第14話
静寂。
誰も動かない。
いや。
動けなかった。
「……は?」
凪の口から間抜けな声が漏れる。
「三百年前?」
「俺?」
「何言ってんだ?」
「当然の反応だ」
黒衣の男。
もう一人の朝雛凪は肩をすくめた。
「僕も最初はそうだった」
「最初?」
「うん」
「君と同じことを言った」
「だから意味分かんねぇって!」
⸻
一方。
メフィストは動かない。
その赤い瞳だけが、じっと男を見つめている。
「……不愉快だ」
「久しぶりに会ってそれ?」
「死者は死者らしくしていろ」
「酷いなぁ」
弥國の銃口は微動だにしない。
「質問だ」
「どうぞ」
「お前は朝雛凪か」
「そうだよ」
「人間か」
「そうだよ」
「敵か」
「違う」
「味方か」
「それも違う」
「なら何だ」
男は少しだけ考えた。
そして。
笑った。
「先輩かな」
「却下」
バン!
雷撃弾。
だが。
男の頭を貫くはずだった弾丸は。
すり抜けた。
「!?」
初めて。
弥國の表情が僅かに変わる。
「当たらない」
「正確には」
男が笑う。
「存在してないからね」
「もっと意味分かんねぇ!」
凪が頭を抱える。
「俺一人で十分なんだよ!」
「ひどいなぁ」
「黙れ!」
その瞬間。
霧の意思が空間を震わせた。
(矛盾増大)
(修正開始)
(不要因子排除)
「……来たか」
男の笑顔が消える。
「メフィスト」
「分かっている」
総隊長が一歩前に出る。
「まさか」
「貴様と共闘する日が来るとはな」
「感動的だね」
「吐き気がする」
「おい」
凪が目を丸くする。
「共闘!?」
「敵だろ!?」
「状況を見ろ、人間」
メフィストが吐き捨てる。
「今の敵は別だ」
弥國も静かに85-M7を構える。
「同意する」
「今は撃たない」
「お前まで!?」
その時だった。
白い世界に。
亀裂が走った。
一本。
二本。
三本。
無数。
そして。
その裂け目から。
“何か”が覗いていた。
目。
だった。
巨大な。
あまりにも巨大な。
世界より大きいのではないかと思えるほどの、
一つの眼。
凪の全身が凍る。
「……は?」
そして。
初めて。
霧が。
怒りにも似た感情を見せた。
(排除)
その一言と共に。
白い世界そのものが。
敵意を持った。




