表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/18

第5話

霧が、濃くなる。

白く霞んでいた空間が、さらに深く沈んでいく。

音が遠のく。

風が止まる。

世界そのものが、薄い膜を一枚重ねられたように曖昧になっていく。


(観測継続)


(対象:メフィスト)


(対象:朝雛凪)


(変化率:上昇)


「……またか」


メフィストは静かに呟いた。

焦りはない。

ただ、面倒そうに霧を見つめる。


「貴様はいつもそうだ」


「説明もなく、理屈もなく、勝手に変化する」


「だから嫌いなのだ」


霧は答えない。

ただ揺れる。

まるで、その言葉すら観測対象だと言わんばかりに。

一方、凪は膝をついていた。

頭が割れそうだった。


「ぐっ……!」


まただ。

意味になりかけた情報が流れ込んでくる。


(個体:朝雛凪)


(運命支配確認)


(適応率:上昇)


(例外候補)


「だから何なんだよ……!」


凪が叫ぶ。


「例外だの適応だの!」


「俺は実験動物じゃねぇ!」


その瞬間。

霧が止まった。

そして。


(否定)


「……?」


凪が目を見開く。

初めてだった。

一方的な情報の羅列ではない。

今のは。

返答。

確かに、返答だった。


「否定……?」


「実験動物じゃないってことか?」


霧は揺れる。

しかし、それ以上の情報は流れてこない。

まるで、


「そこまでは違う」


とだけ訂正したように。


「何を考えてやがる……」


凪が呟いた、その時。


ビキッ。


空間が軋んだ。

メフィストの視線が上を向く。


「……来るな」


次の瞬間。


ズン!!


巨大な影が空から落下した。

地面が陥没する。

二メートルを超える巨体。

赤黒い皮膚。

四本の腕。

そして。

金色の瞳。


「上位個体か」


メフィストの声に僅かな興味が混じる。

地底人。

しかし普通の個体ではない。

300年を超える時を生きた、古参の戦士。


「■■■■■!!」


咆哮。

衝撃波。

ビルの残骸が吹き飛ぶ。

凪の顔が引きつる。


「いやいやいや!」


「今のでかいの何!?」


「上位個体だ」


メフィストが当然のように答える。


「貴様らの基準なら災害級か」


「災害級で済ますなよ!」


刹那

上位個体が飛び出した。

狙いは。

凪。


「はっ!?」


「何故私ではなく人間を狙う」


メフィストは不思議そうに首を傾げる。

だが、次の瞬間。

霧が。

ゆっくりと。

二者の間に流れ込んだ。


(介入)


「……?」


上位個体の動きが止まる。

メフィストも、初めてではないが珍しいものを見るような目で霧を見た。


「珍しいな」


「貴様から動くとは」


そして。

凪だけが気付く。

霧の奥。

そこに。

“何か”が。

こちらを見て、

笑ったような気がした。


「……おい」


凪の頬を冷たい汗が伝う。


「今、笑ったよな……?」


霧は。

ただ静かに揺れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