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葛藤する大蛇

…闇姫のもとについたジャリュウの脳裏に、ある記憶が浮かんでいた。





数日前…。




…夜の捕食者の島にて。

他の捕食者達が寝静まるなか、ジャリュウとハウンディだけは、島の中心にある大木に背中をつけながら、話し合っていた。


ジャリュウは感じていた。

自分のなかで、何かがおかしくなっているのを。


…親友のハウンディの前では、ジャリュウはすぐに話してくれた。

「何かな、相手を痛め付けるのが楽しくなってきたんだよ。相手の苦しむ姿を見ると、何だか…勝ってるって感じがすんだよ。それが凄い心地よくてな。もちろん表には出さないんだけど…」

「以前タイガを助けた時も相手を必要以上に殴り付けたと聞いた。それも同じか?」

こくりと頷くジャリュウ。その目は、自身の握り拳をじっと見つめていた。

ハウンディは無表情のまま、同じように頷いた。ジャリュウは安心したような顔を見せる。

「やっぱお前は…昔から俺の味方だな。れなたちにもこの事を話そうと思った。だが…やはりお前以上に信用できる相手はいないよ」

「信頼されるような柄じゃない」

そっぽを向くハウンディ。

…彼は昔から変わらずだ。自分はこのように、何か悪いものに目覚めそうだと言うのに。

ハウンディが人と深く話さない理由は、ジャリュウはよく知ってる。



「…あの時、同じような下りがあったな」

ジャリュウの一言で、眠るように目を瞑るハウンディの脳裏に、ある記憶が浮かび上がる。




「俺達はもう弱くない!肉体も精神もどちらかが弱ければ、この世界では生きていけない…。でも俺達はこうして最強の体を手に入れたし、心はあんなにも多くの苦難を乗り越えてきた!絶対生き残れるぞハウンディ!」

そこがどこだったかは覚えてない。ただ、目の前にはとても綺麗な緑の髪を風になびかせるジャリュウが、今と変わらぬ顔で、ある事を誓った事だけは覚えていた。


「俺達は、二人で生き抜こう!そして、この間違った世の中を変えていけるような、凄い男になってやろうぜ!」

彼の手が、ハウンディの手を掴む。

宿ったばかりの蛇の力はもう彼の全身に行き渡り、泥のように冷たい手をしていた事も覚えてる。

そして、その体温からは考えられない、決意と情熱に満ちた眼差しも…。


「…ジャリュウ。お前はしばらくこの島にいろ。そして何より、戦うな」

「は?何でだよ?」

驚くジャリュウ。ハウンディは夜空を見上げた。


「…お前は、この島で一番強い捕食者だ。しかし、一番強いとはすなわち、一番戦う意思が強い者、生きるために力を振るう心意気が強い事を意味する。お前の心は、生きるために強い力を振るう本能に侵食され始めてるのかもしれない」

顔をかくジャリュウ。よく分かっていなそうだ。

だが…とにかく戦わなければ良いという事は理解しているようだった。ほとんど口を出さず話を素直に聞いてくれている。

…そんな彼に、ハウンディはより強く釘を刺した。


「…何より、お前の体は…」


「…よせよ。あまり考えずに振る舞ってんだから」

ジャリュウは、いつになく不愉快そうな顔をした。

「すまんな」

だがそれに対し、ジャリュウは首を横に振る。


本人も分かっているのだ。

長い間最強の捕食者として多くの相手を喰い殺して生き続けてきた。

このまま普通の生活など送れないのかもしれない。


そんな事は、分かっていた。


「…まあ、だからどうするって事もねえよ!俺はもう少し戦い続けたい。…できれば、この事はれなたちには内緒にしておいてくれ。またやり過ぎないように気を付けるからよ」

ハウンディはすぐに頷いた。とりあえずこの辺でこの件は一旦終わりだ。

互いに自分達の配置へと向かっていき、背を向けあう。



「ハウンディ」

ジャリュウがそっと声を出す。


「もし俺に何か起きたら、その時はよろしくな」


ハウンディは何も言わなかった。

彼には、その言葉の意味が分かるようで、分からなかった。




「…」





もう後戻りはできない。

ジャリュウは…闇姫の城の壁を軽く殴り付けた。




…そしてもうひとつ。


ジャリュウが闇姫のもとへ向かったその日の、数日前。


あの男…マウトも、ある事に気づいていた。




「…ダメだ!!」

遥か北にある、闇の世界の漆黒の城。

鼠の耳を生やした灰色髪の小男…マウトが、液体の入った注射器を床に叩きつけ、派手に割る。

そのすぐ隣では白衣を着た蛙型怪人…ガンデルが納得いかなそうな態度を見せていた。

「マウト君、本当にこれ役に立つのかい。そもそも生物を捕食者に変えたって、その捕食者を制御する術がなければ兵器として最大の欠陥品に…」

「だからそこを何とかしようとしてるんだろうが!」

床を勢いよく踏みつけるマウト。彼の目には、ガンデルが手に持つ試験管に入った赤い液体が映っていた。


あらゆる生物を捕食者に変える、捕食者の島の奥底に眠っていた液体だ。

かつて島を支配していた捕食者の王、悪喰はこれを使って捕食者を生み出し、何かしらの術で生み出した捕食者を統制していたに違いない。

でなければ、島の外に脱走せず、悪喰の思い通り大人しく島の中だけで殺しあうなどという利口な連中を作れるはずがないのだ。

(これを使って捕食者を生み出し、そいつらを操って鍛え上げて軍勢が整えば…)

マウトは目をつり上げながら、ボンヤリしているガンデルを睨み付けていた…。



「はっ…まさか!」

マウトは記憶を巡らせていたのだが…途中、とある記憶が彼の脳内で再生された。


悪喰を倒した四人の捕食者…彼らは悪喰を倒した直後、奇妙な行動をとっていた。

ジャリュウが悪喰から取り出した、悪喰の魂…。

やつらはあれを食っていた。

なぜわざわざ食ったのか?

そのまま握りつぶせば良いものを…。

それに、自身の配下の捕食者達も、全員が全員マウトに従ってる訳ではない。

一部はマウトへの恐怖のあまり動いていると言った感じで、本来ならばジャリュウ達に従いたいといった様子だ。実際、ジャリュウ達のもとへ向かいたいと言い出し、マウトの粛清にかけられた者も多く存在する。

あれだけ野蛮な捕食者達が他人に忠誠を誓おうとするとは…。


「…まさか…そういう事か…」

トリックに気づいたマウト…。


マウトの怒りが、徐々に静まっていった。




…必要なのは、獣達を操る魂…。


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