蛇狼恐拳
「でりゃあああああああ!!!」
威勢の良い声と共に、れなが拳を構えて飛び出す。
そんな彼女の左右に飛んでいくのは、葵が自身のエネルギーを込めて放ったハンドガンの弾。
相手するジャリュウはその場から動かず、まずれなに拳を突き出した!
れなは素早く回避、飛んでいる弾を蹴飛ばし、更に勢いをつけてジャリュウへ放つ!
予測不能の二段攻撃だ。だが…。
ジャリュウは、全く声をあげずに回し蹴りを繰り出し、弾に蹴りを浴びせた!
弾は空中で制止したかと思うと、真っ二つになり、地面に落ちる。
れなは歯を食い縛りつつもジャリュウへお返しの拳を突き出す!
…ジャリュウは、それを難なく手の平で受け止める。
それは、れなの全力の突きだった。
受け止められると同時に周囲に拳圧で衝撃波が放たれ、コンクリートの地面にヒビが入る。
れなは目を見開き、人工の冷や汗を額から流す。
ジャリュウの金色に輝く目は戦いが始まる前から全く変わらない。
あまりにも不気味な…蛇の目だ。
「れな!下がって!」
ドクロの声と共に素早く後ろに下がるれな。
同時にドクロ、テリーが両手から黒い光弾を連射し、葵も諦めずにハンドガンで発砲する!
激しい攻撃でジャリュウのいる場所に爆発が次々に巻き起こる。
豪音が響き、テクニカルシティの人々はその音からあたふたと離れたり、逆に興味を持って近づいてきたりもしていた。
近くにやってきた大勢の住人に、ダイルが怒鳴る。
「近づくな!!!」
逃げていく人々。…れなたちとはじめて会った頃のダイルなら、気にも留めなかっただろう。
「…ダイル、お前も甘いな」
爆発のなか、僅かに声が聞こえてきた。
ダイルが視線を向けると…爆発の中から、全身から煙を吹き出すジャリュウが飛んできた!
ドクロに右手で強烈な拳を炸裂させ、左足で隣にいたテリーを蹴飛ばす!
吹っ飛ばされる二人を横目にジャリュウは葵に近づいていく。
葵は距離を離しつつジャリュウへ発砲し続ける。
葵のエネルギーを込めた弾丸だ。並みの銃弾とは威力は桁違いなのだが…ジャリュウは左腕で銃弾を受け止めながら歩みを止めない。
そして右手で葵の長いサイドテールを掴み、頭上に掲げて振り回し、投げ飛ばす!!
空中を舞い、大地に叩きつけられる葵。
周囲には岩が飛び散り、その衝撃を物語っている。
そのまま動かなくなる葵…。
れな姉妹は、歯を喰い縛りながらふと視線を変えた。
傾いているビルがある…粉砕男が、倒れないように支えてくれているのだ。
だが一度傾き出したビルを元の位置に戻せてもバランスが保てなくてはそのまままた倒壊する…。
迷いながられなは再びジャリュウに目線を向ける。
…とても嫌な気分だ。ついこの間まで仲良くしていたのに、今ではここまで容赦がなくなるなど。
そう考えると…れなの握り拳に強い怒りが宿っていく。
「…ジャリュウ!!前までのお前は何だったんだ!」
れなは怒りに任せ、飛び出した。その勢いは、飛び出すと同時に周囲に暴風が放たれる程だった。
驚く仲間達。れなはジャリュウに急接近し、ひたすら拳を放ち始めた。
ジャリュウはそれらを全て両手で受け止め、尚表情を変えない。
だが先程とは違う。何か、強い何かをその目に宿している。
れなは、一気に蹴りへ移行した。
ジャリュウの守りは変わらないが…。
「ぐっ…!」
一発だけ、れなの回し蹴りが首に直撃した。
首を抑えて後ずさるジャリュウ。
「れなが攻撃を当てた!」
ドクロとテリーは殴られたばかりでよろめきながらも、その瞬間を見逃さなかった。
…確かにれなが当てたのだが…ジャリュウに何やら不自然な隙ができたようにも見えた。
れなもなぜジャリュウが突然隙を見せたのか腑に落ちないような表情だ。
その理由は、ジャリュウ自身が話した。
