第13話
コツ。
黒の中から、足音が響く。
一歩。
また一歩。
白の世界を侵食するように、闇が広がっていく。
「──ようやく見つけた」
男の声。
若い。
だが、不思議と古い。
凪は眉をひそめた。
「……誰だよ」
返事の代わりに。
黒の中から、一人の青年が姿を現した。
年齢は二十代前半ほど。
黒いコート。
黒い髪。
そして。
黄金色の瞳。
その瞳を見た瞬間。
凪の全身に寒気が走る。
「……っ」
知っている。
会ったことなどない。
なのに。
知っている。
そんな感覚。
「お前……」
凪が言葉を失う。
「誰だ」
男は困ったように笑った。
「そうだよな」
「初めて会うんだから」
「知らなくて当然か」
弥國の銃口が向けられる。
「答えろ」
「敵か」
「味方か」
男は少し考え、
「どっちでもない」
と答えた。
「どっちでもない?」
「正確には」
「どちらにもなれなかった」
その時だった。
メフィストが。
初めて。
明確に警戒した。
「……貴様」
「何故、生きている」
凪と弥國が同時に振り返る。
「知ってるのか!?」
「総隊長!」
メフィストの表情は険しい。
「知っている」
「いや」
「知っていたはずだった」
男は苦笑した。
「久しぶりだね」
「メフィスト」
「三百年ぶりかな」
空気が凍る。
凪の思考が止まる。
「……は?」
「三百年?」
「まさか」
弥國の目が細くなる。
「ナイトか」
「違う」
「僕は人間だ」
「少なくとも」
「生まれはね」
「……意味が分からん」
メフィストが呟く。
「貴様は死んだ」
「確かに」
男は頷く。
「君に殺されたからね」
沈黙。
凪がメフィストを見る。
「え?」
メフィストを見る。
「え?」
男を見る。
「え?」
「待て待て待て!」
「情報量!」
「情報量多すぎ!」
「落ち着け」
「落ち着けるか!」
「うるさい」
「誰のせいだと思ってんだ!」
もう一人の凪が、楽しそうに笑っていた。
「やっぱり面白いね」
「この時代の君は」
「お前も何なんだよ!」
「朝雛凪」
「違う!」
「じゃあ朝雛凪じゃない朝雛凪」
「もっと駄目だろ!」
男が小さく吹き出す。
「ははっ」
「変わらないな」
「君は」
「だから誰だよ!」
その瞬間。
白い世界全体に。
霧の意思が広がる。
(異常確認)
(観測外個体)
(矛盾発生)
(修正開始)
男の笑みが消えた。
初めて。
真剣な顔になる。
黄金の瞳が霧を見据える。
「やっぱり来るか」
「何がだ!」
凪が叫ぶ。
男は静かに答えた。
「僕を」
「存在しなかったことにするために」
メフィストの赤い瞳が細くなる。
弥國は85-M7を構え直す。
そして。
男は。
凪と同じ顔で。
静かに笑った。
「自己紹介がまだだったね」
「僕の名前は」
「朝雛凪」
「君たちから見れば」
「三百年前の朝雛凪だ」
白の世界から。
音が消えた。




