決着。そして再戦
「…こ、このままでは…」
粉砕男がマウトに踏み潰されながらもがく。
マウトの右手には額から血を流すドクロ、左手には骨の体を握り潰されそうなテリー。
兄妹は同時に地面に叩きつけられ、地表で激突しあう!
その時生じた衝撃波で目の前に立っていたれな姉妹が吹き飛ばされる!
「弱い!あまりに弱い!!やはり最強の捕食者の前では単なる動かぬ餌にしか過ぎないようだな!」
マウトはひたすら一同を見下しながら、今度は目の前にいたタイガとダイルを蹴飛ばし、遥か遠くの岩石に叩きつけてみせた!!
崩れる岩石…。
「ダ、ダイル…!あいつを倒す方法はないの…」
タイガは口や鼻から血を吹き出しつつも、諦めずに立ち上がる。
ダイルもヘルメットが崩壊、アーマーもヒビだらけで何とか壊れずに保たれてる状態だ。
「…悔しいが、やつは悪喰の魂の力を受け継いだ、すなわち悪喰が今まで食ってきた捕食者の力を全て取り入れている正真正銘の最強の捕食者だ。やつに働いてる再生力は捕食者数百人分だ…消耗してる俺達では、全員の魔力を同時に撃ち込んでも足りぬだろう…ぐは!!」
台詞が終わるなり、マウトは更にダイルを殴り飛ばし、空中に跳ね上がったところで踵落としを決める!
とてつもない範囲の土砂が上がる…。
「ダイルよぉ、お前ついこの間まで最強の捕食者だったよな?何で最弱級の俺にこうして薙ぎ倒されてるか分かるか?」
マウトが話してる間にも彼の背中目掛けて葵が自身のエネルギーを込めてハンドガンで発砲しているが、マウトはもはや相手する事なく背中で受け止めては再生を続けてる。
「それはな…!弱者を殺すという事の素晴らしさに気づけなかったからだ!力ばかりつけて、強い力の使い方を知らなかったからなんだよクソのアホが!」
仰向けのダイルを何度も踏みつけるマウト。
ダイルは口から血を流し、消えそうな意識を必死に保ち続けるのに精一杯だ。
…一方、闇姫は荒野に立っていた岩の裏に隠れ、飛び出そうとするジャリュウを右手一本で抑え込んでいた。
「離してください!!あいつらは俺のかつての仲間!惨たらしく死なせる訳には…」
「やつらの命がどうなろうと、私には知ったことじゃない」
ジャリュウは闇姫を睨む。かつて敵対していた時と同じ目で、冷たい顔を睨んでいた。
「そんな怖い顔をするな。私が部下の心情を察せない馬鹿だと思うか」
「…え?」
ジャリュウはようやく止まる。闇姫は呆れたようにため息をつき、ジャリュウに説明した。
「あいつは多くの捕食者を食った悪喰の魂、すなわち無数の捕食者の魂を取り込んでる。下手に倒せば周囲に怨念が立ち込め、怨念がマウトを復活させる可能性がある。完全にぶち殺すには魂の力ごとやつを跡形もなく消し飛ばすしかない」
闇姫はジャリュウの肩に右手を置く。
プライドの高い闇姫が他人の肩に手を置くなど、滅多にない。それでもジャリュウは表情を変える事なく、闇姫の目をまっすぐ見つめた。
「私やれな達がマウトを殺すのは簡単だ。だが魂を消し飛ばすとなるとその分凄まじいエネルギーを放つ事になる。地球もただでは済まないだろう。悪喰の魂を持つお前なら少ない力でマウトを倒せる。先程と同じように、魂の力で相殺するんだ」
闇姫はジャリュウに託しているようだ。
勿論最大の理由は魂の力を消す為だろう。
…だが。
「…感謝致します闇姫様。マウトに引導を渡すのは俺が相応しいと…」
「その敬語もやめろ。お前の性に合わなすぎる」
ジャリュウはほんの少しだけ黙り込み…すぐに笑う。
「…やってやるよ!」
ジャリュウは拳を握り、長い緑と茶の髪を振り乱しながら岩から飛び出す。
闇姫は、スカートのポケットに手を突っ込んだまま後に続く。
「うおおおおおおおお!!」
こちらに気づかず、タイガを締め上げるマウト目掛けて飛んでいくジャリュウ。
極限まで距離を詰め、マウトの後頭部へ蹴りをお見舞いした!!
