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最も恐れていた敵

事務所にて…。

れな姉妹が、ソファーに座りながら涙を浮かべるタイガを見守っている。

ドクロとテリーの死神兄妹は向かい側のソファーに座ったまま、無言で俯いている。

粉砕男、葵、ラオンは周辺の地図をパソコンに表示しながら何かを話し合っている。

…ジャリュウとハウンディが行きそうな場所を探しているのだ。


「…ごめんなさい。私があんなクソネズミに捕まらなければ…!…いや、私のせいでこうなったも同然。マウトをクソ呼ばわりする資格なんて…ないわ」

タイガは自分のせいで二人が殺しあってしまったと責任を感じているようだ。こんな彼女の姿は見た事がない。

「…タイガ、今は気を強くもって。二人の無事を祈ろう。少なくとも、今確実に言えるのは…タイガのせいじゃないよ」

れなの一言で、タイガは素直に頷いた。


「…つまり、ジャリュウは闇姫の下について悪になってでも世界を変えようとしているという事か」

ラオンがパソコンの画面から目を離さずに呟く。


…という事は、もう彼は自分達の敵という訳だ。

彼の目的は、世界をあるべき形に変える事。…だが闇姫の下にいる以上、その目的を阻止せねばならない。

皮肉な話だった。

「…あ、そういえばダイルは?」

ドクロがダイルの顔を思い出す。そういえば彼は事務所のどこにも見当たらない。それに答えるのは粉砕男だ。

「やつは確か森に一人で向かっていったはずだ。そういえばだいぶ経つな…少し見てくるよ」

そう言うと粉砕男は玄関へ向かい、一同と手を振りあいながらドアを開き、そのまま飛行して森へと向かった。




…森にはあっという間についた。今日はやけに風が静かだ。

緑の葉っぱのなか、粉砕男は森にゆっくりと降り立つ。何羽かの鳥達が飛び立つ音が、僅かに響いた。


「やっぱここか。ここは森の中でも特に静かだからな」

小さな池が広がる森の一部。池際にある岩に、ダイルは座っていた。

トゲ付きのヘルメットは外しており、スキンヘッドを露にしている。

いつになく弱々しい様子で、彼は軽く手を振ってくれた。粉砕男は彼の隣に座り、静かな水面を黒目のない目で見つめる。


「ジャリュウ達が気がかりか」

「…あの二人は、血塗られた戦場で出会ったにも関わらずとても仲の良い親友となった。それが、こんな道を辿るとは…」

水面に葉っぱが落ち、波紋が広がった。水面に映る二人の姿が乱れる。


何とも言えなかった。

…こんな運命も、はじめから決まっていたのだろうか。


…粉砕男は何となく、本当に何となくこんな事を聞いてみた。

「ダイル、お前は何で捕食者になったんだ」

予想外の言葉に、ダイルは一瞬硬直したようだった。しかし、すぐに立て直したように肩から力を抜き、少し息を吐く。


しばらく沈黙が続き、ダイルは話した。

「…俺には良い妻がいた。娘と一緒に暮らしていた。幸せだったよ」

ダイルの両手が、岩の上につく。少しリラックスしながら話しているようだ。

「…だがある日、妻が他の男に寝取られたんだ。はじめは隠されていたが、すぐに気づいたよ。娘も妻と相手の男についていった。あの頃は本当に世界を憎んだ。別に世界の全てがそんな連中ばかりじゃないのにな。人間ってのは、たった一つの事で全てを決めつけてしまう癖があるみたいだ」

淡々と語るが…ここから、ダイルの声は重くなり、顔は俯いていった。

「…他人の幸せが憎くて、ついに誰かを殺めようとした。そんなある日、突然視界が真っ暗になって、目の前に悪喰が現れた。恐らくやつの能力だったんだろう。やつは俺の心の隙を突き、俺に力を与えた」

粉砕男が大きく頷いた。水面には、もう波紋はない。

再び二人の姿を映し出す。

「こんな年配面してるがよ、俺はジャリュウより後に捕食者になったんだ。だからジャリュウのように長い戦いに駆り出される事はなく、すぐに捕食者の島で殺しあった。はじめは他の捕食者を殺して、正直楽しかった。…そんななかで、俺はタイガ、ジャリュウ、ハウンディに会ったんだ」

