エピソード28 襲い来る魔物を『見えない網』でスマートに捕獲! 希少食材に夢中になりすぎて、仲間の決死の探索を完全に忘れていた【マイペースなシェフ】
上空のブラックホールは、情け容赦なく町を飲み込んでいく。
そして吐き出された魔素の中心からは、次々と新たな魔物が形を現していった。
先ほど店を囲んでいたリザードと、その上位種であるリザード・ロード。それに続いて、ダンジョンではお馴染みのゴブリンや、フードを被った一つ目の魔術師など、累々たる魔物の群れが生み出され、一斉にこちらへ向かって牙を剥く。
(……結果的には、成功かな)
僕は、殺到する『食材部隊』が放つ多種多様な斬撃をペティナイフで軽く受け流しながら、後ろへとステップを踏む。
(特売セールって感じだね)
どれも新鮮で活きのいい食材たち……だけど……
(弁当のメインになりそうな魔物は……見つからない)
赤い目をした一角獣が、僕をめがけて鋭い雷撃を放つ。僕はとっさに首を逸らしてそれをかわした。
狩りは命をいただく行為になる。それは魔物であっても変わらない。だから、不要な魔物を狩らないのが僕の性分だ。
と、その時だった。
ひしめく群れの奥底に、一際濃い魔力を持った一匹の魔物を発見した。
「――キミに決めた」
有象無象の魔物たちが殺到してくる中、僕はきびすを返し、自ら群れの中心へと飛び込んだ。
獲物であるはずの僕が突っ込んできた意図が分からず、魔物たちは戸惑う。その隙を突き、僕が狙いを定めた一匹の魔物は、すかさず群れから飛び出して逃げようとした。
……自分が『食材』としてロックオンされたことに気がついたのだろう。
この時、すでに僕の手元では『氷結』の術式が完成……
逃げる魔物の背中へ向けて術式を展開するが――カッ! と強い光が瞬き、僕の魔法は空中でかき消されてしまった。
(……魔法耐性持ちか。さすが、上位種の魔物といったところだね)
僕が狙った獲物は、妨害の光を放つと、そのまま空中へと飛び去ろうとする。だが、甘い。
「『魔法盾』」
あらかじめ空中に仕込んでおいた別の術式が起動し、逃げようとした魔物を不可視の壁が捕らえた。
本来は飛来する攻撃から身を守るために使う防御魔法だが、周囲に六面体の術式を同時展開させることで、食材捕獲用の『見えない網』としての役割も果たしてくれる。
「氷結!」
逃げ場を失った箱の中へ、再び『氷結』の魔法を流し込む。
カキンッ! と音を立てて凍りつき、大きくて太めのタケノコ……もとい、希少食材である『翁竹』が空からコロンと落ちてきた。
(うんうん。これで美味しいタケノコご飯が作れるぞ)
無事に最高級のタケノコ……翁竹が手に入ったので、今日の弁当の『ご飯』はこれで決まりだ。
でも、タケノコご飯はあくまで主食。メインとなる主菜を手に入れないと、完璧な弁当は完成しない。
……かといって、あの上空で暴れている黒い渦の中には、美味しそうな食材になり得るものはいない。
『……ミナト、聞こえるか?』
ふいに、頭の中に直接声が響いた。
「おぉー、良いところに」
『何がだ?』
「今タケノコが手に入ったんだけどさ、メイン食材がどうしても見つからなくて」
『……何の話をしているのだ』
「だから、タケノコご飯に合うおかずの話を……」
『今はそれどころではない。……着いたぞ』
「どこに?」
(あ、そういえば……)
タケノコの収穫に夢中ですっかり忘れていたが、ナッツと朔に、空飛ぶゴーレムの追跡を頼んでいたんだった。
『何かの神殿らしいな……』
「うん、このダンジョンの『理』の中枢で間違いないね」
『……それで、これからどうするつもりだ』
「神殿の中に入ることはできる?」
『……やってみよう』
ナッツは渋々といった様子で承諾した。
エジプト神話の概念がベースになっているとすれば、先ほどのゴーレム……恐らく、神殿の正面入り口には、番人として『アニマティクス・ホルス』が守っているだろう。
朔一人だけなら外から様子を見るよう指示していたところだが、ナッツが一緒についているなら、突破するのに何の問題もない。
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