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大蛇と大狼

蛇の拳と、狼の拳が交差し、互いの顔を殴りあう。

異なる方向から放たれあう凄まじい風。

空中にいるれなたちの髪も大きく揺れ動き、顔を抑える。

ラオンが紫の髪を整えながら目を丸めた。

「あいつら…ここまで強かったのか!?」

それに答えるのは粉砕男。


「いや、これがやつらの秘めた力。今まで隠していた捕食者としての力を解放しあってる。正真正銘の本気なんだ」

…つまり、本気で殺しあっているのだ。

ジャリュウの拳がハウンディの腹部にぶつかると同時に、ハウンディの長髪が真上に跳ね上がる。

凄まじい衝撃で内臓までもが吹き飛びそうだ。

だが、血を吹きつつも、逆にジャリュウの首に回し蹴りを繰り出した!

その蹴りはあまりの勢いで、もはや打撃の領域を越えていた。

蹴られた跡には切り傷が残され、血が吹き出す。

首を抑えながら、ジャリュウは軽く呻いた。

それでも止まらない。二人は同時に拳を放ちあい、衝撃波が二人を包み、衝撃波のリングができあがった。

もうここまで来てしまうと、れなたちが助けに入る事も、マウトが余計な手を出す事も不可能だ。

二人が動く度に鋭くなる衝撃波はいつの間にか周囲にリング状に亀裂を刻んでいき…そして、二人が戦っている島の中央部分が切り取られてしまう。

そして、更に襲い来る衝撃波で二人がいる足場までもが砕けちり、二人は空中に飛び上がり、飛行する。

互いの腕を殴り、足を蹴り、時には顔面に頭突きさえもお見舞いしあった。

二人の顔から、手から、足から血が垂れ落ち、真下の海面を赤く染める。

そのうち、もはや飛行さえままならない程に意識が遠くなっていく…。

空中でふらつきながらも尚殴りあう二人に、マウトはもはや有頂天だ。

「素晴らしい!なんて美しい光景だ!互いに死を予感しあった捕食者どうし、それもかつての友同士がこんなにも激しく殺しあってくれるとは!」

そのすぐ横では、タイガが恐ろしい形相で彼を睨み付けている…。



…れなたちは呆然、ダイルの目には、光が浮かんでいた。

拳を握り、何もできない自分を呪う。今の彼は、マウトよりも自分を憎んでいるだろう…。


…そして、とうとう二人は島に落ちてしまう。

背中をぶつけると同時に大地に広がる赤い血。

その血ですらも、二人のあまりの闘気によって削れるように消されていく…。

傷だらけの二人。その体からは、白い蒸気が吹き出していた。

闘気を放ちすぎて、熱が放出されているのだ。生命維持に必要な熱が…。


島の中央にできた湖を囲い、互いの惨状を見合った二人は、そろそろ頃合いだと悟ったらしい。

「…ハウンディ」

「ジャリュウ…決着だ」

二人はもはや立つ事さえ難しい足で腰を落とし、深い構えをとった。

二人の闘気が、今まで以上に激しさを増していく…。

周囲の岩が、闘気だけで切り裂かれ、島の大地に突き刺さっていく。


砂煙で、れなたち、そしてマウトとタイガは戦いが一時的に見えなくなる。


煙のなか、二人は同時に叫び、同時に湖の上に飛び跳ね、全ての力を叩き出す!!

