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『始原の帰還者、札幌でひっそりお弁当屋を始めます〜深層の魔物で作った『魔素抜き弁当』が美味しすぎると探索者たちの間で話題な件〜』  作者: 姫宮澪
四食目 連続襲撃犯の濡れ衣を着せられたけど、すべては極上の『始原の魔物』を仕入れるための布石。仲間を遠ざけて裏で護衛に回る、【不器用で暗躍する凄腕シェフ】

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エピソード50 看板娘の初めての店番と、突然現れたミステリアスな『幼なじみ』。不穏なニュース速報と【お店を留守にしている凄腕シェフ】

 お昼を少し過ぎた頃……――。


 通りを行き交う車たちの数も少しずつ減っていく。お昼どきを過ぎると街の様子も変わり、少しずつ静かな時間の流れへと落ち着いていく。午後の活動に向けて、それぞれが英気を養う時間なのだろう。


 ハクリュウ弁当の店内には、柔らかな陽射しが差し込んでいた。床に真っ白な光の模様を描き出し、春の光を浴びた空間は心なしか誇らしげに見える。


 寝ぼけた様子のまま、白い猫はゆっくりと首を持ち上げた。天井まで届きそうなくらい大きな、縦長の窓の向こう側……――。店名の入ったのぼり旗がほんの少しだけ風に揺れるのが見え、そのすぐ後に、すっと人の姿が横切る。


 ……お客さんが来たようだ。


 足早に歩いていたその人影はふと立ち止まり、ガラガラっと、ガラスの引き戸をゆっくりと開けた。


「こんにちはー!」


 元気な声が店の中に響き、白い猫の耳がぴくりと跳ね上がった。

 ……朱里だった。今日もこれから探索者の仕事があるのか、それとも仕事の合間に抜け出してきたのか、これからダンジョンに入るような軽装備の装いだ。

 ……相変わらず、華奢な身体には似合わない双剣を左右の腰にぶら下げている。


 朱里はきょろきょろと店内を見回している。声をかけたのに誰も反応しないことに、疑問を持ったのだろう。


「……湊さん?」


 何かに気がついたのか、彼女はずらりとテーブルの上に並べられた弁当たちに近づいてくる。


「わっ、今日はどうしたのよ! こんなにいろんな種類のお弁当が並んでる……しかも、どれも可愛い!!」


 ……『可愛い』の基準はわからないが、朱里は一人で感激しているようだった。


 弁当を選びながらカウンターの奥を覗き込んだ彼女は、白い猫の首から下げられた小箱を見つけたようだった。


「代金はこちらへ……?」


 朱里の視線が、猫の隣に置かれた小さなホワイトボードに留まる。


「『ちょっと出かけてきます。ハクリュウ弁当、ミナト』……?」


 棒読みで音読してから、何かに気がついたように白い猫……ナッツに視線を落とした。


「ナッツさんが一人で店番?」


 とりあえず、朱里には念話は使えないので、ナッツはゆっくりと尻尾を振って肯定の反応を示してみた。


「そっか。今、湊さんはいないのね」


 待合用の長椅子に腰を下ろしてから、朱里はナッツのほうを向いて言った。


「湊さん、どこにいったんだろうね」


 彼女の笑顔が、どことなく寂しげに見えた。


「鬼火のこと、きちんと話をしてないし……あれから、いろいろ栞奈(かんな)さんから話聞いて、湊さんにお礼を……ううん、お礼というのは違うかな……私のせいというのも半分くらいはあるし……」


