エピソード101 落ちきった砂時計と太陽の広場【白猫に時間稼ぎを丸投げし、崩壊した街の違和感に気づくシェフ】
不死者であるが為にーー生まれながらにして罪を背負うもの……。
自然の摂理と法則を捻じ曲げ、理の再構築の能力を秘めているもの――それらを、不死者の冤罪と呼ぶ。
テイカー……すなわち、死を奪うものを示しているという。
だが――万能というものでもない。ダンジョン内でしか不死者になれず……――時間という制約に違反したものには、罰が与えられる――と、カグラは言った。
『……禍と穢というものが、違反者を抹殺するわけだな』
食べ終わったままの土鍋を両手で抱えながら、カグラは静かにうつむいた。その様子を見て、牛カツの皿をキレイに舐めながら、ナッツは深いため息を吐く。
「違反したのは、私――だから」
……理屈としても、能力の制約もわかった。僕の気になることは一つ……。
「制約違反の理由は?」
「砂がなかった……」
……砂?
「私たち、不死者の冤罪には能力があって、ダンジョン内で不死者として活動できる時間に制約があるの」
『それが、あの砂時計……なのだな』
「知ってるの? 博識な猫さんね」
少し驚いた様子でカグラは白い猫に言った。
……砂時計か? 忍と牢獄迷宮に入ったときにあったものだろうか。
「たまにね。ダンジョンに入った直後に、すでに条件を満たしていれば、砂時計の砂はなくなってしまうこともあるのよ」
……ランダムダンジョンと似ている。理が示す概念の意味を破壊することで、ダンジョンは閉じられる。それと一緒だろう。
それにだ。ポータルが出現していないというのは……
「条件は満たしているのに、答えが見つかっていない……こういうことかな?」
「……そう、ね」
暗い表情で、カグラは土鍋をテーブルの上に置いた。
……残さず食べてくれたようで良かった。
『それで、砂時計の砂とやらがなくなると、亡霊に制約違反で殺し屋たちを送り込まれるわけだな』
呆れた顔でナッツは言った。
だが、答えがわかったところでどうすることもできない……。
――いや、できる。
「答えを見つければいい……」
「無理よ。その間にも、禍と穢が私を抹殺しにくる……そんなことになれば、君たちも巻き込む」
「そこは、大丈夫――」
僕の笑顔の視線の先には、ナッツの姿があった。
「ナッツさん……頼める?」
『お前……あの物騒なものとやり合えというのか』
「時間稼ぎでいいよ」
『あてはあるのか?』
「ない。探す……今からね」
僕の返答に、一瞬だけ嫌な顔をした猫は言葉を止め、その後すぐに、視線をカグラに向けた。
『どうする? 迷子。こいつの大博打にかけるか?』
「私は……」
答えの出ないまま、彼女は視線を足元に落とした。
……決められるものでもないことはわかっている。自分以外の者たちを犠牲にする決断が必要になるからだ。
キュキュン、キュキュ……。
鳥――違う、鳥型の魔物のように見える。
店外には多重結界が展開されているはずだが……。
「ひょっとして、その丸っこいのは鳥のつもりかな?」
背中にある短い羽を羽ばたかせながら、小さな魔物が店の中に飛び込んできた。そのまま、天井をくるくると回っている。
「コカトリスに決まってるでしょ」
『私には羽の生えたリスにしか見えないが……』
……ナッツにも判別不明か。
「リスじゃないわ。鳥、鳥だから」
がばっと立ち上がると、カグラは入口の壁に背を置いて、身を隠した。
「気をつけて! 来るわ。禍と穢が……」
……あの鳥のような不格好な魔物は、カグラが召喚して放っていた偵察用のものだろう。
召喚した魔物が知らせに来たということはーー亡霊が、すぐそこまで迫っているということになる。
かといって、ずっとこのまま、ここに隠れているわけにもいかない……手は打たないとーー僕は少し考えてから、ナッツとカグラに切り出した。
「作戦は、こうだよ。僕がダンジョンの秘密を解き明かす。カグラはそれまで生き残れ――以上」
「ちょ……ちょっと、そんなの作戦じゃない――」
何かを言いたげなカグラを残し、僕はカレー屋を飛び出した。
……いる!? 何かが……。
特定はできない。視線を巡らせる。五感の全てで感じ取り、見えない亡霊たちの気配を探る。
見張られているーー!
でも、僕には手を出してこない。それは恐らく、不死者の冤罪へのペナルティであって、僕とは無関係なためだろう。
だが、それは同時に、彼らがカグラの側にいるということでもある。
(それなら、好都合だ……)
瞬間――術式展開、閃光の乱渦!
ヒジジジジシィイイッ……!
激しい稲光が乱舞するように、辺り一面を飲み込む。
亡霊だとしても、広範囲で無数の雷を突き落とせば、ダメージはなくとも足止めくらいにはなる。それに、無差別級の術式は見えない相手にも有効だ。
(ナッツさん! 後は頼んだよ)
『任せろ……だが、あまり時間はないぞ』
(わかってる!)
僕は念話でナッツと会話した後、太陽の広場に向かった。
……違和感があった。始めからだ。魔物たちにも。崩壊した街にも。
――もしも、そうだとすれば……。
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