流石にマウトの巨体も前のめりに倒れていき、地面に顎をぶつける。
落ちていくタイガを、ジャリュウは受け止めた。
「大丈夫か」
「…!ジャリュウ…!」
タイガは、目に涙を浮かべた。
…痛みが体を襲っていたのもあるが、何より、ジャリュウが自分を助けてくれたという事実に、涙ぐんだのだ。
…ジャリュウが、大切な人が。
そんな彼女を、ジャリュウは一瞬、本当に一瞬、申し訳なさそうな顔をした。
タイガはその表情の意味がよく分からなかった。
「おのれ…最強の捕食者である俺に敵うとでも思ってるのか…?俺は悪喰と無数の捕食者の魂を持っている。たかが一人の戦士であるお前ごときが…!」
震えながら起き上がるマウトに、タイガを抱えたままジャリュウは言う。
「確かに今のお前は俺より最強かもしれない。…だがな」
タイガをそっと降ろし、両目をつり上げ、右手の拳を握る。
マウトは早いところ決着をつけようと、両手の拳に全ての力を集中させた。
そして、そのままジャリュウを叩き潰そうと両手を掲げるが…。
「…!!」
おかしい。体が動かない。
いや…体は確かに動く。なのに、マウトの意思とは真逆の動きを始めた。
…足が、後ずさっていくのだ。ジャリュウとの距離が、少しずつ離れていく。
冷や汗を流しながら、マウトは膝の高さもないような獲物に打ち震えた。
「狩りは力の差が全てであると思い込んでいる事、そして…俺の魂が俺一人のものだと錯覚している時点で、お前の敗けだ」
正面に円を描くように両手を少しずつ動かすジャリュウ。そこから放たれる殺意と戦意は、敵対していないはずのれなたちまで震え上がる。
マウトに向けられる殺意は、より強く彼の本能を刺激した。
マウトの心が叫ぶ。
敵わないと。逃げなくてはならないと…!
ジャリュウの右手の拳が、白く光る。魂の力が渦巻いていく。
「俺には仲間がついている。タイガ、ダイル、れなたち、そして…」
一瞬腰を落とし、砂煙を放つと同時に、ジャリュウは飛び出す。
魂の力を込めた拳を、閃光と共に振り上げる!
「ハウンディがなぁ!!!」
全ての怒りを込めた声が、意志が、拳に込められ、真下の大地を風圧で抉りながら飛行していく。
マウトはあまりの恐怖に声にならない悲鳴を上げた。
それでも、全てが遅かった。
ジャリュウの拳はマウトの胸に叩き込まれ…槍のごとく、体を貫いた。
白い光がマウトの全身をつ包み、そしてジャリュウは真っ赤な血に包まれる。
マウトは悲鳴をあげながら両腕を振り上げ、そのまま人形のように仰向けに倒れる。
闇姫は、マウトの魂が凄まじい勢いで消えていくのを感じた。
ジャリュウの怒りを込めた最強の捕食者の拳…蛇狼恐拳だった。
「ち…くしょ…。クソ…どもが…」
最後の最後まで、マウトらしい台詞を残し…自身の血の池のなかで息絶えた。
無数の魂を取り込んだ代償か、その体は凄まじい勢いで朽ちていき、毛が抜け、皮膚が溶け、巨大な人骨となり…そのまま崩れ落ちた。
まるで早送りのような速度だった。
息を切らすジャリュウは、冷や汗を流しながらその光景を見つめていた。
「…勝ったああああああ!!!」
れな達が叫び、戦場に一人立つジャリュウに駆け寄っていく。
血にまみれた顔のタイガとダイルが近づく。
「ジャリュウ…やるじゃないの」
顔を赤らめるタイガ。ダイルもジャリュウの肩に手を置き、大きく頷いた。
「…ジャリュウ」
