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『始原の帰還者、札幌でひっそりお弁当屋を始めます〜深層の魔物で作った『魔素抜き弁当』が美味しすぎると探索者たちの間で話題な件〜』  作者: 姫宮澪
不死者の冤罪【六食目】本日のメニューは「土鍋ご飯とレッドバッファローの牛カツ弁当」です。

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エピソード102 巨大エスカルゴとマザーグースの謎【異常な共食いの果てに、ダンジョンの真理に辿り着くシェフ】

 ドオッンッ……!!


 後ろ……――僕がいままでいた辺りから、激しい爆破音が聞こえた。

 一瞬、立ち止まった。


 振り返ると、後方には吹き飛ばされた店舗の残骸が散乱している。


 ……何かがあった。

 そう感じたときだった。


『……気にするな。行け』

 遠くのほうから、ナッツの念話が脳に響いた。

「今のは?」

『派手にぶっ放しただけだ……ただの挨拶だ』

 シタッ……微かに地面を踏みしめる猫の足音が聞こえた。


――感覚共有!


 術式を展開させると、ぐらりと視界が揺れ……最初に目に留まったのは、少し離れた位置から心配そうに見下ろしてくる一人の少女――カグラの姿である。


 ……何かを言っているようだ。


 白い猫の聴覚を共有し、調整を行うと徐々にカグラの声が聞こえるようになる。


「猫さんっ! 大丈夫?」

 焦りをにじませた彼女の声は、こちらに――白い猫に近づいてくるのがわかった。


『何も問題ない……迷子、備えろ』

「えっ」

 急に問われ、カグラは辺りの様子を見渡す。猫の視界が魔力の流れを追いかける。

『相変わらず、見づらい魔力を持ってるな』

 言って、白い猫は後ろに大きく飛び退き、見えない斬撃が少女を襲うのを見越し、魔法盾マジックシールドを展開させる。


 ナッツが派手な術式を放ったのは、おそらく亡霊ゴーストたちの目を奪うため……視界を撹乱するのが目的だろう。


 だが、亡霊ゴーストたちは、魔力で遮られたはずの空間を飛び越え、カグラの位置に正確に狙いを定めているようだ。


『……厄介な相手だ』

「猫さん! 避けてっ」

 カグラの声――その意味が何を示しているのか認識するよりも早く、ナッツは虚空に現れた炎の槍を片手で薙ぎ払った。

『心配するな、迷子。私はこんなものでは仕留められない……』

 にじり……と、猫は後ろに下がり身構える。相手の魔力を防ぐことができても、見えない相手……それも、カグラを守りながらやりあえるほど優しい相手でもない。


『どうしてわかった……』

「え? なに……何のこと?」

亡霊ゴーストが仕掛けてくる前に、お前が私に言ったであろう。見えてるのか? あいつらのことが』

「えぇ、そうよ。今、まがは左の後ろから何かの術式を展開させている。けがれは上から薙刀を持って構えているわ」

『ほぉ、それだけ分かれば十分だ』

 シタッ……と、ナッツは地面を踏みしめると、カグラに向けて、対魔力結界を施した。

『……待っていろ。すぐに戻る』

 言って、白い猫の視界は一瞬、空の方を向いた。


 ……視界を戻す――。


 亡霊ゴーストたちとの交戦中のナッツから、僕は五感を自身の感覚に入れ替える。

「素直に行かせてはくれないよね」

 目の前に立ちはだかる魔物たちの群れに遭遇したからだ。


 ……先ほど、地上で仕留めたものよりも格上だろう。

(……来るか!?)

 だったら――僕は飲食街を模した通路から、横道に入った。

 今は無用な争いは避けたほうがいい。道を変えても、魔物たちは距離を取りながら追いかけてくる。


(逃してくれないよね……)


 通路を出た瞬間に――術式を発動、砂沼サンドピット


 魔物たちの足元が溶け、砂に変化した。

 足止めくらいにはなるだろう。


 振り返ると、魔物たちが砂の沼にはまって動けないでいるようだ。

(このまま、太陽の広場を目指そう……)

 そこに答えがあるはずだ。


 ヴォオオオオオオッ!


 嫌な予感がした。異質な魔素の流れが、僕の肌に突き刺さる。

 魔物の叫び声だろう――その声は、周囲を威嚇する竜の咆哮にも似ていた。


「あれは……? 何だろう」

 巨大なカタツムリ――それまで、僕がいたはずの通路の曲がり角に、大きな渦巻きを背負った魔物がいた。


 ……特大サイズのエスカルゴかもしれないな。


『魔素の動きがおかしいが、何があった?』

 脳内に言葉が伝わる。目の前にいたそれに見とれていた僕の意識は、ナッツの声で呼び戻される。


 ……おかしい。魔物たちの動きが、僕の知っているものではない。


『ミナト! どうした!』

「大丈夫。こちらは何ともない……」


 ……実際には何が起きているのかわからない。だから、僕にはそう答えるのが精一杯だった。


「ナッツさん、状況は?」

亡霊ゴースト共には何も通用しない』

 ……概念の補強、それとも隠蔽……いや、そもそものことわりの質が異なるのかもしれない。


「魔物たちの動きがおかしいんだ」

『……わかった』

 それだけ言ってから一旦、ナッツからの念話が途切れた。


 ……違和感。それは、魔物たちが互いに威嚇しあっていることだ。あるものは、襲いかかり、またあるものは、魔物ごと飲み込もうとしている。


 まるで……人間同士が争う姿にも見える。


 牢獄迷宮プリズンダンジョンは罪を背負うものが、その欲望によって体現した世界だという。

 罪と罰――欲望と生存……それらの概念の指標としているものが、現実世界においてのことわりになる。


(荒廃した街並みと、魔物たちの減少……)

 いくつかの要因を頭の中で整理してみた。


 ダンジョン内では、魔物同士が争うことはない。ダンジョンの核によって生み出された魔物にとって、生きる目的はあくまでも生存であって、人間社会のような領土争いをする意図はない。


 だけど……――もしもだ。


 このダンジョンが、マザーグースの歌を再現したものだとしたら……。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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