【10万文字突破!】エピソード45 呪詛で極上肉に進化させるつもりが古代竜になっちゃった。迷宮を破壊する終焉のブレスと、【美味しいお肉パーティーを開けば許されると思っているシェフ】
ぽすっ……。
『……え?』
多分、ドラゴンが言葉を話せるとしたら、栞奈と全く同じ反応をしただろう。
一瞬だった。最上階の空間を埋め尽くすほど膨れ上がり、拡大していたはずの魔素が消えた。初めから何もなかったかのように、魔素の力も消え失せ、火竜の覇気すらも感じられない。
「チェックメイト」
火竜が魔素を蓄えたところで、僕は火竜の頭の上に飛び乗っていた。と、空中にそっと手をかざしたまま言った。
どれほど火竜が強力な魔素を収束させようと、それが魔法として発現する前に術式を書き換えてしまえば、そのまま無害化して消えてしまう。
ぐらんっ、とドラゴンは巨体を揺らし、そのままその場に倒れ込んだ。全魔素を使い切ったことによる強制的な昏睡状態だろう。
「栞奈、終わったよ」
『ほ……本当に倒したか!?』
「倒してないよ。無力化しただけ」
……これからが本番だ。
ボス戦というものは、一度倒されたあとから、渾身の力を込めて第二形態へと復活するのが流儀ではないだろうか。火竜も肉としては最高だが、呪詛を取り込んでさらに上位種へと進化すれば、文句なしにAランク確定の極上肉になるはずだ。
「栞奈、呪詛の術式を火竜へ」
『あ、は……はいっ!』
『模倣刻印!』
栞奈の凛とした声に乗じて、螺旋を描く黒々とした光の帯が、倒れ込む火竜の巨体を覆っていく。
いよいよだ。呪詛の影響で、火竜は凶暴化するだろう。そうすれば、今の火竜よりも上位種になる。もっと極上の肉が……。
「……あ」
僕は思わず、間の抜けた声を漏らしてしまった。
呪詛を与えられ、むっくりと起き上がった火竜……だったものは、僕の予想を遥かに超えた存在へと変貌していた。
その姿は、もはや火竜のそれではない。
黒曜石のように鈍く光る分厚い表皮。まるで鉱石と同化したかのような無骨で強靭な鱗。天を覆い隠すほど鋭く巨大な翼。そして何より――ただそこに存在しているだけで周囲の空間が歪むほどの、途方もない密度の魔素。
「古代竜……!?」
……うーん。てっきり、純粋な炎の力が極まって霜降りの脂が乗る『獄炎竜』あたりになるものだと予測していたのだけれど……。
数千年の時を圧縮したかのような、超・長期熟成したドラゴンに生まれ変わるとは……
これは困った。予想よりもはるかに強化されてしまった。
「栞奈。ごめん」
『え? ……どうして急に謝るのだ』
……この魔素量、このままだと迷宮が耐えられない。
僕は慌てて、まだ完全に覚醒していない竜の頭から飛び降り、大きく距離を取りつつ叫んだ。
「栞奈! よく聞いて! すぐに朱里とナッツを連れて迷宮から脱出をしてほしい。そして、金山ダンジョンにいるB級以上の探索者を残して、全員を退避させて……!」
『ど……どどどど、どうしたのだ急に!』
「急いで! 古代竜が目を覚ます前に……」
『キュガァアアアアアアアアアッ……』
まだだ。まだ古代竜は完全に目を覚ましていない。ただの寝言のようなものか、あるいは置かれた状況を脳が理解しきれていないようだ……つまり、覚醒の直後で寝ぼけている。
「これは、弁当屋の命令だよ」
僕はすぐさま、迷宮内の全てを覆う、防衛結界の術式を展開させた。
古代竜から溢れ出していた途方もない密度の魔素が、僕の結界にぶつかり軋む。長くは持ちそうにない。
……動くのは今だ。
僕は一瞬の隙を突き、竜の足元へと跳躍し、そっと指先を地面に触れてから、拘束の術式を発現……ーー
「氷鎖の茨」
氷の蔦が古代竜の足先を絡め取り……しかし、竜の放つ膨大な魔素が術式を阻害し、パリン、とあっけなく砕かれてしまった。
(氷属性への耐性か……)
……属性との相性が悪かったのかもしれない。
栞奈らが脱出するまでの間、ドラゴンの動きを拘束したい。火、水、風、地の四元素に対しての耐性はあったとしても、闇属性の術式はどうだろう。
……試してみるか。
「影釘の刑」
古代竜からやや距離を取りつつ、今度は影を使った術式。
