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『始原の帰還者、札幌でひっそりお弁当屋を始めます〜深層の魔物で作った『魔素抜き弁当』が美味しすぎると探索者たちの間で話題な件〜』  作者: 姫宮澪
不死者の冤罪【五食目】本日のメニューは「悪魔的レッド・シャークの幽庵焼き弁当」です。

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エピソード88 空飛ぶ巨大鮫と魔物の一網打尽【迫り来るタイムリミットの中、規格外の食材を投網で捕獲するお弁当屋のシェフ】

 ……世の中は不条理でできている。


 形のないものは認めないし、形のある過ちを正義と示す者もいる。


 どんなに公正世界信念を貫こうが、真実は一つではなく、歪められた真実もまた一つの真実になる。


 このダンジョンもそうだ。

 不条理と歪みの間にあって、思い込みという思想の中で作られたことわりが時間を動かしている……。


 牢獄迷宮プリズンダンジョンが歪みから生まれたものだとすれば、歪んだことわりをもとに戻すことができるのは、一粒の冤罪者なのかもしれない。


 杖のようなものを振り上げながら、ギギッ、ケタケタケタケタと、冠をかぶったスケルトンリザードが言葉のない音を立てた。


「カタン、ギギギッ……カシャンカシャン」


 司祭のようなリザードは何かを言っている。それに同調するように、周りにいた黒いローブの魔物たちも片手を振り上げながら翼を左右に動かしていた。


 初めから歓迎なんてされていないダンジョンに、公正な判断など求めてはならない。歪んだ思想は、歪みでしか正すことができないからだ。


 ……何を始める気だろう。


 その瞬間だった――。


「ギギッ、ギギッ、ギッ! ギッ!」

 陰に隠れて様子を窺っていたが、司祭姿のリザードには見つかってしまったようだ。


『どうする? 手加減できるほどの相手ではないぞ』


 不条理なことにはたくさん遭ってきた。だから、相手が僕たちを仕留めようとしてくるのなら、僕も相手と全力で向き合うつもりだ。


 ブゥオオオオオオオオッ


 背後……――背中……!

 何かが後ろから現れて、同時に僕は身体ごと跳ね飛ばされた。


「お弁当屋さんっ!?」

 そういえば、忍にはまだ名前を名乗っていなかった。遠くのほうで彼女の声が聞こえて、やがて、薄れていった。


 ……召喚の術式か。何か違う。


(まずは、この巨体を何とかしよう……)


 赤い皮膚を持つ、巨大な鮫が牙をむき出しにして襲いかかってくる。


 ……それにしてもだ。鮫ならおとなしく水の中にいてほしいものだ。


「空を飛ぶなんて反則はやめてほしいんだけど」

 付与能力エンチャント――腕力増強ブースト脚力増加ダッシュっ!


 巨大な鮫を腹から持ち上げ、城の石壁に向けて投げつける。

 ドガッンッ……と、赤い鮫は大きな音を立てて石畳に落ち、ぴくりと尾ひれを震わせながら動くのをやめた。


 ……この隙に――。


 牢獄迷宮プリズンダンジョンの魔物は、見たことのない姿のものばかりだ。

 解析アナライズで見る限り、魔物の姿こそ違っても、魔素を核とした動力源を持っていることに変わりはない。


(これなら……いけるか。食材として)


「後ろっ!」

 忍の声――。振り返るよりも早く、僕は地を蹴り、大きく横に飛び退く。だが、その直後に目の前に巨大な火球が降り注ぐ。


(今度は一体なんだろう……)

 休む間もなくやってくる魔物の一撃を、とっさにペティナイフの切っ先に氷の術式を灯して相殺した。

 シュワアアアアッ……広がる蒸気の向こう側に、こちらを睨む四つの眼光。


 ……双竜か。この魔物、回廊で鎖に繋がれていたものだ。


氷槍アイスニードル

 僕は試しに、氷の術式を放つ。狙いは赤い首のほう。


「グワオッンッ」

 と、赤の竜を守るように、青竜が氷の盾で術式を相殺してくる。


 ……やっぱり、赤と青、それぞれ異なった能力スキルを持っているのか。

 どちらかの動きを止めなければ、狩りができない。

 だが、それほど時間もかけてはいられない。


「忍っ! 時間はっ」

「え! あ、はい。あと29分です」

 ……もう時間がない。


「にゃおおおーん」

 突然、空のほうから白い猫が降ってきた。


「わっ! びっくりした」

『すまんな……』

 辺りを見ると、双竜とは別の魔物たちが迫ってきていた。ナッツを弾き飛ばしたのは、赤い球体のような魔物だ。


『囲まれたな……』

「良い食材が集まってきてるんだけどね」

『狩る前に狩られそうだがな』

「大丈夫、ナッツさんは煮ても焼いても食べられないから……」

『それは褒め言葉か?』

「もちろん」


 とはいえ、このまま魔物たちに捕食されるわけにはいかない。


――解析アナライズ……!


 僕は周囲にいる全ての魔物に広範囲の解析能力を展開させた。


「時間がないです! あと19分っ」

 ……もうそんなに時間が経ったのか。

 忍の声を聞いて、僕はナッツのほうに視線を向けた。


「魔物を一体ずつ狩ろうとするから時間がかかるんだよね」

『何をする気だ……!』

「捕まえるんだよ」

 僕は足元に風の術式を展開させる。それを見て、僕のしようとしていることを理解した白い猫は魔物たちの前へと立ちはだかった。


『さぁて……時間もないし、そろそろ遊びは終わりだ』


 つまりは、時間稼ぎだ。僕が術式を展開させている間、ナッツには魔物たちを一箇所に集めてもらいたいのだ。

「にゃおおおーんっ!」

 白い猫の放った咆哮が、周囲の魔物たちの動きを黙らせる。


「術式構成……魔力・縫合、広さは視界の全て……展開――付与能力エンチャント――雷撃――!」


 風をまといながら、地を蹴り上げて跳躍し、魔物たちを見下ろす位置まで来たときだ。


「バインド・スネア《魔力拘束》!」


 僕の声に呼応し、術式で編み込まれた巨大な投網が魔物たちに覆いかぶさる。


 そこに……――すかさず、雷撃を浴びせた!


 ヒギイイイイ、ビビビビビビビビィイッ……。


……えっと、ベル・ハウルにベル・サラマンダー、キング・ベア……それに、クイーン・クラーケン、トマト・プリンスとエッグ・ミミックベルか……。


 魔物たちは網の中で電撃を浴びたまま、ピクピクしている。後は冷却の術式で、冷凍保存すれば……――。


 ギギ、カタカタカタカタ……。

 司祭の服を着たスケルトンリザードが後ろへ下がろうとしている。逃げるつもりだ。

 ……もう時間がない。ここで逃げられるわけにはいかない。


「私がリザードを止めます!」

 投網で動きを封じられた魔物たちを飛び越えながら、忍が疾走する。スケルトンリザードの前に飛び出した。


「ギギッ!」

 司祭が背中を向けて逃げ出そうとしたそのときだ。

「え……?」


 グサッ……コトリ……パタン……。


 スケルトンリザードの槍が忍の胸を貫いた。そのまま、力なく少女の膝は崩れて地面に倒れ込んだ。


 ……忍?

 最後までお読みいただき、ありがとうございます!


 もし「面白かった」「続きが読みたい」「お弁当が美味しそう」と少しでも思っていただけましたら、

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 これからも湊たちの日常と冒険を温かく見守っていただけると嬉しいです。

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