第11話
静寂。
音がない。
風もない。
重力すら曖昧。
朝雛凪が目を開けた時、そこにあったのは──
白。
ただ、それだけだった。
上下も左右も分からない。
地面も空もない。
どこまでも広がる白。
「……夢?」
凪が呟く。
「いや、悪夢か」
返事はない。
当然だ。
そう思った。
「残念ながら、現実だ」
低い声。
振り返る。
そこには。
腕を組み、平然と立っている男。
第1軍団長。
ナイトの総隊長。
メフィスト。
「げ」
「何だその反応は」
「いやだって敵だし」
「そうか」
特に気にした様子もなく、メフィストは周囲を見回す。
「……興味深い」
「こんな状況でそれ言えるの?」
「未知の現象だ」
「知的好奇心は刺激される」
「大物すぎんだろ……」
「二人とも」
さらに別の声。
凪が振り返る。
85-M7式自動小銃を肩に掛けた齋藤弥國が、静かに立っていた。
「お、弥國!」
「無事か」
「何とかな」
「そうか」
「それだけ!?」
「無事なら問題ない」
「もうちょい心配しろよ!」
「必要ない」
「寂しい男!」
その時だった。
白い空間に。
波紋。
まるで水面に石を投げたように。
一つ。
また一つ。
波紋が広がる。
(観測継続)
(実験開始)
「おい」
凪の顔が引きつる。
「嫌なワードしか聞こえねぇぞ」
メフィストの目が細くなる。
「……違う」
「実験ではない」
「は?」
「この言葉は、正確ではない」
「珍しいな、総隊長さん」
弥國が静かに言う。
「霧を擁護するのか」
「違う」
「単純な話だ」
メフィストは淡々と答える。
「実験ならば、目的がある」
「しかし、あれには」
「目的が見えない」
ゾワッ。
凪の背筋に寒気が走る。
「目的がないって……」
「そんなの一番怖ぇよ」
その瞬間。
白い空間に。
人影が現れた。
「!」
凪たちが身構える。
だが。
そこにいたのは。
人間でも。
ナイトでも。
霧でもなかった。
それは。
凪だった。
「……は?」
いや。
違う。
朝雛凪ではない。
顔は同じ。
だが。
瞳の色が違う。
纏う空気が違う。
そして。
何より。
笑っていた。
「初めまして」
もう一人の凪が言った。
「いや」
「君たちにとっては、初めましてじゃないか」
⸻
メフィストが初めて眉を動かす。
弥國の銃口が上がる。
そして。
もう一人の凪は。
不思議そうに首を傾げた。
「ん?」
「何でそんな顔をするんだい?」
「僕は」
「朝雛凪だよ?」




