血染めの友情
…一同は島をくまなく探し回ったが、消えたジャリュウとハウンディの姿はどこにもなかった。
一体どこへ消えたのか…あの満身創痍の状態では移動するのも困難なはずだが、この大人数の目が集中しているなかで煙に紛れて姿を消し、そして今、一同の捜索から逃れる事も不可能だ。
それに、なぜ姿を隠す必要があるというのか…。
「謎が謎を呼ぶなぁ…」
岩をどかし、絶対いないであろう岩の下を見ながられなは呟く。
それを見ていた葵は、先程の事をもう一度頭に巡らせていた。
…そういえばダイルが何かを言いたそうに打ち震えていたが…。
「…れな。ダイルなら何か知ってるかもしれないわ。島の中心に行きましょう」
今島の中心では死神兄妹がタイガを回復させているはずだ。そこに、ダイルもいる。
「やはり、いなくなっていたか…」
…島の中央では、岩にもたれるタイガを死神兄妹が見守り、そしてダイルが虚しそうに俯く姿があった。
彼はやはり何かを悟ってるらしい。
「…ジャリュウは昔から多くの戦士達と命をかけて戦ってきた。その戦いのなか、戦士達の技を見よう見まねで幾つか覚えてきた。恐らくやつはそのうち、テレポ移動を使ってる」
テレポ移動…れなは首を傾げるが、葵はこの技を知っている。
瞬間移動とよく似た、別の場所へ瞬時に移動する技だが、少し違う。
瞬間移動は魔力を使い、空間と一時的に調和し、空間をすっ飛ばして移動する技。魔力を浪費するので使った後には残留魔力が残される。
テレポ移動は残留しないほど微量な魔力を使い、自身の体をデータ化して別の場所へ移動するもの。本来は宇宙戦艦などに使われる技だが、生命体が使うと、自分の体をデータ化するという全細胞を使った運動となる為、大幅に体力を消耗する事になる。
…つまり。
「あの状態で使えば…恐らく…」
「どこへ行ったか分からないの!?」
ダイルの言葉を遮るようにれなが割って入る。
しかしダイルは首を横に振る。
そう、テレポ移動は魔力を残さない。つまりどこへ行ったのか、魔力探知で探れないのだ。
「…やつは恐らく、ハウンディを助けようとしている。…闇姫軍に入るという目的より、最大の友を選んだのだ」
ダイルの両手が、ついに地面についた。
「…ここは…」
…ハウンディは、とある山で目覚めた。
木々に覆われる山奥の広場で、横たわっていた。
全身に軋むような激痛が走るが、もう痛みに慣れてきてしまっていた。
「…ハウンディ、今…助けてやる」
ハウンディの視界にジャリュウが入る。そして、もう僅かな魔力を使い、手から不可視の癒しの波動を放って彼の傷を癒そうとする。
「…この技は、こういう自然のある場所だと効果が高くなるんだ…テレポ移動でここへ来た」
そう言うジャリュウも時々血を口から流し、手足が震えている。
そのうち膝をつき、立つ事すらできなくなってしまう。
ハウンディの方が負傷は酷いが、だからと言ってジャリュウの傷が浅い訳ではない。この調子では、彼の命が尽き果てるのも時間の問題だ。
「…」
ハウンディは、辺りを見渡した。
美しい木々、美しい草花。
捕食者の島と似ているが、各所にある岩には血はついてない。手や足が転がっている事もない。
どこにあって、どんな山なのかは全く分からない。
だが…彼は思った。こんな自分でも、こんな美しい物を目にする事が許されるのかと。
こんな自分でも…他人に命をかけられる価値があるのかと。
どうしてこんな事を考えたのかは分からない。
分からないが…今自分が何をすべきか、ハウンディにはもう理解できていた。
「ジャリュウ」
彼の名を呼ぶ。
ジャリュウの顔には、既に苦痛が表れ始めていた。
「俺を食え」
沈黙がよぎる。
「…お前ならそう言うと思った。そうはさせねえ。…むしろ食われるべきなのは俺だ。長く付き合ってきたお前達を裏切ったのだから」
「俺は裏切られた覚えなどない」
ハウンディの言葉に、ジャリュウの目が動く。
「この世界を変える。それがお前の目的だったはず。お前はその目的の為に懸命に生きているだけだ」
「…バカ言うな!俺は進んで悪の道に落ちようとしてるんだぞ!…もう俺は何がしたかったのか分からない。世界を変えたいなどと、大層な事を言っておいてこの様だ…!俺なんかが助かるなら、お前が…」
言い終わる直前、ハウンディがジャリュウを睨むように顔を歪めた。
「お前は俺に勝った。勝者は敗者を食う。今までと同じだろ」
そして…黙りこむジャリュウを見た瞬間、ハウンディの険しい表情が緩んだ。
「それに…敗者は勝者の役に立てる」
俯き気味だったジャリュウの顔が、はっきりとこちらに向き直る。
まっすぐな瞳、まっすぐな表情で。
「ジャリュウ。俺は、お前の役に立ちたいだけだ。お前は俺よりも力も信念も強い。俺の代わりに、この世界を変えてくれ。どんなやり方でも構わない。もう二度と、俺達のような人間を出さない為に」
彼は、ハウンディは、本気だった。
本気で世界を変えようとしていたのだ。
本気で、ジャリュウに全てを託そうとしていたのだ。
「…それにお前は、もう時間がないだろ」
一つ一つの言葉が、ジャリュウの心を揺さぶった。
癒しの波動を、もう放たなくなっていた。
「俺の力を貸してやる。…いや、くれてやる」
森に、一際強い風が吹いた。
「…ハウンディ」
「…お前は、最高の友だよ」




