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『始原の帰還者、札幌でひっそりお弁当屋を始めます〜深層の魔物で作った『魔素抜き弁当』が美味しすぎると探索者たちの間で話題な件〜』  作者:
四食目 連続襲撃犯の濡れ衣を着せられたけど、すべては極上の『始原の魔物』を仕入れるための布石。仲間を遠ざけて裏で護衛に回る、【不器用で暗躍する凄腕シェフ】

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エピソード54 赤く染まった『魔物たちの墓標』。一番安全なルートに潜む、見えない亜種の大群と【猫を最優先する天然剣士を見守るシェフ】

 風が鳴った。


 地鳴りのような響きが、地面を這うようにして乾いた砂を巻き上げる。途方もなく果てのない赤銅色あかがねいろの岩肌は、波打つようなうねりを見せながら壮大な山脈地帯を形成していた。


 エリアFC2……――Fossil Canyon(化石渓谷)。


 討伐隊の第五部隊がダンジョンゲートをくぐり抜けた先に広がっていたのは、視界の果てまで続く、その赤く染まった大山脈群だった。


 彼らを迎え入れるかのように、気の遠くなるような年月をかけて削り出された美しい断層のそこかしこから、太古の巨大な魔物たちの真っ白な骨が突き出している。


 荒涼とした大地に無数に眠る、魔物たちの残骸。その異様で圧倒的な光景から、探索者たちはいつしかこの地を『魔物たちの墓標』と呼んでいた。


風の音に紛れながら、ナッツが静かに呟く。


『……まるで、偶像の象徴だな』


 その目に映る景色の先には、永遠に続いているかのように広がる果てしない世界がある。


 ……偽りと真実の境界線なんてどこにもないのだから、答えを求める必要はない。


『求めるものが違えば、それもまた真実であろう……か』


 魔物たちの亡骸は、うねりのある岩壁に飲み込まれるようにして鎮座している。深い眠り……もう二度と訪れない朝を待つようにして、ただ長い年月が過ぎるのを待っているようにも思えた。


 ……真実は結果ではない。可能性の中にこそ、真実があるものだ。


『だが……可能性という夢の果てが、この世界なのか? そうならば、求める意味などなかろう』


 世界は時代とともに移ろう。このダンジョンが見せている姿は、未来の現実世界を連想させるような悲痛な叫びにも思える。


 ……それは――真実を一つに絞ってしまうから起きてしまう、偶像の支配に過ぎないのかもしれない。


 ゲートを抜けた後、朔の肩の上から、白い猫はふわりと乾いた地面に降り立った。

 すぐその後から、隊長の号令が砂の嵐の中にこだました。


「このダンジョンがどういう場所かは、どういう場所かわかっているな」

「はいっ!」


 荒れ狂う風の音を切り裂くように、隊員たちの力強い返事が響く。


「ここは文字通り、魔物たちの墓場だ。いいか、お前たち。決して油断するな」


 そう言うと、神代隊長は近くの岩壁にめり込んだ巨大な魔物の骨を強く叩いた。ゴツン、と鈍い音が響き、その圧倒的な硬度とこの地の危険性を無言で強調する。


「我々の目的は、この先にある亡骸の渓谷……エリアFC2における異変の調査だ。報告によれば、現在このエリアの魔物は極めて不安定になっている。通常はFからCランクの魔物が生息しているが、実力だけで言えばBランク相当の個体が現れる可能性もゼロではない」


 隊員たちの間に、張り詰めた緊張が走った。


「渓谷は広大だ。ここから先は、我々六人を二名一組の三つの班に分けて行動する」


 神代は鋭い視線を隊員たち一人一人へと向けていく。


長谷部はせべ美濃みのはA班。私と金ヶかながえはB班。そして……――」


 的確に指示を出しながら、最後に視線を向けた先には、無表情な剣士と、目深にローブを被った小柄な少女。


「朔とヒカリはC班だ。各自、探索ルートは端末の地図で確認しておくように!」


 神代が朔たちに割り当てたC班のルートは、三つの中で最も安全とされる経路だった。足場が悪く道こそ険しいものの、過去のデータから見ても魔物の目撃情報が極端に少ないエリアだ。

 新入りであるヒカリの力量を測りかねていることと、マイペースすぎる朔のペアに対する、隊長なりの配慮なのだろう。


「じゃあ、行こうか!」


 元気よく振り返るヒカリに対し、朔は無言のまま足元のナッツを見た。


「……行こう」

「ちょっと……」


 声をかけたのが自分に対してではなく、白い猫だったことに、ヒカリはやや不機嫌そうな顔を見せる。


 足場の悪い岩場を難なく飛び越えながら、朔はダンジョンの奥へと進んでいく。そのすぐ後を、白い猫が表情一つ変えることなくピタリと追いかけていた。


「ちょっと……ペースが速くない!?」


 走りながら、風の音に掻き消されそうになるヒカリの抗議の声に、朔はいったん立ち止まる。


「……速かったか」

 そう呟くと、朔はスッとナッツを抱きかかえ、自分の肩に乗せた。

「猫の心配じゃなくて、わたしの話を聞きなさいよ!」

「……わかった」


 仕方なく、朔は近くにあった見通しの良い岩の上に腰を下ろした。


 ……ゲートを出発し、走り続けること三時間ほど。


 今のところ、周囲に魔物の気配はない。亡骸の渓谷の最深部までは、ここからさらに全力で走って小一時間ほどかかるだろう。

 ヒカリは端末の地図を取り出しながら、自分たちの現在位置を確認した。


「亡骸の渓谷の調査って、具体的には何をするわけ?」


 それは誰にというわけでもなくこぼしたヒカリの疑問だったが、珍しく朔が口を開いた。


「突然変異の亜種の討伐だ。……魔物たちの墓標には、時々、そういうのが出る」

「亜種……?」


 ヒカリが続きを問おうとした、その時だった。

 彼女の言葉よりも先に、朔の抜いた長剣が何もない空間を鋭く薙ぎ払った。


「な、な、なに!? 一体!?」


 ヒカリが驚くのも無理はない。隠蔽能力を使った虫型の魔物が、背後から彼女に襲いかかろうとしていたのだ。正確には、魔物が彼女を刈り取ろうとした瞬間に、朔が真っ二つに斬り伏せたのだが……。

 ザシュッ、と気味の悪い音が響き、緑色の体液を撒き散らしながら、空間から唐突に現れた巨大な虫の死骸が地に落ちた。


「こういうことだ」

「いや、全然わからないけど!」


 思わず反論するヒカリだったが、直後、周囲の空気を圧迫するような重い気配に気がついた。

 ……囲まれていた。何もないはずの空間に潜む、おびただしい数の見えない魔物たちに。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます!


 もし「面白かった」「続きが読みたい」「お弁当が美味しそう」と少しでも思っていただけましたら、

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 これからも湊たちの日常と冒険を温かく見守っていただけると嬉しいです。

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