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『始原の帰還者、札幌でひっそりお弁当屋を始めます〜深層の魔物で作った『魔素抜き弁当』が美味しすぎると探索者たちの間で話題な件〜』  作者:
四食目 連続襲撃犯の濡れ衣を着せられたけど、すべては極上の『始原の魔物』を仕入れるための布石。仲間を遠ざけて裏で護衛に回る、【不器用で暗躍する凄腕シェフ】

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エピソード56 「何なのよこの巨大なスライムはっ!」。物理攻撃を無効化する砂の変異体と、絶望を形取る地竜(アース・ドラゴン)【災害級の変異体と出会うシェフ】

 砂……だった。


 猛烈な勢いで、波立つ砂のうねりが、山脈を溶かしながら迫ってくるのが見えた。


 朔とヒカリはちらりと後ろを見る。すぐ背後には、亡骸の渓谷が真っ黒な口を開けて待ち構えている。


「……何よ! あれ」


 問われても、朔にも明確な答えは分からず、ただ目の前に迫りくる砂塵の嵐をじっと見つめていた。


『……アイツ、砂を飲み込んだようだな』


 巻き上がる粉塵の先を見つめ、ナッツが静かに言う。


 ……本来、あの魔物はこれだけの規模の魔力を保有していないはずだ。


「亜種……だ」


 朔がこぼしたその短い言葉が、砂塵の向こう側から迫りくる巨大なバケモノの正体を示していた。


「あれが、亜種……」


 呆然と立ち尽くすヒカリは、目の前の絶望的な光景に完全に目を奪われている。彼女のほうを一瞥し、朔は長剣を鋭く一振りした。おそらく、何らかの術式を刀身に施したのだろう。


「行くぞ……」

「どうするのよ! あんな化け物、勝てるわけがないじゃない!」

「……止める」

「無理よ! 大体、何なのよ、あれ!」

「亜種だ……」

「それはわかったわよ! そうじゃなくて、何者かもわからない相手とどうやり合うのよ!」

「戦いながら……探ればいい」

「バ、バッカ! あんた、本気なの!?」

「…………」


 朔はそれきり何も言わず、強く地を蹴り上げた。

 肩に乗るナッツの視界には直接映らないが、後からヒカリがしっかりと追いかけてきているのはわかった。


「朔か……すまねぇっ!」


 討伐隊の一人が、吹き荒れる砂塵に視界を奪われながら必死に疾走してくるのが見えた。朔は自身の速度を若干落とし、その隊員と並走するように横につく。

 そこにヒカリの姿はない。どこか別の安全な場所から、こちらの様子を窺っているのだろう。


……正体不明の巨大な魔物が迫っている状況で、わざわざ正面から近づこうとするほど愚かではない、というわけか。


「何も言うな……走れ」

「んなこと、わかってる! それよりどうするんだよっ」


 悲痛な声で問われ、朔は走りながらしばらく黙り込む。そして、背後から猛スピードで追いかけてくる巨大な魔力の塊をちらりと見やり、ポツリと言った。


「……考える」

「あー、もういい! オレはいったん離脱する! 体勢を立て直したら参戦するからな!」

「……わかった」


 そう言い残すと、隊員は大きく跳躍し、岩陰の向こうへと姿を消した。安全圏へ退避したのだろう。


 朔は疾走する速度に自らの風を乗せ、背後に迫る強大な魔力から一気に距離を取る。

 ある程度の距離を稼いだことを確認すると、足元の砂を滑らせるようにして大きく振り返った。


「……巻き上がれ」


 両手で構えた長剣の切っ先から、吹き荒れる砂塵とは別種の、鋭い嵐が巻き起こる。

 放たれた烈風は、目の前に迫る魔力の渦へと真っ向からぶつかり合い、巨大な魔物の勢いを力ずくで抑え込もうとしていた。


……風に風をぶつけて、威力を相殺しようとしているようだ。


ぐらり、と……――


 砂を帯びた巨大な魔物は、その大きな身体を震わせた。

 一瞬、朔は剣を握り直すが、そのすぐ後に魔物の動きがピタリと止まった。


『朔のやつ……能力を隠していたのか』


 そう言うナッツは、どこかほっとしたように見えた。

 ……何かあれば助けようとしていたのだろう。弟子思いになったものだ。

『勝手に言ってろ……』


 朔の背後から、ヒカリの声が聞こえた。


「ホ、ホントに止めた……」


 振り返ると、彼女の瞳には驚きと感嘆の色が浮かんでいるのがわかった。


「無事か……」

「わたしを誰だと思ってるのよ」

「……知らない」


 そっけなく返されて、少女はやれやれといった様子で肩をすくめた。


 砂を帯びた魔物は、大きく身体を震わせた。


『オォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!』


 大地が揺れ、風が舞う。表皮から大量の砂が削ぎ落とされて現れたその真の姿に、ヒカリは思わず言葉を飲み込んだ。


「……ウ、ウソでしょ」

「亜種だ」


 目の前のそれが物語っている異様な姿に、朔は冷静に答えた。


 ……亜種とは、本来あるべき魔物が何らかの要因で強力な魔素を体内に蓄積し、突然変異を起こした個体のことだ。それは、つまり――


「何なのよ! この巨大なスライムはっ!!」


 ……つまり、こういうことだ。この魔物、元はただのスライムなのだろうが、地属性の魔素を大量に吸い込んだことで、砂と岩から構成された巨大なスライムへと変貌したのだろう。


「……よくあることだ」

「最弱のスライムの変異体が、どうして災害級のバケモノになってるのよ! そんなのあるはずないじゃない!」

「……いる。目の前に」


 その瞬間、それまでこちらを窺っていた砂スライムがうねりと共に形状を変え、無数の細長い石の槍を生み出して襲いかかってきた。

 寸前――朔は風を纏った長剣で、迫り来る岩槍を軽々と受け止めていなす。


「形を変えられるなんて厄介ね! で、作戦は!?」

「……探る」

「えっ? それってどういう意味よ!」


 朔からの返事は途中で途切れ、風を纏って跳躍した彼の足は、瞬時に巨大なスライムの表皮を捉えていた。


「こうする……」


 そう言って、朔はスライムの中心に向けて勢いよく長剣を突き立てる。


「!?」


 が、その瞬間。剣に手応えはなく――スライムの身体はサラサラとした砂に変貌し、斬撃を無効化した。


 ……なるほど。自在に体の形状を砂に変化させることで、物理攻撃を受け流せるというわけか。


「……砂か」

「わかったでしょ! このスライム……わたしたちが思っている以上に厄介な相手よ!」

「………」


 再び砂を集め、新たな形を成し始めたスライムに向けて、二人は鋭く視線を向けた。


「どうして……!?」


 その信じられない光景に、ヒカリは思わず声を漏らした。

 今までそこにあったような、ただの無形の砂の塊ではない。

 明らかに、その魔物は絶対的な力を持つ上位種の姿へと変貌を遂げていた。


 ……地竜アース・ドラゴン

 それこそが、彼らの前に姿を現した絶望の正体だった。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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 これからも湊たちの日常と冒険を温かく見守っていただけると嬉しいです。

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