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『始原の帰還者、札幌でひっそりお弁当屋を始めます〜深層の魔物で作った『魔素抜き弁当』が美味しすぎると探索者たちの間で話題な件〜』  作者: 姫宮澪
不死者の冤罪【六食目】本日のメニューは「土鍋ご飯とレッドバッファローの牛カツ弁当」です。

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エピソード105 【エピローグ】終わらない歌と炭火焼きステーキ【迷子の目的を悟り、また会える日を思いながら魚を焼くシェフ】

 カグラは言った……誰よりも強くなければならない……と――。


 そのときから、答えは見えていた。


 彼女には、はじめから僕たちを騙すつもりなんてなかったんだ。


 ただ、本当のことを言わなかっただけ……。


 ――ロビン・ザ・ボビンの話には二つの説がある。

 一つはロビンを王様の権力とするもの……その場合、牢獄迷宮プリズンダンジョンの攻略の方法は、探索者であるカグラが、魔物たちを全て討伐し、王に君臨すると解決する。


 だが、牢獄迷宮プリズンダンジョンは閉じなかった。そう、カグラは一度、あのプリズンダンジョンに入っている。目的を果たせなかったため、金山ダンジョンに所属し、再調査ができるように手続きしたのだろう。


 ……そこに、僕とナッツが偶然にもやってきてしまった。


『カグラの目的は何なんだ?』

 ジュッ、と肉の焼ける香ばしい匂いが、弁当屋の裏手から立ちのぼる。炭火に火力調整をした備長炭が、金網の上の肉をじっくりと焼き上げていく。

 肉の様子を眺めながら、ナッツが呟いた。


「……カグラの考えはわからないよ」

 人の思考は一つでなく、生きる目的もたくさん持っている。だから、カグラの気持ちが望む答えも一つではないだろう。

『わからないな……』

「何がさ?」

『どうして、亡霊ゴーストに襲われている私たちを助ける必要がある』


 ……推測でしかないが――。


「マザーグースの歌を完結させるには、魔物に襲われる必要があって、外部からやってきた亡霊ゴーストで命を落とすと、物語が不完全に終わってしまう……こう考えたんじゃないかな」


 焼き上がったばかりの赤毛牛レッドバッファローの厚切りロースを、はふはふしながらかぶりつく白い猫は、その一枚を食べ終えてから言う。


『それならば、どうしてポータルは開いたのだ』

牢獄迷宮プリズンダンジョンには、二つのことわりがあって、一つは魔物たちの全滅……これは、もともとダンジョンが持っているもの」

 次の肉を焼きながら、僕は続けた。


「もう一つは、マザーグースの歌に隠されたルートになる。前者のものでも、ポータルは出現して外に出ることもできるけど、おそらく解決していないからダンジョンそのものは消滅しないんだと思う」

 お店の庭先で、僕たちは遅めのランチタイムをしていた。

 牢獄迷宮プリズンダンジョンから脱出し、その次の日の昼のことだ。


 キッチンカーの隣で、炭を起こして、外でバーベキューをしている。


『一度きたことがあるのに、カグラは迷子になっていたのか……』

「そうなるね」

『今回は、牢獄迷宮プリズンダンジョンは消滅したが……違うのか?』

 ナッツの疑問の答えは、ロビン・ザ・ボビンのもう一つの説になる。

「自然災害を示しているものだったんだよ」

『……なんだそれ』

「全てを飲み込んでいく歌は、教会や司祭を飲み込む言葉があるから、王様に不満を抱いた者たちの復讐劇に見えるけど、実際は誰にも止められない自然災害……台風やハリケーンが、街を飲み込んでいく話になるんだと思う」


 ……おそらく、カグラの解釈では王が絶対なる支配権を持つこと――。


「だけど、本当は王にならなくてもよかった。魔物たちが自然と淘汰され、誰もいなくなる構図を作ると、牢獄迷宮プリズンダンジョンの目的が果たされる」

『そういうことか』

 ナッツが五枚目のサーロインステーキにかぶりついたところで、コンロの炭の勢いも収まった。


 ……はじめからあの世界プリズンダンジョンにいなかった存在――カグラの召喚した魔物が、エスカルゴを討伐し、そのまま何事もなく姿を消すと、全ての魔物がいなくなることになる。


 それが――攻略条件になった……。

 カグラも途中で、そのことに気がついたのだろう。


(だけど……カグラが手に持っていたものは何だったんだろう……)

