』

『承知いたしました。もしかしたら瑠奈さん達の作戦の可能性もあります故、油断だけはせず、何かあればまたご連絡下さい』

「あいよ」

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