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『始原の帰還者、札幌でひっそりお弁当屋を始めます〜深層の魔物で作った『魔素抜き弁当』が美味しすぎると探索者たちの間で話題な件〜』  作者:
四食目 連続襲撃犯の濡れ衣を着せられたけど、すべては極上の『始原の魔物』を仕入れるための布石。仲間を遠ざけて裏で護衛に回る、【不器用で暗躍する凄腕シェフ】

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エピソード55 不可視の大群を一掃する真空の刃。見通しの良い渓谷に響き渡る悲鳴と、得体の知れない轟音【猫と見学するシェフ】

 最初に動いたのは朔だった。


 虚空に視線を巡らせ、見えない魔物に向けて一撃を繰り出す。


 ザシュッ!


「……っ!」


 声にならない覇気とともに放たれた長剣の斬撃は、見えない魔物の一部を浅く薙いだだけ……だが、それは魔物を狩るための一撃ではなく、隙を作るためのものだ。


 ーーすかさず、朔はナッツを肩に乗せると、ヒカリの細い体を抱え込み、足元の岩肌を大きく蹴り上げた。


 その瞬間だった――ピギュイイイイッ、ガドンッ!


 強烈な羽音とともに、先ほどまで彼らがいた岩場が、目に見えない衝撃で粉々に砕け散った。


『超音波……か。厄介だな』

 ……じっとしていると、見えない音波の餌食になる。かといって、相手の姿が隠蔽されている以上、回避するのも困難だ。


「……ここにいろ」

「わたしも戦うわっ!」


 ヒカリの抗議をよそに、彼女を安全な岩陰に置き去りにして、朔は再び地面を大きく蹴り上げた。


 ……相変わらずの猪突猛進ぶりだ。


 だが、体重を乗せて振り下ろした長剣の一撃は、見えない魔物の気配をしっかりと捉えていた。

 空間から唐突に現れ、斬り伏せられて落ちていく魔物たちを一瞥し、朔は長剣に力を込める。そして、何かの術式を刀身に施した。


「……風よ、働け」


 小さく呟く彼の声に呼応するように、一振りした剣の軌跡から見えない風の刃が迸る……ーー!


 それは属性の付与能力とも違う、極限まで圧縮された真空の刃に近い一撃だった。

 朔の放った風をまとった斬撃は、空間を切り裂き、群がる見えない魔物たちを蹴散らすように吹き飛ばしていった。


「朔、今の……剣技は――」

「……油断するな」

「わ、わかってるわよっ」


 ヒカリは慌てて立ち上がると、腰の短剣を手に構えた。


「左から来る……」


 朔の視線が動いた瞬間、見えない何かがヒカリの目の前を鋭く横切った。


「え? きゃっ!」

「どうした……戦え。死ぬぞ」

「わ、わかってるってば!」

「次は……上から……」


 彼の言う通り、羽音を唸らせた魔物が頭上から襲いかかってきた。


「うわっ、ととっ……!」


 ヒカリは朔に無造作に襟首を掴まれ、引き寄せられるようにしてギリギリでそれを避けた。


「来るぞ……」

「って、ちょっと待ちなさいっ!」


 思わず、朔の人間離れしたペースについていけず、ヒカリは悲鳴のように叫んだ。


「どこをどう見たら、その見えない魔物たちが見えるわけ!?」

「どこって……いるだろ、そこに」

「うーん、見えないんだけど!」

「ここだ……」


 ザスッ!


 目の前の何もない虚空に向かって朔が剣を突き出すと、緑色の体液とともに虫型の魔物が串刺しになり、そのまま岩壁へと縫い付けられた。


「羽音だ……動くとき、微かに風の軌道が変わる」

「風……?」


 ヒカリの疑問に答える代わりに、朔は新たな術式を展開し――全身に淡い風の衣を纏った。

 目に見えない魔物の軌道を、風の振動から読み取り、わずかな差で避けて受け流す。纏った風の気流を自在に操ることで、不可視の攻撃を回避しているようだ。


『……そうは言っても、だな』

 並の探索者にできる芸当ではない。おそらく、彼自身の固有スキルなのだろう。


 姿を隠した魔物たちを、まるでその姿がはっきりと見えているかのように、朔は次々と一掃していく。

 最後の一体にトドメを刺すと、彼は鋭く剣を一振りし、静かに鞘へと納めた。それが、この場における討伐完了の合図だった。


「……」


 肩に乗る白い猫が無事であることを確認してから、朔は岩陰のヒカリに向かって言った。


「大丈夫か……」

「そうね。猫よりもあとに心配されるのが癪だけど、怪我はしてないわ」


 衣服についた砂埃を払いながら、ヒカリは立ち上がり、少し不機嫌そうに口を尖らせて返した。


「ねぇ、朔。今のが、さっき言ってた魔物の亜種?」

「……違う」

「じゃあ、あれよりも厄介なのが来るってわけね」

「…………」


 何も言わず、朔はただ小さく頷いた。


 ヒカリの心配をよそに、あれから間もなく、彼らは目的の『亡骸の渓谷』へと到着した。


 大地を切り裂くような深い谷底は、漆黒の闇に閉ざされて底が見えないほどだ。周囲を見渡してみても、別ルートを進んでいるはずの他の隊員たちの姿はない。


「やっと着いたわ。ここが亡骸の渓谷なのね」


 魔物さえいなければ最高のピクニック日和だと言わんばかりに、ヒカリは清々しい顔で深呼吸をした。


「……ここは見通しがいい。魔物が来ても分かる」

「不吉なこと言わないでよね。こんなところで襲われたら、わたしたち谷底に真っ逆さまよ」


 そう返すヒカリに対し、朔はちらりと谷の向こう側へと視線を向けた。


「……飛べないのか?」

「できるわけないでしょ!」

「……どうする」

「だから、言葉が足りなすぎて何を言いたいのかわからないのよ!」

「飛ぶのか、飛ばないのか」


 一体何の話をしているのか分からず、ヒカリは頭を抱えて深いため息を吐いた。


 と……――その時だった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 遠くの方から悲鳴が聞こえた。人の声だ。この時間、このダンジョンには討伐隊以外の人間はいないはずだ。

 だとすれば……あの悲鳴の主は、他の隊員の誰かということになる。


 朔は鋭く振り返り、そっと長剣の柄に手を添えた。


 ――ドボドボドボボボボッ!


 突如として、不気味な音が渓谷に響き渡る。地面が裂けだしたかのような轟音と、それに伴って近づいてくる激しい揺れが、予想すらできない『何か』が急速に接近してきていることを知らせていた。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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 これからも湊たちの日常と冒険を温かく見守っていただけると嬉しいです。

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