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『始原の帰還者、札幌でひっそりお弁当屋を始めます〜深層の魔物で作った『魔素抜き弁当』が美味しすぎると探索者たちの間で話題な件〜』  作者:
三食目:迷宮崩壊は産地直送の大豊作!? 山わさび香る「極上火竜のシャリアピンステーキ弁当」が出来るまで

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エピソード42 結界を解いて無防備になるのは散らばった術式を結合させるため。不規則な数字を持つメルヘン部隊と、【敵の暗殺プログラムを一網打尽にするシェフ】

 朱里が何かに狙われている……。


(命を狙われている……というのは飛躍しすぎかもしれないけど……)


 そう考えると辻褄が合う。理由はわからないが、朱里の固有スキルを封じていた『何か』があって、それが暗号を持つ術式――つまり、この呪詛だ。

 目的は、彼女に『鬼火』を使わせたくない何者かが、意図的に仕掛けた施錠の術式回路。

 ……事情は彼女に直接聞くとして。


 それはそうと……困ったな。


「栞奈、聞いてるかい?」

『あ、う…うん』

 いったん、間をおいてから、栞奈の返事を待つ。

「多分、僕の目の前にある呪詛を全部この本に集めきると、何者かの『封印』が解かれると思う」

『…………』

 ……ファントムの中枢にいる栞奈からの声が一瞬途切れる。

「だからね、その封印が解かれると――」

『そこじゃなくだ! その封印とは何なのだ!?』

「さぁ? 何だろうね」


 でも……――。


「わかっていること……呪詛の狙いは『封印を解くこと』。そのために迷宮(ラビリンス)を犠牲して術式を一つにする狙いがあるのだろうと思う」

『ちょっと待って! ボクはただお弁当を頼んだだけなのに、何で理解不能な呪詛に迷宮ラビリンスを破壊されなくちゃならないのだ!?』

「うーん……」

 僕はいったん考えてから、明るく提案した。

「また作ればいいよ」

『いや、まだ壊れてないし! それ完全に壊れること前提で言ってるし!』


 焦りまくる栞奈をよそに、僕は静かに告げる。


「朱里さんを助けたい」

『……ミナト?』

「このまま呪詛を放置すれば、いずれ迷宮は呪詛に乗っ取られる」

『勝手にボクの最高傑作の危機を予言しないでくれるか……』

「その結果、朱里さんはこの迷宮の『あるじ』に狙われることになる」

『主……が? もっと分かるように説明してくれないか』


 一拍の間を置いてから、僕は周囲に目を向けた。調度品たちに動く様子は見られない……襲ってはこないが、話の途中で邪魔されたくないので、風の術式で結界を強めて牽制した。


「最初に、僕たちは本の部屋で黒い霧の魔物に遭遇したよね。あれは呪詛が『依代』に選んだものだったんだ。

 でも、素体が弱すぎて呪詛に耐えられなかった。だから次々に魔物を乗り換えていったけど、結局うまくいかなかった」

『…………』

 どこかでこちらを見ているだろう栞奈に向けて、僕は話を続けた。

「それならいっそのこと……呪詛を一つの器(本)に集めさせて、迷宮内で『最も強力な魔物』の身体を直接乗っ取ったほうが効率が良い。……そう考えたのだと思う」

『それって……最上階の、火竜レッドドラゴンのことか!?』

 ここまで言ってから、栞奈が大きな声をあげる。


 ……そういうことだ。


 呪詛の目的は、最上階にいる火竜の肉体を奪うこと。迷宮の魔物を一匹ずつ操って朱里を狙うより、最強のドラゴンを使役した方が確実に抹殺できる……そう考えたのだろう。


「このままだと、朱里さんはドラゴンに命を狙われることになる」

『……それは、まずいな』

「ドラゴンに食べられるとわかっているのに、見過ごせないからね」

『……ミナト。お前、意外と……』

「それに、僕は何としても極上のドラゴン肉が欲しい!」

『結局、それか……!』


 声しかないはずの栞奈から、深いため息をつくのがわかった。


『……もういい。わかった。ボクは何をすればいい?』

「…………」


 僕は部屋の中を見渡した。

 しびれを切らした調度品たちが、僕を取り囲み、じりじりと追い込んでくる。


 呪詛の術式を失えば、力をなくしてただの調度品に戻る。彼らが僕に向かって直接的なダメージを与えようとしないのは、僕にはまだ利用価値があるということ……それは――。


解析アナライズ


 浮かび上がる小物アイテムたち、ケタケタと動き回る座椅子、ボールペンを片手にぶんぶん振り回すぬいぐるみ集団。

 それらすべての『メルヘン部隊』を解析した結果は――言うまでもなく、術式による混乱異常。それは呪詛の影響に間違いない。

 ……それともう一つ。それぞれに『不規則に与えられた数字』が刻まれていた。


(試してみるかな……)


 僕は風をまとった結界を解くと、無防備に床の上に本を置いた。


「君たちが欲しいのは、これだね」


 その言葉を合図に、呪詛を宿した調度品たちが、一斉にこちらに向かって襲いかかってくる……僕ではなく本を奪うのが彼らの目的だ。


付与能力エンチャント――魔力増幅エーテル・ブースト。そこに、解呪ロジック・ディゾルブ!」


 ――ピカッ!


 カッ、と強烈な光が弾けた。

(おぉ、これは便利)

 本に群がってくれたおかげで、一網打尽だった。増幅させた術式が本を包み込み、殺到した呪詛たちを丸ごとページの中へと閉じ込めることに成功する。


 彼らの目的は、仲間たちの救出……いや、散らばったデータの結合といったところだろう。

 だから、僕を攻撃できなかったのではなく、他の術式を守るために手を出せなかった……といったほうがいい。僕にうっかりと本の中にある術式たちを解放されてしまえば、計画が失敗に終わってしまうからだ。


 ポテッ、と。

 カシャリ、と。

 ドンッ……。


 それぞれの乾いた音を立てながら力なく床に落ちた『メルヘン部隊』は、ただの無害なインテリア雑貨へと戻っていた。


(ふぅ……呪詛はこれで全部かな)

 僕は静かになった栞奈の部屋を見渡しながら、小さく息を吐いた。


『お……終わったの?』

「術式はこれで全部だね」

 僕は本を閉じて、どこかで見ている栞奈に向けて言った。

『……はぁ、良かった』

「そういうことで、後は栞奈に任せたよ」

『……え?』

「本の中の術式は、水星の魔法陣を核に作られているようなんだ。だから、解析して繋ぎ直してもらえないかな?」

『そういうことなら任せろ。ボクの専門だ』

「じゃあ、僕はこれから上層階のドラゴンの檻に向かうよ」


 ……まだ終わっていない。これからが本番だ。

 僕は極上の火竜レッドドラゴンが待つ上層階を目指して、再び塔を登り始めた。

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