 牢獄迷宮プリズンダンジョンを解決するのが、彼女の目的ではない気がする。


僕はバーベキューコンロを見下ろしながら、落ち着いてきた火に炭を加えていく。肉を待つ猫が、そばでじっとこちらを見つめていた。


 ……術式展開――種火……強――。


 声に呼応するように、ボォッと炭に火が宿る。徐々に赤く鮮やかに、補充した炭に熱が充電されていった。

(こんなところかな……)

 亜空間収納ストレージには、ダンジョンで仕入れた幻影魚ファントムレイが残っている。


「ナッツさん、魚もあるけど――」

『肉だ。肉にしろ』

「……わかったよ」

 ……猫は魚が好きなものではないかな?

(用意した赤毛牛レッドバッファローの肉はもうなし……か)

 僕が、ナッツのご所望の肉を準備しようとお店に向かったときだ。


「良い匂いです」

 ……この声は。

「バーベキューですか! 私も食べたいです。あ、でも、お金ないので、情報と交換でお願いします」

 元気の良い声に振り返ると、すでにバーベキューコンロの前に陣取って、肉を食べる準備をしている少女がいた。

「……忍か」

「そんな嫌そうにしないでください」

 忍は空いた皿と箸を両手に持ってにっこりとと微笑んだ。

「今、準備するから……」

「はーい」

 彼女の返事を聞いたあと、僕は厨房で肉の準備を始めた。


 せっかくだから、カグラについて知っていることを忍に聞いてみるか……。余計なことを知りすぎると、また厄介な問題に巻き込まれるから止めたほうがいいか……。


 厚切りにした赤毛牛レッドバッファローの肉を用意して、僕が庭に戻ると、何も置かれていない網の上をじっと見つめる二人がいた。


(コンロを見ていても、肉は出てこないんだけどね……)


 カンカンに熱された網の上に、分厚い肉の塊を豪快に乗せる。ジュワアアアアアアアッ、と肉の旨味が心地よい音を響かせた。

 今すぐにでも食らいつこうとしている二人を制して、僕は肉に意識を向けた。


 赤毛牛レッドバッファロー――その名の通り、赤く鮮やかに輝く肉の表面は、またたく間に極上の褐色へと変わっていく。

 上質な脂が、ぼたりと炭の上に落ちるたび、食欲を倍増させる旨味の香りへと昇華させていった。


「焼けたよ」

「いただきまーす」

 切り分けたステーキを皿に乗せる。二人の顔も笑顔に輝く。

「ところで……情報ってなに?」

 僕が聞くと、忍は口をもぐもぐさせながら言った。

「はふ……かぷ、でしてね……かみかみ、だから、今日来たんです」

 ……うーん。何言ってるのかわからない。


 ――かみかみ、ごくん……。忍は肉を飲み込んでから言葉を続けた。


「道東のほうで、プリズンブレイクが発生したらしいです」

「ダンジョンの?」

「いえ、違います。こちらの世界の施設です」

「ふーん」

 大問題ではあるが、探索者の仕事は魔物から街を守ることだ。人を裁く権利も管理するのとも違う。

「興味ないんでふか?」

「食べてから話そうか……」

 ……口の中に物を入れながら話すから、時おり忍の言葉が聞き取りづらい。


「今回の件は、牢獄迷宮プリズンダンジョンが関わっているんじゃないかと……カグラ先輩が網走に出張に向かったんです」

「……カグラが?」

 少し驚きながら言う僕に、忍は不思議そうな顔をした。

 ……この機会に聞いておくべきか――と、僕が悩んでいると、箸を置いてから忍は言った。

「その節は、先輩にお弁当を届けてもらいありがとうございます」

「何とか届けることができたよ」

「……?」

「忍……。魚もあるけど――」

「肉オンリーでお願いします!」

 カグラの件は、しばらく保留にしよう。

 ちらりとナッツのほうを見てみるが、我関せずを決め込んでいた。


 ……意外と、魚は人気ないな。

 僕は一人――幻影魚ファントムレイの切り身を、炭火で炙り始めた。


 ……そのうち、縁があったら、カグラにはまた会えるだろう。

 最後までお読みいただき、ありがとうございます!


 もし「面白かった」「続きが読みたい」「お弁当が美味しそう」と少しでも思っていただけましたら、

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 これからも湊たちの日常と冒険を温かく見守っていただけると嬉しいです。

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