「…ダイル。良かった。お前達が生きてくれて…。あいつらも…」
れな達を見渡すジャリュウ。
マウトが倒されたのを見たドクロが、ジャリュウに一つ提案する。
「ねえ!マウトがやられたって事はやつの部下の捕食者達も説得できるんじゃない?ジャリュウが夢見た平和な島も、きっと作れるわよ!」
彼女のすぐ横で、テリーがガクガク骨の音をたてながら頷いていた。
葵とラオンもジャリュウに近づき、続ける。
「そうだぜ。なんなら私と葵も手伝ってやるよ!もう二度と島が荒れないように…」
…ここまで、ジャリュウは一同の話を聞いて笑っていたのだが…段々とその笑顔は歪んでいき…。
ラオンの言葉の最中に、突然よろめき…。
「…!?おいどうした!?ジャリュウ!」
…ジャリュウは、荒野に倒れてしまう。
激しく息を切らし、口から血が垂れていく。
れみが自然とジャリュウの手を握り、慌てふためいている。
…粉砕男が、何かを察した顔をしていた。
「…戦い過ぎたんだな…」
ジャリュウ本人もまた、何かを悟ったように虚しく笑い、痛々しく咳き込む。
「…どうやら、今の魂の一撃で一気にガタが来たらしい」
ジャリュウに手を伸ばすダイル。その顔は、あまりにも悲しそうだった。
…タイガが、一同に説明した。
「…こいつは私達とは比べ物にならない程戦ってきた。それに加えて、他人を食うという不安定な日々で、少しずつ体が蝕まれていったの」
タイガはそれ以上話そうとせず、目を輝かせた。
…誰も、彼の運命を認めたくなかった。
だから、話さなかったのだ。
しかし…話すべきだったと、深く後悔していた。
…れなたちは何も言えず、ただただ荒れた地面に目をやるしかなかった。
…そんななか、闇姫が沈黙に声を落とす。
「お前の病は数千年にも渡って侵食してきたもの。私の軍でも治せそうにない。残念ながら、お前の目的は失敗に終わりそうだな」
「はは、どうやらそうらしい…。捕食者である俺が最期は病に食われて死ぬ…か」
諦めたように仰向けに倒れるジャリュウ…。
「ならば、最期くらい気取っても良いんじゃないか」
「…え?」
ジャリュウが倒れたまま、闇姫を見上げた。
れなたちも言葉の意味が分からず、彼女を見る。
ここから、闇姫は衝撃的な発言をする。
「れな、ジャリュウと戦ってやれ」
「はい!?」
れなが自分を指差し、大口を開ける。まさに間抜け面…これに関しては他の皆も同じような反応だ。
真剣なダイルや葵、粉砕男でさえも。
「ジャリュウはまだ戦う気力が残ってる。まだ僅かながらも生きていられる。だがこのまま地にへばりついて死を迎えるのはお前には似合わん」
そのまま闇姫は、れなに指を差した。
「ジャリュウ。私にはお見通しだ。捕食者の島に縛られていたあの時、私とれなの戦いを見てお前は目を輝かせていた。そして思ったんだろう。いつか自由になって、幾多の戦いを潜り抜けてきたであろうれなか私と戦いたいと」
「…そうなの?ジャリュウ…」
タイガが、いつになく小さな声でジャリュウを見た。
「…お見通しか。本当にあんた、他人をよく見てきたんだな…」
ジャリュウは足を震わせながらも立ち上がる。
そして、苦しみのなかで笑顔を浮かべた。
「…そうだよれな。お前達と生活して凄く楽しかったし、今までにない感情も沢山浮かべた。お前達は最高の友だよ。…だからこそ、俺の捕食者の本能が唸るんだ。お前と本気で戦いたいと」
…気づくとれなは、拳を握っていた。




