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『始原の帰還者、札幌でひっそりお弁当屋を始めます〜深層の魔物で作った『魔素抜き弁当』が美味しすぎると探索者たちの間で話題な件〜』  作者: 姫宮澪
不死者の冤罪【五食目】本日のメニューは「悪魔的レッド・シャークの幽庵焼き弁当」です。

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エピソード89 偽りの王座と死を反転させる真の王【無事に生還を果たし、手に入れた規格外の食材で次のメニューを考える元最強のシェフ】

 ……黒つぐみは、王の身代わりを探していた。

 ――断頭台に自らの命を差し出す者……。


 タッ……。


 誰かのために生きろ、なんて言わない。自分の人生に自信を持って生きていれば、報われるとまでは言わないが後悔はしないだろう。


 突き立てられた槍を背に、忍は石畳の上にうつ伏せで倒れたまま……動かなかった。


 ……自らの意思で忍は決めたのだろう……か。


『……ミナト。向かうぞ』

 強烈なナッツの念話が僕の脳に突き刺さる。

 ……珍しいな。ナッツさんが焦っているなんて。


 素早く。地面に足音を隠し、スケルトンリザードたちの群れの中に飛び込んでいく。白い猫が放った不可視の黒い霧が、無数の細長い槍の形に変化した。


「ギギッ、カタカタカタカタ……」

 硬質化された黒い槍は、次々とスケルトンの空っぽの身体を貫き……。

『効果がないだと――』

「相手は肉体を持たない魔物だからね」

 一瞬、よろめきはしたが、リザードたちはすぐに体勢を整え直して、手に持った銀の槍をこちらに向けて構えた。


「カシャカシャ、ギギッ」

 多分――司祭が歓喜しているのだろう。勝利を確信した司祭が高らかと笑ったように見えた。


 たと、たと……背を向けた司祭が王座へと近づいていく。後ろの気配に気がつき、ふと立ち止まった。


「その王座に座るのは、あなたではないです」

 小さな声が地面のほうから漏れる。


『……どうなってるんだ?』

 白い猫が言葉を発して、そのすぐ後に――司祭の背負った骨組みだけの翼が、ぴくりと跳ね上がる。


「ガギッ! ガ、ギギッ」

 何を言っているのかよくわからないが、目の前にゆっくりと身を起こした、槍の刺さったままの少女に焦りと恐怖を感じているのだろう。


 チャリン……と、地面の石の上に、6ペンスの銀貨が散らばった。


「その席は、私のものです」

 一歩――よろりと起き上がった忍が、司祭に近づく。


「捕らえよ! あの者は、偽の王です」

 ビシッ、と指を差す。胸に突き刺さった槍が地面に放り出される。穴の空いているはずの体は、光の粒子が傷を塞いでいった。


 忍の声に呼び覚まされたスケルトンリザードたちは、冠を被った司祭を取り囲んだ。


「ご苦労……」

 リザードの一人に渡された冠を手に取ると、忍は王座に座った。

「これより、真の王である私が命令します。今すぐにポータルを開きなさい!」


 冤罪者という王座に座る者が――真の王となる……。


『何がどうなってるんだ……?』

「終わったんだよ。牢獄迷宮プリズンダンジョンが攻略された……」


 大方、黒つぐみたちに命を狙われた王は、自分の命を守るため、偽の王を作り、断頭台に立たせるのが目的だったのだろう。

 ……そうすれば、牢獄迷宮プリズンダンジョンの支配権を得られるからだ。


 だけど……――。


「私、死なないんです」

 忍だ。アンデッドテイカー《不死者の冤罪者》の能力スキルだろう。

「ダンジョンの中では、どんなに致命傷を負っても、絶対に死なないんです」

 ……それが、アンデッドテイカー《不死者の冤罪者》に課せられた冤罪なのだろう。


 もしも、黒つぐみの歌に、不死者の王がいれば、ことわりは簡単に覆る。


「生まれながらにして、死を反転させる罪を背負う者……それが、私たちアンデッドテイカー《不死者の冤罪者》です」

「スケルトンリザードたちも驚いていただろうね……」

「どんな世界にも、形は違っても命はありますからね」

「死なない……って、反則だよね」

「ダンジョンの中だけです」

 くるりと振り返りながら、忍は笑った。

「だから、言ったじゃないですか。私の特技は死んだふり、だって……」

 無邪気に笑う彼女の顔は、弁当を食べていた少女のものに戻っていた。


 ……とりあえず――。


「帰ろうか。僕たちの世界に」

「はい」


 ……残り時間、10秒、9秒、8秒、7秒、6秒……。


 ぱっ、と開いたポータルの中に僕たちは飛び込んだ。


 光に包まれた。一瞬だった……――目の前が白色に統一されて、何も見えなくなる。


 ふわりと肉体が浮かび上がる感覚のあと、朝に煮込んだスープの香りが鼻腔を包み込んだ。


 そっと目を開けると、そこには……――。


「……朱里さん。とりあえず、その振り上げた双剣を下ろしてもらえると助かるんだけど」

 今にも、砂時計をぶった切る構えを取った少女が、転送された厨房の中にいた。


 ……とりあえず、帰ってきたんだ。という実感とともに、暴走気味な朱里を全力で止めている栞奈の姿を見て、ほっとした。


「湊さんっ! 良かった……このまま、本当に閉じ込められちゃうんじゃないかと思ってた」

 ……刀剣をぶんぶん振り回しながら近づいてくると怖いから、獲物は下ろそうか。


「ただいま帰りました。無事に牢獄迷宮プリズンダンジョンは攻略です」

 忍はにっこりと微笑みながら言った。


 ……冷蔵庫は――。


「良かった。何ともない」

 ばた、と冷蔵庫の扉を開けるが、先ほどまでどよめいていたダンジョンの渦はなくなっていた。

 その代わりに、ラウンドホークのハンバーグが皿に入ったまま置かれている。


「みんな、おなか空いてない? ごはんにしようか」

 僕はハンバーグの皿を取り出して、調理台の上にコトリと、置いた。


 ……牢獄迷宮プリズンダンジョンで仕入れてきた食材で、今日はどんな料理を作ろうかな……。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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