「…この一撃。これがお前の全力か。良い一撃だ」
ジャリュウはすぐに首から手を離す。
「…捕食者の島で暮らしてた頃、俺はお前と闇姫の戦いを見て思った。こいつらの戦いは、俺ら捕食者の血濡れた戦いとこんなにも違うのかと。お前らの戦いは、互いを理解しあっている。熱い心を育みあってきた事が嫌でも伝わる。…俺はそこに憧れたんだ。この世界で多くの体験をして、その体験を生かして戦い、そして宿敵同士という関係を築ける…お前らに」
言葉が終わると同時に、ジャリュウの全身に更に力が溢れ出す。
彼の足元から四方にヒビが入る。そして、両手の手刀をこちらに向けた構えをとると、足元のヒビは更に広がった。
「…だがこの世界は俺達捕食者にそのような人生を送らせる事を許してはくれない…!そしてどんなに世の為人の為と戦い続けても世界は変わりなどしない!だから俺は悪に身を投じ、力で世界を制する事に決めたんだ!!」
ジャリュウは飛び出し、れなに渾身の拳を炸裂させようとした。
…れなは、全く表情を変えずにそれをかわす。
ジャリュウの拳だけでなく、ジャリュウの勢いにのせられて一緒に飛んできた石礫すらも、一粒も当たらなかった。
ジャリュウの目が驚きに見開きかけたところで彼に飛んできたのは…。
「ぐはっ!!!」
同じくらい力を込めた、れなの拳だった。
ふらつきながら後ずさるジャリュウに、れなは近づく。
ジャリュウは苦し紛れに更に拳を突き出したが…。先程よりも遥かに遅い。
当然当たるはずもなく、れなはバク宙して回避。
回避直後、れなは逆にジャリュウに向かって宙返りし、その勢いで踵をジャリュウの頭部へ振り下ろす!!
直撃と同時に放たれる暴風がジャリュウの長い髪を凄まじい程に荒ぶらせ、ヒビの入った地面にはついに大人五人が落ちてしまいそうな穴が空いた。
ジャリュウは呻きながら膝をつく。
「確かに世界は間違ってるかもしれない。でもだからって何?いつ世界がお前達を迫害した?」
れなは、いつになく真剣な表情だ。
「お前が努力してきたのはよく分かる。そして、その努力を何度も裏切られてきた苦しみも分かるよ。でもそれで何で世界の全てを疑うの?ジャリュウがこれまで積み重ねてきた経験の果てに私達と出会えたのに、それも全部無駄だったの?」
冷ややかな声に、怒りが宿っていく。
やはり、間違ってる。
れなは同情した。だからこそ、こんな事は許さない。
ダイルも続けてジャリュウに言った。
「ジャリュウ…!ハウンディも望んでないはずだ…!お前がそんな事をする必要などない!帰ってこい!!マウト達他の捕食者は確かに裏切ったが、俺達だけでも捕食者の島を平和な島に…」
「平和など微弱だ!!」
怒鳴るように叫ぶジャリュウ。
すぐに立ち上がり、れなから距離を離す。
そして、またもや全身から力を放つ。
両手を構え、両目から何かを放ち出した。
…これは…殺気だ。
…しかし。
れなは、首が動かなくなる。
いや、動かす事を忘れていたのだ。
れなは、自分の人工の体の奥底から、何かが叫ぶのが聞こえてきた。
逃げろ、避けろ…何度も何度もそう叫んでいる。
他の仲間もそうだった。全身に冷や汗をかき、ダイルやタイガすらも震えが止まらない。
恐怖に支配された一同…。テリーが、黒いスーツの下の骨の体を震わせながら恐る恐る呟く。
「こ、これは…何だこの殺気…!?」
…ジャリュウの背後に、何かの影が現れるのを見た。
それは…黒い大蛇と狼だった。
二つの影が、一同を睨みつけ、とてつもない殺気を放ってるのだ。
ダイルがそれを見て、はっ、と目を見開いた。
「ま、まさか…この技は!!」
「蛇狼恐拳だ」
ジャリュウは一言だけ呟き、両目から金色の光を放った。
直後、ジャリュウの姿が消え…。
全員の背中に、とてつもない激痛が叩きつけられた。




