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『始原の帰還者、札幌でひっそりお弁当屋を始めます〜深層の魔物で作った『魔素抜き弁当』が美味しすぎると探索者たちの間で話題な件〜』  作者: 姫宮澪
三食目:迷宮崩壊は産地直送の大豊作!? 山わさび香る「極上火竜のシャリアピンステーキ弁当」が出来るまで

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エピソード35 固有スキルの使えない双剣士は、お弁当屋さんの優秀なデリバリー助手? ゴブリンの群れを蹴散らして、迷宮の主へ熱々をお届けします【ポイントカードを投げナイフにするシェフ】

 カキィンッ!


 始まった。


 朱里(あかり)が双剣で、飛びかかってきたゴブリンの短剣を受け止め、受け流す。体重を乗せて襲いかかってくる分、ゴブリンのほうが優勢だろう。朱里一人に対して、相手は三匹だ。


 一匹目が放つ刃先をいなし、そのまま放った彼女の回し蹴りが、二匹目の腹部をとらえる。だが、ダメージを受ける直前に後ろへ飛んで威力を殺したのか、ゴブリンに対して有効な打撃は与えられていない。


(剣術だけでなく、体術もそこそこできるみたいだね)


 とはいえ……フィジカルが全体的に低い。

 その上、同じ重さの双剣を左右に携えているせいで、彼女が本来持っている俊敏性が完全に相殺されてしまっている。


 今は剣を盾にして、かろうじてゴブリンたちを牽制し避けているが……体力が低下した時点で、戦況は一気に不利になるだろう。



 ピクリ……と、

 

 僕の目の前にいる弓持ちのゴブリン二匹が、朱里へと殺気を向けた。

 すかさず、僕はその二匹の頭を両手でガシッと掴み、強引に動きを止める。


「君たちは、おとなしくしていようか」


 このダンジョンは特殊な仕組みになっている。内部の魔素から発生した魔物は、外に持ち出すことができない。魔物の機能を一部でも停止させると、そのまま魔素の霧となって消え去ってしまうのだ。

 もっとも……ゴブリンは最初から食材には使えないのだけれど。


 現在のダンジョンの難易度は、初級の上といったところだろう。

 おそらく今は、朱里に合わせたランク水準になっている。侵入者のレベルに応じて、出現する魔物のランクが自動で調整される仕組みらしい。


(そろそろ、限界かな……)


 自分の適正レベルよりも上の相手と、しかも三対一で戦っているのだ。どうあっても、ここから自力で優位な状況に持ち込むことはできないだろう。


「あっ!?」

 短い悲鳴が漏れ、朱里の剣が重い一撃に弾かれた。

 大きく体勢を崩す。その瞬間、ざわりと空気を揺らし、二匹目のゴブリンがギロリと彼女を睨みつけて飛びかかろうとした。

 とっさに、ナッツが左側に回り込もうとしていた三匹目のゴブリンに飛びかかり押さえ込む。


「……くっ」

 だが、体勢を崩した朱里は戦意を削がれ、完全に硬直してしまっていた。その隙に正面から二匹目に襲いかかられれば、致命傷になりかねない。


「『氷結フロスト』」

 僕は掴んでいた弓矢を持つゴブリン二匹の足元を氷結魔法で床ごと固定した。

 そして――硬化の付与能力エンチャントを施した『お弁当屋のポイントカード』を指で弾き飛ばす。


 カキィィンッ!


 投げナイフのように空気を裂いて飛んだポイントカードは、朱里に迫っていたゴブリンの手から、短剣を弾き飛ばした。


「今のは実戦だったら、危なかったよ」

「は、はいっ。ごめんなさい」

「反省すればよろしい。ほら、ゴブリンが来てるよ」


 瞬間、体勢を立て直した朱里は、双剣の片方で二匹のゴブリンを連続で斬り伏せた。ナッツが動きを封じ込めていたもう一匹も力なく床に崩れ落ちて、黒い霧に戻り消え去る。


「お疲れ様でした」

「……あの、私」

「筋はいいよ。でも、双剣を扱うには体格が合ってないかな。もっとフィジカルがあれば、動きやすくなると思うけど」


 それは決して彼女が探索者に向いていないという意味ではなく、扱っている武器が身体に合っていないということだ。

 ……それに、彼女の固有スキルは『双剣』ではないはずだ。


「何で『鬼火(おにび)』は使わないの?」

「…………っ」

 一瞬、朱里は考え込むように口をつぐむ。そして、ひどく言いづらそうにして、

「使わない……じゃなくて、使えないの。……あれ? 湊さんに私のスキルのこと、話したことあったっけ?」


 ……ない。僕が『解析』スキルで勝手に覗き見しただけだから。


「使えないって……固有スキルなのに?」

「そこ、それが何で使えないのか分からなくて……いや、正確には『使えていたのに、急に使えなくなった』というか」

 ……そっか。それで、双剣に……いや、それでも『鬼火』使いなのに双剣を選ぶ理由にはならない。

「うーん……せめて、片手剣のほうが良いと思うけど」

「だって、双剣って……見た目がかっこいいから……」

「…………」


 ……それなら仕方ない。


 見た目は大事だ。探索者の中にも、非常に扱いにくい武器を好んで(ロマンで)使う人は多い。効率だけを考えれば、体格や筋力、戦い方に適した武器を選ぶのが一番だが、モチベーションも強さのうち……ということだろう。



『あははっ、キミは面白いね』


 不意に、ダンジョンの中に無邪気な声が響き渡った。魔力で操作された伝達の術式が、この部屋のどこかに組み込まれているのだろう。


 僕はその聞き覚えのある見知った声に、小さく息を吐いた。


『ミナトが連れてきた人がどんな子かと思って様子を見ていたけど……キミは合格だ!』

 ブワァアッン!

 空間が歪み、部屋の中心に光り輝くポータルが生まれた。


『入ってきていいよ。お弁当も、すっごく楽しみだしね!』

 そして、声がプツリと途切れる。


 突然の出来事に、何が起きたのかまったく理解できない朱里は、ポカンと口を開けて僕のほうを見た。足元では、ナッツが「やれやれ」といった顔で呆れたようにため息をついている。

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