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『始原の帰還者、札幌でひっそりお弁当屋を始めます〜深層の魔物で作った『魔素抜き弁当』が美味しすぎると探索者たちの間で話題な件〜』  作者: 姫宮澪
三食目:迷宮崩壊は産地直送の大豊作!? 山わさび香る「極上火竜のシャリアピンステーキ弁当」が出来るまで

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エピソード33 「お弁当屋さんは立派な関係者だよね」 思考停止の朱里を連れて、金山ダンジョンへ強制ドライブ!【どこへでも配達するシェフ】

 サク、サク……。

 カリ、カリ……。

 揚げたてのとんかつが、昼下がりの店内に音を響かせる。噛みしめるたびに小気味よく衣が砕ける連続音が、幸せのリズムを生む。


 ……美味しいものを食べると、誰でも無言になる。


 一呼吸あってから、かつサンドの半分を平らげた朱里は、ふと我に返ったようにして、

「……うまい!」

 と、ひと言感嘆の声を漏らした。

 朔は先に食べ終わったナッツに、自分の分を少し分けてあげようかと本気で迷っているようだ。


(何だか、いいな)


 店内はそれほど広くない。カウンターがあって、その前に間に合わせ程度のイスとテーブルがあるだけ……もちろん、それほどお洒落とは言えない。


 もともと待っているお客さん用に準備したものだから、飲食店のような仕様にはなっていないのだ。

 お弁当屋だからこれくらい手軽でいいと思っていたけれど……美味しそうに食べる二人の様子を見ていると、新しいテーブルセットが欲しくなるくらい微笑ましかった。


(……ドリンク類もあったらいいな。小さめの冷蔵ショーケースもあったら便利かも。お惣菜とかも販売できるし……)


 そんなことを考えながら、二人と一匹がかつサンドを堪能しているのを横目に、僕は配達の準備を進めていた。


 これから配達しに行くのは、このかつサンドと試作品のテールスープだ。


 テールスープは、『熱』の魔法を付与した特製スープジャーに注ぎ込んである。こうしておくと、いつまでも温かく保温が効くのだ。

 魔法の術式というのは、魔力を高めて火力をドカンと上げるのは簡単なのだが、一度高まった魔力を小さく発現させ続けるのが意外と難しい。こと、このスープジャーのように『適正温度の六十五度』をキープし続けるとなると、決して簡単ではない。


「……仕事に行ってくる、から」

 先に食べ終わった朔が、ナッツを名残惜しそうに撫でながら声をかけ、店を出ていった。


 ちょうどそのとき、僕の方も配達の準備がすべて完了したところだった。


「湊さんは、これから配達なのね」

「うん。うちのかつサンドが大好きなお客様がいてね。ちょうどよくオーク肉も手に入ったから連絡してみたら、注文になったってわけ。……それと、この試作品のスープもね」


 僕は袋詰めしたかつサンドと特製スープジャーを持ち上げて、彼女に見せてみせた。

 店の裏手に停めてある『キッチンカー・ハクリュウ』の荷台に、弁当を積み込みながら振り返る。

「ナッツさんは先に乗ってて……

 あ、そうだ。朱里さんも一緒に来る?」

「私も……? でも……」

「大丈夫だよ。お客様といっても、知り合いみたいなものだから。それにナッツさんもいるし、すぐ近くなんだ」

「そう……。ちなみに、配達はどこに?」

「配達先? ああ、金山ダンジョンの中だよ」

「…………え?」


朱里の思考が一瞬、止まったように見えた。が、気が付かないふりをして、そのまま僕は、

「さぁ、乗って」

「えっ? ちょっ、湊さん!?」


 思考が停止している彼女の背中を軽く押し、キッチンカーの助手席へと押し込む。バタン、とドアを閉めて僕も運転席に乗り込むと、手慣れた動作でエンジンをかけた。


「それじゃあ、出発しよう」


 まだ状況を飲み込めず呆然としている朱里を乗せたまま、僕はキッチンカー『ハクリュウ』を発進させ、手稲のふもとにある目的地――金山ダンジョンへと向けて車を走らせた。


 ……配達先は、坑道のずっと奥。


 手稲山に位置する『金山ダンジョン』は、かつての採掘場跡地を中心とした巨大な円形広場になっている。

 ここの最大の特徴は、ダンジョンのゲートが一つではないこと。


 山の内部へと向かって無数の坑道が掘られており、その内部に様々なダンジョンが出現している。


 坑道の入り口にゲートが口を開けている場合もあれば、ずっと奥の方まで進まないとゲートが現れない場合もある。出現するダンジョンの種類も、常設型、変動型、そして突発的なランダムダンジョンと多岐にわたる。


 ただ金山ダンジョンにおけるランダムダンジョンは、なぜか『坑道の中』にしか出現しない。その理由は未だに解明されていないらしい。


 僕たちが今向かっているのは、そんな無数にある坑道の中でもずっと奥の方。魔物の討伐を目的とする探索者たちがあまり寄り付かない場所。


 ランダムダンジョンの発生率も低く、採掘などの『探索以外の仕事』を請け負う者たちにとって、比較的安全なエリアとして重宝されている。


『関係者以外、立入禁止』


 坑道の奥に立てられた古びた看板を見て、朱里は息を呑んで立ち止まった。

「ここは……入ってもいいのかな」

「お弁当屋さんは、立派な関係者だよね」

「…………」


 看板がぶら下がる鎖をヒョイッとまたいで、僕はそのまま先へと進んだ。少し遅れて、朱里もため息をつきながらついてくる。


「湊さんって、本当に不思議な人よね」

「ただのお弁当屋だよ」

「普通、お弁当屋さんはこんな危険なところに来ないと思うけど」

「え? でも、お弁当を楽しみに待っている人がいるのに」

「それとこれとは話が違うと思うけど……」

「美味しいものを食べたいっていう気持ちは、誰だって同じだよ。だから、僕は届けたいんだ。……それが、どんな場所だとしてもね」


 そんな他愛のない話をしながら坑道のさらに奥へと進むと、やがて一枚の重厚な鉄の扉の前に辿り着いた。


「それじゃあ、ダンジョンに入ろうか」


 僕が扉に手を触れた瞬間。

 ギギッ……と重い音を立てて扉が開き、その向こう側には、現実世界から切り離された果てしない『無空の世界』が広がっていた。

 本日もご来店(お読み)いただき、ありがとうございます!


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