――虚空から生み出された、無数の闇色を纏った槍たちが竜へと降り注ぐ。が、竜の咆哮から発せられた強烈な光が影を滅ぼし、瞬時に消滅させてしまった。
(あ。反応した……)
弾かれたわけではなく、わざわざ光を出して相殺した。ということは、闇属性に対する完全な耐性はないということだ。
「解析」の術式で古代竜の魔素の流れを確認してみるが、なにせあの巨体だ。魔素の供給点が多すぎる。
魔素の充満による肉質の低下を防ぐには、無闇に古代竜の表皮へダメージを与えるわけにはいかない。
グルゥ、と低い唸りを上げて、古代竜は何かに気がついたように首を持ち上げる。辺りを見渡し、何かを探しているようだ。
……飛ぶつもりか。そうはさせない。
巨大な竜が翼を広げようと立ち上がった瞬間……――僕はとっさにペティナイフへ強化の術式を付与した。
そのまま跳躍して放った渾身の斬撃は、ドラゴンの持つ硬い表皮にカキンッと乾いた音を響かせ、あっけなく弾き返されてしまう。
「……っ!」
……やっぱり、効果なしか。
これくらいの術式の強度では、分厚い装甲に阻まれて、中の皮膚にすら届かない。
(本当はあまり使いたくないのだけれど……)
躊躇している場合でもない。僕は瞬時に術式を構成し、真っすぐに古代竜へ向けて魔力を収束させた。
「重力嵐気」
ドォッ……!!
古代竜には見えない凄まじい重圧がかかり、地面へと激しく押しつぶされる。僕の魔力を重力に変換した術式だ。暴れる竜を、強引に床へと引きずり落とした。
「……栞奈っ」
僕の呼びかけに、栞奈からの声は返ってこない。
……もう朱里たちを連れて、迷宮から脱出したのだろう。
バリンッ!
栞奈の張った対魔結界に、大きなひびが入った。
古代竜の魔素の振動だけでなく、僕が放った魔力そのものが、魔力でできた迷宮の許容量を超え、空間を激しく震わせているのだ。
……そっか。僕の魔力も迷宮の崩壊に影響しているわけか。
かといって、ここで極上のドラゴン肉は絶対に諦めたくない。
周りへの被害を無視して、問答無用に叩き潰す方法ならいくらでもある。だが、それだと肉がボロボロになって、食材にならなくなってしまう。
……どうしたものか。
ーー竜の咆哮……か。
重力で押しつぶされているのに、その姿勢から咆哮を放つつもりか。僕は重力を一旦解き、間合いを取る。
古代竜が大きく息を吸い込むと、言葉にならない言語が周囲に響く。術式の展開だけで、周囲に張り巡らされた施錠の術式が次々に破壊されていく。
「術式解除!」
……速い! 古代竜の術式展開の速度が速く、解除が追いつかない。
……だったら、これならどうかな。
「空霊格子」
風の結界……通常は、突風の膜のようなもので全身を円形に覆うもので、新米探索者が弓矢で放った一撃くらいならはじき返せるだが……そこに術式を乗せて、竜の咆哮の定義を書き換えれば……。
『ギィシャアアアアアアッ!』
古代竜の持つ咆哮は、終焉の黒業火……。
古代竜の悲鳴が響く。
風の結界を古代竜に使い、その中にブレスごと封じ込める。まるで風で作られた檻、繭ようなものに閉じ込められた竜の王は、一瞬何が起きたのか分からない様子で戸惑い封じ込められる。
さて……ここから、どうしようか?
風の結界を解けば、迷宮は崩壊する。だからといって、このまま維持すると僕の魔力が底を尽きる。
だが、その甲斐もあって、古代竜の持つ魔素の軌道が見えた。
「うーん……」
……多少の被害は出るけど、美味しいお肉パーティーとか開いたら、みんな許してくれるかな。
と……――悠長に状況を見守ってもいられない。
迷宮が破壊される……!!
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「おかげさまで10万文字に到達しました!」「累計3,500 PV突破しました!」など。数字を出すことで、読者も「自分が応援している作品が大きくなった」と一緒に喜べます。
「このエピソードで三食目のクライマックスを迎えました」
いよいよ! 四食目に続き、ちょうど単行本の1冊分となるので、始原のダンジョンに近づく話で第一部が完了になります。
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