 誰にともなく呟く彼女に、ナッツは小さくため息を吐く。


『別に朱里のせいじゃない。あれはミナトが勝手にやったことだ……』


 と、ナッツは伝わらない思いを漏らす。


「ナッツさん。どう思う?」

『何の話だ……』

「私、きちんと湊さんと話をしたい」

『だったら、すればいいだろう』

「でも、上手く話せないんだよね」

『なんでだ。ミナトに気を遣わなくてもいいのだぞ。どうせ、肉のために動いただけだしな』

「理由なんて、どうでもいいのよ」

『えっ!? 私の声が聞こえているのか!?』

「私はただ、自分のことを湊さんに話したいだけなのかな、と思う」

『なんだ。朱里の独り言か……びっくりした……』


「ねぇ、ナッツさん。湊さんはどこにいったんだろうね」

『私は知っているが、教えないぞ』


 ふぅ……と、朱里は深いため息をこぼしながら、両足をぱたぱたと揺らした。


ガラガラ……。

 引き戸の音が聞こえ、静かな店内に活気が生まれる。近所の常連さんたちがやってきたのだ。


「今日のお弁当は何にしようかな」

「あんたはいつものカツ丼でしょうが」

「いつもじゃないぞ。俺だって、たまには豚汁弁当にするときだってある」

「まぁまぁ、二人とも。まずはお店に入ろうよ」


 賑やかにお店に入ってきたものの、常連さんたちも誰もいないカウンターを見て戸惑っている。


「……ん? この猫にお金を支払えばいいのか?」

「ハクリュウ弁当さんはいないの? どこにいったのかしら」


 朱里は慌てて長椅子から立ち上がると、


「湊さん……いや、今、店長は席を外していまして! こちらのお弁当から選んでもらって、その……代金は、そこの白い猫の箱に入れてください」


 とっさに案内をした。

 常連さんたちは訝しげな表情で顔を見合わせていたが、お弁当の魅力には勝てなかったのか、すぐに何事もなかったかのように弁当選びに夢中になっていた。


 その様子を見て、朱里はほっと胸をなで下ろす。


『そうだ。弁当を決めたら、そこの袋に入れて、私のところへ持ってこい。そして、代金を箱の中に入れるのだ』


 なぜか誇らしげにナッツが指示を飛ばすが、もちろん誰にも聞こえるはずはない。


 朱里の手伝いもあって(?)、お店は順調にお昼の営業をこなしていく。

 最初の常連さんたちに続いて、次々にお弁当を求めてやってくる人が増えていき……ピークのお昼どきをとうに過ぎた頃……――朱里はようやく一息つくことができた。


続き


「ふぅーん……ミナトはいないのね」


 と、不意に聞こえてきた声に、朱里とナッツは揃って入り口のほうへ目を向ける。

 ドアの前には、丈の短いローブと、腰に綺麗な装飾の短刀を下げた少女……いや、女性が立っていた。


 朱里は慌てて、思わず座ってしまっていた長椅子から立ち上がる。


「あ、いらっしゃいませ!」


 従業員でもないのに、朱里は元気よくお客さんを迎え入れる挨拶をしてしまう。

 ローブの少女は、店内をぐるりと視線で見渡しながら、


「なーんだ。残念、ミナトはやっぱりいないのね」

「湊さんとお知り合い……ですか?」

「ふぅーん。あなたは誰? ここで何してるの?」


 じっと見つめられて、朱里は返答に悩むように口をつぐむ。


『どうしたんだ? ハクリュウ弁当の従業員だって、はっきりと言ったらいいだろう』


 思わず黙り込む彼女に、ナッツはぼやく。


「わ、私は……湊さんの知り合いというか、お弁当を売っている人で……そうじゃなく――探索者です」

「じゃあ、わたしと同業ね。よろしく、ヒカリよ」

「……ヒカリさん?」


 突然、ヒカリと名乗った少女から気さくに握手を求められて、朱里の顔に戸惑いの表情が浮かぶ。


「それで、あなたは?」

「私は瀬野朱里です。湊さんとは、一緒にダンジョン探索に行っている者です」


『ま、嘘は言っていないな……それにしても……』


 ナッツは、朱里からヒカリへと視線をゆっくりと移動させる。


『私の知らない顔だが……ミナトの知り合いなのか?』


 まるでその念話が聞こえたかのように、ヒカリはこちらを見てにっこりと微笑んだ。


「久しぶり、ナッツ。元気だったかい?」

『私は知らんぞ。お前など』


 そっと頭を撫でようと伸ばされた少女の手からすっと身を引き、ナッツは両耳を伏せてじっと彼女の顔を見た。


「相変わらずね。あーあ、嫌われちゃった」


 ナッツの露骨な拒絶反応にも、ヒカリはくるりと振り返り、何事もなかったかのように陳列された弁当の前に歩み寄った。


「これ、ミナトが作ったのよね」

「あの……湊さんとは、どういうお知り合いなんですか?」

「古い幼なじみでね。ミナトが弁当屋を始めたって聞いたから、会いに来たわけ……――うん、このお弁当が美味しそう。これにしようかな」

「は、はい。今、袋に入れますね」

「いいよ、そのままで。どうせすぐ食べるんだし……」


 ヒカリは気さくに笑った。しかし、そのすぐ後……どこか言いづらそうに言葉を続ける。


「せっかく、ミナトを励ましにきたのにね。残念だわ」

「励ましって……?」

「何も聞いていないの? 例の事件のことよ」


 ヒカリがそこまで言いかけた直後、店内に設置されたテレビの画面から、緊迫した声が聞こえてきた。


『――探索者襲撃事件の速報が入りました』

 最後までお読みいただき、ありがとうございます!


 もし「面白かった」「続きが読みたい」「お弁当が美味しそう」と少しでも思っていただけましたら、

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 これからも湊たちの日常と冒険を温かく見守っていただけると嬉しいです。

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