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『始原の帰還者、札幌でひっそりお弁当屋を始めます〜深層の魔物で作った『魔素抜き弁当』が美味しすぎると探索者たちの間で話題な件〜』  作者: 姫宮澪
【二食目】「はくりゅうデリバリー、本日のメニューはオーク肉のエスカロップ弁当です」

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エピソード26 魔物が店に近づけない理由。壁に飾られた『太陽の絵』の正体に気づき、新たな食材の調達を企む【概念を覆すシェフ】

 さて……。

 この状況を、どう料理したものか。


 喫茶店『素晴らしき世界』の前に立つ僕を、濃密な気配がぐるりと取り囲んでいた。



 視界の端、逆さまに生えた電柱の陰や、ひび割れたアスファルトの隙間から、ぬらりと光る爬虫類の瞳がいくつもこちらを覗き込んでいる。先ほど僕を襲ってきて、あっけなく新鮮な『食材』に変わったトカゲ型の魔物たちの群れだ。


 完全に包囲されている。だが、攻め込んでくる気配は一切ない。

 そう、彼らはただじっと、僕の様子を『見ている』のだ。


(……んー、狙いはなんだろ?)


 四方八方から放たれるピリピリとした殺気はある。しかし、明確な『殺意』としては伝わってこない。とはいえ、僕が一歩でも不用意に動けば、条件反射で一斉に飛びかかってきそうな絶妙な間合いだ。


 伝わってくる呼吸の波はピタリと一定で、群れとしての統率が取れている。ある程度の知性を持っている証拠だった。


(ちょっと、試してみるか……)


 僕はわざと隙を見せるように、ふと、半歩だけ後ろへ下がってみた。


 ――ザワザワザワッ。


 空気が大きく揺れた。僕のわずかな動きに呼応して、周囲に潜む無数の気配が、まるで怯えるように一斉に後退あとずさりしたのだ。

 先ほど、自分たちの仲間が瞬く間に解体されて亜空間収納ストレージへ放り込まれたのだから、警戒するのも当然といえば当然なのだが。


(見張られている……というより、怯えられてる?)


 思えば、彼らの視線はずっと続いていた。僕がこの店に入ってから、今こうして外に出るまでずっとだ。

 先ほどナッツと感覚共有をして無防備に立ち尽くしていた時でさえ、魔物たちは襲いかかってくることはなかった。まるで、僕という存在、あるいはこの喫茶店の周囲にある『何か』を恐れるように、遠巻きにうかがうばかりだったのだ。


(だったら……もう、ここしかないよね)


 僕は店の玄関の前にある石段に、一歩足を踏み入れた。


 ――ピクリ。


 周囲の気配が一瞬、波打ったように感じたが、攻めてくる様子はない。僕はそのまま店のドアノブに手をかけ、一気に引き寄せる。


 カラァン……バタンッ。


 呼び鈴の懐かしい響きが、ドアの閉まる無機質な音にかき消された。


「………………」

 ……襲ってこない。


 僕は喫茶店『素晴らしき世界』の店内に立ち尽くし、無意識に止めていた息を吐き出す。僕の予想は正しかった。彼らトカゲの魔物たちが、僕を襲うことのできない理由が、この店の中にあるようだ……


「……………」


 昭和の香りが充満する、静まる店内を見渡す。ゲーム機型のテーブルにあるブラウン管の画面には光はなく、ゲームのBGMも聞こえない。シーンと静まり返る気配……


 店内には、魔物の気配はない。だが、窓の外側からちらりとこちらの様子を覗き見ているものや、壁の隙間、恐らくはドアの外側にピタリと張り付いているものもいるだろう。僕は一歩も気を抜くことなく、さらに深く店内へと進んだ。


(これは……?)


 先ほどは気が付かなかったが、魔物が最初に襲ってきた時に散乱したのだろう。メニュー表が床に落ちていた。


「『スフィンクスの唐揚げ』……それに『砂漠で入れたコーヒー』、そして『ピラミッドのミルフィーユケーキ』……この店のメニューなのかな?」


 僕はそれを拾い上げ、埃を払いながら内容を確認する。


(それにしても……個性的すぎるだろう……)

 料理にどんな名前をつけても自由だが、スフィンクスを唐揚げにするのはどうだろうか。


「あ、でも……このメニュー、お弁当に使えるかも。ここのお店の名物かな………うーん、そうだ。このメニューでいこう」


 そうとなれば、別に材料が欲しい……


 でも、外で待機している食材たちは、トカゲの群れ。今回の弁当には合わないか。テールスープとして添えるかな……それとも、そのまま尻尾の輪切りステーキというのも豪快でいいかも……と、僕は一人、物騒なことをつぶやきながら、ちらりと店の奥を見やる。


(じゃあ……『おびき寄せる』しかないね)


 実を言うと、僕はこの店に入ってからずっと、一つのことが気になっていた。


 店内の調度品、たとえばあの古いゲームテーブルや、赤いベルベットのソファは、外観を模造しただけの『中身のない概念』だった。でも、この店の中で、一つだけ明らかに毛色の違うものがあった。


 僕はその場所へ歩み寄り、壁に掛けられていた絵画を見上げた。


「これ……多分、太陽だよね」


 僕はそっと額縁に触れる。強い魔素を感じられる絵。この一枚だけが、店内に妙な違和感を与えていた。


 そして、その絵を僕が壁から外した、その瞬間に――。

 本日もご来店(お読み)いただき、ありがとうございます!


 もし本作を読んで「ちょっとお腹が空いたな」「湊の料理を食べてみたいな」と思っていただけましたら、

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