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『始原の帰還者、札幌でひっそりお弁当屋を始めます〜深層の魔物で作った『魔素抜き弁当』が美味しすぎると探索者たちの間で話題な件〜』  作者:
四食目 連続襲撃犯の濡れ衣を着せられたけど、すべては極上の『始原の魔物』を仕入れるための布石。仲間を遠ざけて裏で護衛に回る、【不器用で暗躍する凄腕シェフ】

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エピソード64 朱里を狙う憑依者と王政の銀糸。開幕した魔物同士の怪獣戦争【特撮映画を見物するシェフ】

 ニタリ……。

 貧相な術者の肉体を大ぶりに動かし、グレイドは顔を歪ませて笑った。


 最初にグレイドは三田の中にいた。だが、瞬間的な魔力の放出に耐えきれず三田の肉体は崩壊し……グレイドはもう一人の探索者に肉体を乗り換えた、ということだろう。


『憑依者……か』

 グレイドを警戒しながら、ナッツは念話で言う。


 ……何らかの精神体、あるいはグレイドそのものが魔物……それならば、魔力を有している肉体への干渉は起きない。


『ダンジョンの外でも動きまわれる魔物になるな』

 ……魔素のない世界で魔物が活動することは不可能だ。

『探る必要があるな』

 ……そうだね。まだ断定ができない以上は、グレイドについて調べる必要がある。


「貧相な肉体はいただけませんね。私の趣味ではない」

 そう言って、グレイドはよろりとこちらに近づいてくる。


「でもまぁ、そこにいる東雲の娘を依り代にするまでの代わりですがね」

 男の視線が朱里を捉えた。獲物を見つめるような、酷く嫌な目つきをしている。


「……っ」

 ヒカリの指先に力が込められた。それに気がついてか、グレイドはヒカリのほうに体を向ける。


「それとも、ヒカリ。あなたの使っている体を私にいただけますか?」

 まるで面白がっているように、グレイドはクツクツと笑ってみせた。


 ……なんか、感じの悪い人だ。


 白い猫が肉球に力を込めた。

 ナッツの耳がぴくりと動き、警戒するようにイカ耳になって周囲を窺う。


「た、隊長っ、魔物たちがっ!」

 大盾で魔物たちを抑え込んでいた探索者が大声で叫んだ。

 だが、呼ばれた隊長……半田もまた、魔物たちを牽制するだけで手が離せない様子だ。


 じりじりと追い詰められていく。円周を囲むようにして身構える魔物たちは、グレイドの術式の影響だろうが、狂乱の状態異常に陥っているようにも見える。


「キリがないな」

 探索者ランクB級の半田にとって、魔物単体の強さはそれほどでもない。あくまでも個体としての強さであれば、彼なら十分に対処できるレベルである。


 だが、いかんせん数が多いのだ。種類も多様で、威嚇してくる魔物の手数も異常に多い。受け流し、防ぐだけで精一杯のようだった。


「二階堂っ。どれくらい持ちこたえられる!」

 切迫した口調で半田は言う。二階堂と呼ばれた盾役の男は、半ば投げやりに返した。

「無理です! 数が多すぎます!」


 二階堂の使う大盾には何らかの術式が施されているようだ。彼は正面に位置する魔物たち、数十体を一挙に相手取っていた。

 やむを得ず、半田は剣を構えたまま、ちらりと背後の遠くを見た。


「後ろの部屋まで戻るぞ」

 そう言って、半田は大きく跳躍し、魔物の一体に飛び乗ると、次々に切り伏せていく。先導して退路を作るつもりだろう。


 とっさに朱里も術式を展開する。が――。


「無駄ですよ。ダンジョンの魔素は無限ですからね」

 グレイドの言葉に呼応するように、それまで統制が取れていなかった魔物たちの敵意が、一斉に半田の方へと向けられた。


「……違う」


 小さく動いたヒカリの口元から、ぽつりと言葉がこぼれる。

 彼女の周囲に、幾つもの幾何学模様を描く術式が出現した。グレイドを見つめるその眼差しには、どこか不安の色が隠れていた。


「わたしは、あんたとは違うわ」

「何が違うのです? 我々が長年抱いていた、悲願の達成ではないですか」

「悪いけど……あんたと同郷とは思われたくないのよね」


 ヒカリは生み出した不可視の針を両手の指先に捉え、グレイドを前にして臨戦の構えを取った。


「なるほど、あなたはそちらにつくおつもりですか? でも……いいんですか。せっかく、ARCANA(アルカナ)という組織を破滅させるチャンスだというのに……」


 ……ARCANAを壊滅、か。そんなことを考える者は、やはり――


「あんたの力なんて借りなくても、わたしはわたしのやり方で取り戻すまでよ!」


 指先に構えた見えない針を、ヒカリはグレイドに向かって解き放つ。


「こんなもので、私をどうにかできるわけが……――」

 何かに気がつき、とっさにグレイドが術式を発動させる準備に移る……が、それよりも少し早く、ヒカリの出現させた魔力の波が周囲へと広がった。


「王政の銀糸レガリア・ライン!」


 そう言って――ヒカリを中心に見えない光でできた糸が無数に伸び、周りにいる魔物たちを次々と縛り上げていく。


「これは? どういうことだ」

 魔物と対峙していた半田は、一瞬にして力が抜けたように動かなくなった魔物たちに目を奪われた。


 グレイドは動揺する気配も見せずに、クツクツと嫌な笑みを浮かべる。

「ほぉ、なるほど。魔物を使役する能力ですか」


 それまでグレイドが指揮をしていた魔物たちが、ヒカリが解放した術式によって下僕化されていた。それを見たグレイドは、やれやれといった顔で小さくため息を吐いた。


「形勢逆転ね」

「こんなもの、ただ数が多いだけのこと……しかし、分が悪いのは理解しよう」


 ……ただの悪あがきか。

 吐き捨てるようにそう言うと、グレイドは指をパチリと鳴らした。


「我が分体よ、かの者たちを襲え、捕らえよ」


 力を持った魔力が……いや、明らかに魔力とは違う、魔素にも似た力の奔流が、グレイドの周りに渦を作り出す。魔素は形を作り、悍ましい魔物の姿へと変貌していく。


「くっ……まだ余力を残していたのね」


 互いの魔物たちが、怪獣戦争のように激しく威嚇し合う。


 ……まるで特撮映画だね。

『私も同感だな……』


 ナッツは周りを見渡した。区別のつかない二つの傀儡(くぐつ)となった獣たちを見比べながら、どうしたものかとヒゲを揺らした。


 ――始まった!


 魔物同士の、壮絶なバトルの開始だ。

 巻き込まれないように、ヒカリは大きく後ろへと跳び退り、階段の手すりに飛び乗った。


「わたしが抑え込んでいるわ。あなたたちは逃げなさい!」

「でも……!」


 一瞬、朱里はためらう。だが、今の自分がここにいても足手まといになるだけだとすぐに気がつき、朱里はこくりと力強く頷いた。


「ミナトから連絡があったら教えてよね」

 横を走り抜けていく彼女に向けて、ヒカリは言った。


「……わかったわ!」


 朱里は振り返らずに、十五階層の最初の部屋を目指して駆け出した。その後から、半田と盾役の二階堂も必死に続いた。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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