「…なるほどな」

ダイルはため息をついた。どこか安心したようなため息だ。

自分の過去を他人に話すなど、いつ以来だろう。これを知ってるのは、ジャリュウとハウンディ、タイガだけだ。

ダイルの眼に再び浮かぶ曇り。

「…ジャリュウの姿は、過去の俺と重なるんだよ。一つの事で、世界の全てが間違ってると考える姿が」

粉砕男の肩を叩くダイル。重く、力強い感覚が走る。


「こんな俺の過去を聞いてくれるような良いやつらだって、いるってのに」

粉砕男は微笑んだ。

ダイルの表情に、僅かながらも活気が戻っていたのだ。

やはり、彼は恐ろしい鰐の捕食者などではない。一人の人間なのだ。


「…じゃ、事務所に戻って二人を探し出そうぜ!」

粉砕男が勢いをつけて立ち上がり、ダイルも後に続く。


…と、その時だった。


大気に異様な乱れが走ったのは。


「…!」

二人が空を見上げる。

森の木々が突然大きく揺れだした。風も吹いてないのに、まるで何かに呼応されるかのように揺れている。

大きな力が動いていた。




事務所にいた仲間達も、その力を感じ取っていた。

特に死神兄妹は魔力に敏感な分、冷や汗を流している。

「何か…来る!!」

兄妹は外に飛び出す。骸骨のテリーは体が崩れそうな程に駆け抜けていく。

一同は後を追う。



…その強力な力が降り立ったのは、森だ。

粉砕男とダイルの目の前に、何者かが降りてくる。


その姿を見て、粉砕男は構えるが、ダイルは何も言わずにただただ肩を震わせた。


緑色のなかに、少し茶色が入った長い後ろ髪。

両肩からは深緑の鋭いトゲが生えており、全身に赤いライン模様がついている。

…その姿から別人かと思った粉砕男だったが、彼が身に付けている蛇の鱗のアーマーを見て、正体を確信する。

「…ジャリュウ!?」


変わり果てたジャリュウは、いかにも、とばかりに胸を張る。ダイルは黙り込んだままだが、もう全てを理解しているようだ。

この後ろ髪やオーラには覚えがある。

…ハウンディだ。

「ジャリュウ、まさかお前…ハウンディを」

「やつは俺に力を託した。…そして俺の意思は変わらない。闇姫様の下で、世界を変えてみせる」

ジャリュウの全身から凄まじい気迫が溢れる。

そして髪は少しずつ靡いていき、少しずつ力が放たれる。


…凄まじい力だ。以前とは桁が違う。

…ダイルは捕食者の感覚で悟った。以前のジャリュウを百とするなら…今目の前にいる相手は万、いや…億とも言えるかもしれない。

粉砕男が拳を向けるが、その足は震えている。

「ジャリュウ…。どうやら俺たちが力ずくでもその目的を阻止しようとしてる事を察してるようだな」

「…そうだ。だが戦いで俺を制するのは無謀だぞ」

こいつは本気だ。本気で闇姫軍の下につき、世界を支配しようとしているのだ。


…それでも粉砕男達は、今あるこの世界の秩序を守らなければならない。

でなければ…犠牲が出る。

話し合いが通じそうな相手ではない…!


「…いくぞジャリュウ…!」

粉砕男が静かに唸ると同時に飛び出し、拳を振り下ろす!


…が、拳は当たらなかった。

ジャリュウは、一瞬で目の前から消えてしまったのだ。


「!」

後ろだ。後ろに回り込まれたのだ。

背後からの殺気で、振り返ろうとしたのだが…。



おかしい。体が動かない!


ジャリュウは粉砕男の背中に、蹴りを叩き込んだ!



…静かに倒れる粉砕男。


ダイルは、後ずさる。

「安心しろ。殺してない。ただ目を覚ますまでは時間がかかるだろうな」


これは…ハウンディのスピードだ。

いや、ハウンディよりも速い。

それだけではない。その蹴りの勢いも鋭さも、以前のジャリュウと比べてあまりにも強力だ。

ジャリュウの攻撃技術、ハウンディのスピードの両方を揃え、しかもその腕は元の二人の何百倍もある。


そして何より…。


「っ!!」


…殺気が凄まじいのだ。

ダイルの目の前に、一瞬でジャリュウが詰め寄る。

その金の瞳に見つめられると、全身に殺気が覆い被さり、動けなくなるのだ。

何なのかこの感覚は。



…捕食者を前にし、動けなくなってしまう「本能」だ。

こいつを前にすると、理性があっても本能が叫んでしまう。

まるで、操られているかのように…。

「ダイル」

その声を聞いたダイルは、全身の血の気が引いた。


…これが死を覚悟するという事か。


「…俺の邪魔をするなら、いくらお前でも命はない」



そう言い残すと、ジャリュウはとある場所へと飛行していった。

ダイルは倒れた粉砕男のすぐ隣で、ただただ震えるしかなかった。



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