蛇槍拳(じゃそうけん)!!!!」

「狼山脚(ろうざん

きゃく)!!!!」

ジャリュウが手刀、ハウンディが飛び回し蹴りを放ちあった。

ジャリュウは蛇、ハウンディは狼の魔力を全て一点に込めたまさに二人の全てを象徴する、捕食者最強の一撃だった。

その衝撃は、飛行してるれなたちが危うく打ち落とされそうになり、マウトの方にも衝撃波が放たれ、飛んできた石つぶてがマウトの頬を掠めた。

真下の湖から吹き出す海水。噴水が、砂煙を打ち消していく…。




…煙が晴れると、二人は背を向けあっていた。

緩やかになっていく噴水に打たれる二人。

異様な静けさが走る。

「…!!」

れなたち全員が、息を呑む。












…膝をつく音がした。





…ハウンディだ。

ハウンディが膝をつき、崩れるようにうつ伏せに倒れてしまう。

ジャリュウも膝をつくが…決め手となったのはジャリュウの蛇槍拳のようだった。

ハウンディの胸は、ジャリュウの手刀に貫通されていたのだ。


「まさかここまで素晴らしい戦いをしてくれるなんてな」

マウトが左頬から少量の血を垂らしつつも、満面に憎らしい笑みを浮かべた。

同時に右手から爪を出し、タイガを見る。

タイガは…目をつぶり、涙を流していた。もはや、言葉が見つからない。

マウトは彼女の首に爪を向ける。

「悲しかろう。お前も地獄に送ってやる」


それに真っ先に気づいたのはダイルだ。

「…タ、タイガ!!!」

あまりの戦いに気をとられていたれなたちが、彼の叫びと同時にマウトの方へ向き直る!

その時には…マウトの爪は既にタイガの首に食い込んでいた…。




…しかし。



「…ん!?あぁっ!?」

マウトの爪にヒビが入り…そのままガラスのように割れてしまったのだ。

驚きのあまり血走るマウトの目は、右手を睨むように凝視した。



「…はは」

弱り果てた笑い声が聞こえ、マウトは地上を見る。

ハウンディが、地に伏しつつも、彼を思い切り馬鹿にした笑顔を浮かべていた。

「…てめえの間抜け面が更に間抜けに歪む様を、死ぬ前に何とか見れたぜ…」

「…っ!!てっ…めええええええ!!!」

マウトの頭に、先程衝撃波が自身に直撃した光景が浮かぶ。

そう。ハウンディは衝撃波をコントロールしていた。マウトの爪に衝撃波が当たるよう調節していたのだ。それに集中していたから、ジャリュウの手刀がここまで見事に直撃したのだ。

マウトは一瞬で怒りに染まった。崖の上からハウンディ目掛けて飛び降り、彼の魂をも食らおうと向かってきた!

勿論ジャリュウはそれを許そうとはしない。ふらつく足でバランスを保ち、右手を蛇に変えてマウトの顔面に噛みつかせた!!

「ぐああっ!!」

マウトは顔を抑えて苦しむ。


「…!今だ!!」

粉砕男が叫んだ。

それにすぐさま反応したのは、一同のなかでも体が小さく、動きの素早いれみだった。

縛られてるタイガ目掛けて飛んでいき、手刀で縄を切り裂く。

簡単に切断できた。やはり捕食者に効果を発揮する縄のようだ。

タイガを担ぐように持ち上げ、そのままれなたちのいる岩場へと戻っていく。

「…っ!」

だがマウトも準備が良かった。

黒いズボンのポケットから何かを取り出す。


それは、紫色の手榴弾だった。

ピンを抜き、地面に叩きつける。

着弾を確認したマウトはすぐさま空中に飛び上がって逃げ出した。

手榴弾が爆発すると同時に、周囲に紫色の煙が立ち込め始めた。

ドクロとテリーは分かった。これは、魔力の霧だ。

既に瀕死のジャリュウとハウンディを包んでいく霧。すぐに二人の姿は見えなくなる。

れなが二人を助けようとするが、テリーがそれを止める。

「待て!あれに突っ込むと危険だ!魔力に体を侵されるぞ!」

「でもこのままだと二人が!」

見ると、れみに担がれているタイガも同じように動こうとしている。

その中で、いつも荒れているラオンが珍しく一同を落ち着かせる発言をする。

「見ろ。マウトも逃げていってる。万が一の手段だったんだろう。あいつが瀕死の二人を瞬殺するよりはまだ生存率はある。」

見上げると、マウトも必死で飛行して逃げている。

やつの監視はなくなった。確かに、これ以上細工はしてこないだろう。

ラオンはドクロとテリーに指示を出す。

「お前達死神兄妹の魔力ならあの魔力の霧を打ち消せるはずだ!早く念じろ!」

慌てて二人は両手を向け、魔力を集中する。手先から放たれる見えない魔力が霧と中和し、少しずつ霧を晴らしていく…。

…その間、ダイルが震えているのを、葵が見逃さなかった。

「…ダイル?」

葵が声をかけた直後、霧を晴らしたドクロとテリーがあるものを見て叫んだ。



「い、いない!!!」



一同が目を丸める。


霧が晴れた広場に倒れているはずのジャリュウとハウンディが、姿を消していた。


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