エピソード81 冷蔵庫強制封印ハンバーグ監禁事件【縛られた無銭飲食少女に、夕飯の唐揚げまで献上してしまう弁当屋のシェフ】
……勘違いではないだろう。
人様の家の冷蔵庫を使えなくした犯人は、おそらく――目の前にいるこの客……。
年の頃は20歳には少し届かないくらい。カジュアルな和服に身を包み、臆することなくこちらを見据えた少女は、置かれた立場を気にせずに、へらへらと笑っている。
「何で急に縛り上げるんですか?」
能天気に言う無銭飲食宣言の少女に、朱里と栞奈は店にあった紐で、とりあえず椅子ごと縛り付けていた。
「この流れだと、君が『冷蔵庫強制封印ハンバーグ監禁事件』に関わっている可能性が高いからね」
「……ハンバーグ……事件?」
『あれは、私のものだ』
続いて、すかさずナッツがテーブルの上に乗って、彼女の顔を覗き込むように念話でぼやく。
「きっと……誤解ですよ。わたしはたしかに冷蔵庫にダンジョンがあることを知っているけど、ハンバーグ完食事件には関わってませんから」
『私はまだ食べていないぞ……完食でなく監禁だ』
イライラしながら言う白い猫を抑えながら、僕は改めて事情を聴くことにした。
お店の閉店時間も近づく頃……――。
少し早めにハクリュウ弁当の営業を終えることにした。
うっかりと昼食を逃したサラリーマンの客がお店に入ってきて、後ろ手に縛られている少女を発見する……などの事態が起きれば、間違いなく変な誤解が生まれるだろう。
「はい。お弁当」
僕は出来立ての深層のスコッチエッグ弁当とヘルコンドルのチキン南蛮弁当をテーブルの上に並べておいた。
「あの……すみません。これだと食べられないのですが……」
後ろの手をもぞもぞと動かしながら言う彼女を見てから、僕はちらりと栞奈のほうを窺う。
……ある意味で、お腹をすかせた子の目の前に弁当を置いて縛り付けているのは拷問のようにも思えるが、ダンジョンについての情報を聞き出すまではお預けにしておこう。
「君は何者?」
「全然、怪しい者じゃないですよ。お金ないだけです。それで、食べさせてもらえる人にねだってここまで来ました」
……人としていいのか、それで。
「私は探索者の霧島忍といいます。怪しい者じゃないです」
そう言いながら、少女は両手を縛られたままの姿勢で、首から下げた紐を手繰り寄せると、スマートフォンを取り出した。
……たしかに、嘘は言ってないようだ。
すでに起動した液晶画面には、探索者のライセンスコードと彼女の名前が記載されている。
「霧島……忍……」
ぽつり、と呟くように言ってから、栞奈は考えこんでいる。忍は気にせず、弁当を見つめながら目を輝かせていた。
「身元も分かったところで、早速お弁当をいただきたいのですが……」
「……霧島――そうか。君は、不死者の冤罪か」
思い出したように、驚いた様子で栞奈は言った。
「アンデッドテイカー……? 私たちと同じ探索者なのね」
朱里は忍の顔を見ながら、少し残念そうに言った。
……探索者と言えば、強くて聡明で人のために働く者である。そんな印象を朱里は持っていたのだろう。それが、目の前にいる忍にはその気配がなかった。
「はい。私はARCANA所属で、不死者の冤罪として極秘任務についています」
「極秘とか言ったら、ダメだよね。極秘じゃなくなるから……」
僕がそう言うと、彼女はなぜか胸を張って返してくる。
「大丈夫です。内容まで伝えてなければセーフです」
「……そういうものなのかな」
妙に説得力のある忍の言葉に、とりあえず納得させられる。間を置いてから、お茶を淹れながら栞奈は言った。
「それで、極秘任務を遂行中の君が、どうして冷蔵庫のダンジョンのことを知っている?」
「極秘なので、深くは話せませんが……最近、頻繁に発生したダンジョンの処理と、その原因を突き止めるのが任務でして、ちょうどこの辺りのお弁当屋さんにダンジョンが出現したようなのでやってきました」
「任務内容を言っちゃったね……」
「あ」
問われて、一瞬、硬直する忍。僕がやれやれと小さく息を吐いていると、彼女は続けた。
「大丈夫です! ここにいる皆さんが聞かなかったことにしてくれれば、何も問題ありません」
……君がそう言うなら、僕はもう何も言わないけどね。
とりあえず……――ダンジョンが出現した理由はわからないが、忍が犯人ではないようだ。
忍の両手を縛っていた紐を外すと、よほどお腹が空いていたのか、何も言わずにお弁当を食べ始めた。
彼女が二つ目のチキン南蛮弁当を食べ終えるのを待ってから、僕はこれまでの経緯を説明した。
「つまり、施錠されたダンジョンが冷蔵庫の中にあって、扉を開くには認証が必要……こういうことですね」
食べ終わった弁当を、隅々まで見渡しながら忍は言う。ふと彼女の視線が、厨房の奥にある唐揚げたちの盛られた器に向いているのに気がついた。
……仕方ないか。
夕飯にと用意しておいたものだが……僕は厨房から、唐揚げを皿に乗せて忍の前に置いた。
「それは……もぐもぐ、間違いなく牢獄迷宮です……もぐもぐ……」
唐揚げを頬張りながら、忍は言った。
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