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『始原の帰還者、札幌でひっそりお弁当屋を始めます〜深層の魔物で作った『魔素抜き弁当』が美味しすぎると探索者たちの間で話題な件〜』  作者: 姫宮澪
不死者の冤罪【七食目】

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エピソード117 姿なき五匹目と嵐の予感【想定外の急襲を筆先で退け、昼から夜へと切り替わる世界に驚くシェフ】

  ……人生の物語は――一つ一つの点で作られていく。

 同じ場所にいて、同じものを見て、同じ時間を過ごしても……。

 考え方や価値観のフィルターは、違う景色を与えてくる。


 時間の流れのなかにある物語は、一つではなく、複数の見え方の集合体があって、初めて人生の物語は作られていく。


 だから、一見……嘘や裏切りに見える出来事があっても、誰かの人生には、きちんとした理由と経緯が隠されているものだ。


(僕の予想が正しければ……)


 ……この牢獄迷宮プリズンダンジョン――誰かが過ごした人生ものがたりの断面そのもの。


「レイの推測だと、ここで起きている出来事も誰かの記憶になるのか?」

 カイは言う。だが、正解でもない。記憶の持ち主が、人ではなく大学そのものだからだ。


 ……来る!?


 気配――膨らんだ魔素の風が、ゾクリと僕の身体に触れる。危険を知らせる合図。魔物の強さは通常のダンジョンの五十階層ほど。油断していい相手でもなさそうだ。


 シュギャアアアッ!!


 魔物の奇声を合図に、巨大な火球が扉を破る――僕はとっさに筆を構えると、放たれた火の玉をたやすく振り払った。


 ……これくらいは想定済み。


「レイ、お前。僕に嘘ついてないか?」

 ……何のことを言っているのだろう。

「さっき言ったよな? 追い出すだけだって」

「言ったよ」

「今のあれは何だ?」

「あいさつ代わりに放ったドラゴンの一撃じゃないのかな……」

「冷静に分析してないで、この後はどうする気か考えろ」

 ……どうするとは?

 部屋から出ていってもらうだけだ。


 一つ想定外があるとすれば、魔物の一体に黒龍がいたことだ。さきほど火球を鼻息混じりに吐き出した魔物になる。


「カイ! 血魔獣ブラッディベアは任せた!」

「待て待て待て待て待て……!? あんなの二体同時に相手するのかっ」

「軽く遊んであげるだけでいいから――」

 ……どうせ、食材として捕まえることもできないし。

 それに、本命は黒龍の後ろにいる魔物のほうだ。


 大きな身体で部屋に入れずにいる黒龍をよそに、もう一体の魔物が赤い目を光らせた。

(……面倒な相手が現れたね)

 僕はとっさに魔力を構築する――だが、魔物はにたりと笑った。


 その瞬間――周囲には、いくつもの闇の光弾が発生する……だが、この程度の魔素量くらいなら、打ち消すのは造作もない。


「もう終わり?」

 安っぽい挑発に乗って、魔物――吸血鬼王ヴァンパイア・ロードは怒りの表情に変わった。

 ……言葉は通じるらしい。

 とはいえ、二足歩行の魔物はやりづらい。


 ちらりとカイのほうを見ると、血魔獣ブラッディベアの振り下ろす連撃を避けながら反撃の機会を窺っているようだ。

 ……こちらは問題ない。


 僕が振り返った瞬間だった。目の前には、細長く光る何かが、一直線に僕を捉えていた。


 ――術式……風霧ウィンド・ベル――。


 シュンッ!


 しかし、吸血鬼王ヴァンパイア・ロードの放つ爪の一撃は、風で作り出した僕の幻影を切り裂いて消えた。

「残念。そろそろ時間切れだよ」

「ンガッパ!」

 謎の悲鳴を上げながら、扉の向こうへと吸い込まれていく。見ると、先ほどまで猛威を振るっていた獰猛な熊たちも、扉に向かって行くのが分かった。


「何が起きてるんだ?」

「時間切れ……」

 この世界ダンジョンは、誰かの記憶でつくられたものだ。断面的な意識の流れが途切れると、物語の一幕も終わる。


『……違う……まだ、終わってない』


 声だ――脳内に響く切迫した声。

(終わってない……?)


 五体目の魔物……。周りを見る。いない。閉じられた扉。さっきまでいた熊の姿も見えない。視界を巡らせる。


『上にいる……!?』

 本能的に僕は筆を構える。気配のみで察知した場所に向けて、硬化した筆の先を鋭く振りかざした。


 キュシャアッ……!

 不意打ちに動揺したのか、素早い身のこなしで筆先を飛び退け、魔物は窓をガラスごとぶち破った。


「今度は何なんだ?」

「……わからない」

「それは無責任だろ。五匹の魔物たちは襲ってこないんじゃなかったのか……?」

 追い返すだけで良いと言ったが、襲いかかってこないとは一言も言っていない。


『……追いかけて……あれは偽物……』


 どこからともなく聞こえてくる声は、今の状況を誘導しているように思える。


「行こう。カイ……」

「どこにだ?」

「さっきの――」

 言いかけてから、僕は魔物の姿を思い出そうとした。だが、先ほどまでいたはずの魔物の気配はなく、その姿や形が僕の記憶の中からすっぽりと消えていた。

「とにかく、後を追うよ」

 粉々になった窓の枠に手をかける。身を翻し、外へと飛び出した。


 ざむっ……。


 着地した草の上は、やけに冷たさを感じた。

 風も強い。視界が薄暗く、これまであったはずの日差しは消えた。

「なぁ、僕たちは窓から出るまでは、昼だったよな?」

 急に切り替わった景色に、カイは半ば呆然と立ちすくんでいた。


 ドゴォッン!!! メキメキ……!


 場面が切り替わった。記憶の景色が入れ替わったのだ。

 ……今度は――ここはどこだ?

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


もし本作を「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、

ぜひ【ブックマーク】と、ページ下部の【☆☆☆】から星を入れて応援していただけると嬉しいです。


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