暗雲渦巻く計画の進行
「降りろ」
マウトはあれから調査隊を一人残らず殺害し、船の舵をとってある島に辿り着く。
ロープで両手を縛り付けたタイガを無理やり立たせ、その島に足をつかせる。
不穏な曇り空に、一本の草も生えてない岩の島だ。
まるで山の一部のような島だが…ほんの百メートル程しかない、とても小さな島だ。
そこにあった大岩に向かってタイガを蹴飛ばすマウト。
「やつらは必ずお前を助けにくる。…そのなかで、お前の大好きなジャリュウに面白い事を語りかけてやる」
ショー感覚のマウト。これが成功すれば、彼は闇姫軍から大きな信頼を得られる。
…そして、タイガから手に入れたこの力さえあれば、たとえジャリュウだろうと。
「…タイガ!!」
声がした。
空から飛んでくるのは、ダイル、ハウンディ、ラオン、そしてジャリュウ。
思った通りだ。
四人は地上に降りると、マウトを睨み付ける。…ジャリュウだけは、嫌な汗をかいていた。
「マウト…これは一体どういう事だ?」
「お前の腑抜けぶりはいつ見ても面白いよ…だがそれも今日で終わりだ」
ジャリュウは冷や汗をかきながら、すぐ横のラオンを見た。
ラオンはナイフを構えて今にも飛び出しそうだ。マウトをまだ平和を望む仲間だと思いたいジャリュウは、できれば彼女を止めたいところだが…。
ハウンディは、マウトを見ながらある事に気づく。
「お前、何かオーラが違うな。さては何かしらの力を得たな…?」
「ビンゴビンゴ、流石はハウンディ。さすがさすが」
わざとイラつかせる拍手をするマウト…どうやら相当自信があるようだ。
…と同時に、彼の右足が不自然に足踏みを始める。
…同時に、島の一部の岩石が粉々に砕け、巨大な何かが現れた!
それは、ラオン達の倍ほどもあるライオンの捕食者だった。
首回りに襟飾りを備え、目は本能に支配されたかのように血に飢えている…マウト配下の捕食者、ガウラだ。
ガウラは四人に物を言わせる間もなく飛びかかる!ラオンは飛び上がって反撃の蹴りを打ち込もうとするが、ガウラは巨体に似合わぬ軽やかな動きで回避、ラオンの頭上に飛び上がると、右手を振り下ろしてきた!
間一髪、本当に間一髪で回避するラオン。目の前でガウラの手が岩の地面に叩き込まれ、島全体が揺れ動く。島を破壊せんばかりの暴れぶりだ。
ジャリュウは右手を蛇に変え、ガウラの腕に絡み付こうとするが、そんな彼に対してガウラは真正面から迫る!
あまりの勢いに間に合わず、ジャリュウは蛇化を解除、跳び跳ねてかわすしかない。
ガウラはまっすぐ進んでいたかと思うと突然後ろに下がったり、跳び跳ねたり回転したり、こちらから近づくと、逆にガウラの方も接近したり…一つ一つの動作は単純だが、あまりに暴れまわるので動きが読み取れない。ハウンディでさえも、下手に出れずに様子を伺っている。
「ガウラ、打ち砕け」
マウトが突然命令を下す。するとあれだけ凶暴なガウラがすんなり言う事を聞き、近くにあった大岩に腕を叩きつけ、大量の岩石を放ってきた!
幸い全員がマウトの命令を聞き逃さなかった為、攻撃を察知して回避できたが、岩石が飛び散り終わると同時にガウラがこちらに向かってきた!
両手を叩きつけ、衝撃波を引き起こし、一同を吹っ飛ばす!
「…ふん。ガウラ、何がしたいんだお前は。仕留めたいならさっさと来れば良いだろうが」
ハウンディが茶髪を大きく揺らしながら、空中からガウラを挑発した。挑発にのったガウラは空中のハウンディに飛びかかり、彼と殴りあいを始める!
ハウンディの目が、三人の方に向く…今のうちにマウトを狙えと言う意味だ。
三人は直ぐ様マウト、縛られてるタイガの前に出る。ラオンは早速彼にナイフを向けた。
威厳ある声のダイルが彼に言う。
「タイガを返してもらおうか」
マウトは何も言わずにジャリュウの方を見る…。ジャリュウの目が動く。
「…ジャリュウ、捕食者の力は素晴らしいな…」
「突然何を言い出す…?」
何のつもりだろうか、マウトは語り続ける。
「悪喰が死に、やっと平和が訪れて良かったな。だがいいのかジャリュウ?ずっとあの島に閉じ込められ続けてきたんだろう?なのにお前はなぜ、あの憎い島を守ろうとする?お前、平和を望み続けてどのくらい経ったと思ってるんだ?」
ジャリュウが黙りこむ。訳が分からず、ラオンも黙りこむ。
だが、ダイルが何やら焦り気味な顔をしている…。
「お前の過去…色んな場所に目を通して調べさせてもらったよ。そりゃ、永遠に平和を望んでいたいよなぁ?大量の捕食者を殺して、最強の捕食者とまで呼ばれて…ほんと、哀れだよ」
ジャリュウの左目が、ピクピクと震える。額からは汗が流れている…。
…ただの脅しの類いの話ではないようだ。しかしラオンはどうすれば良いのか分からない。
「だが!どうだ?平和はほんの一瞬…あとは争いと殺戮が埋め尽くす…それがこの世の中さ。ジャリュウ、お前の人生もそれを物語ってるだろう?どんだけ苦労しても、その苦労相応の平和が訪れた事はあったか…」
「やめろ、おいジャリュウ!こんなやつの言う事に耳を貸すな!」
ダイルが必死にジャリュウに言う。こんな彼は見た事がない…。
…その時!真後ろから地響きが襲いかかる!
ガウラがハウンディを地面に叩きつけ、地上に降りてきたのだ。地面にヒビを入れ、今にも飛びかかりそうに唸っている。
「ジャリュウ、俺と共に闇姫のもとへ来い。やつのもとでなら武力が整う。そしてその暁にやつを裏切り、捕食者の王国を築くのだ!お前の実力があれば間違いなく全てを支配できるだろう!」
何かに苦悩し続けるジャリュウ…こんな見え透いた誘惑など、ジャリュウならすぐに払い除けるというのに…。
その時…激しい足音が聞こえてきた。振り返らなくても分かる。ガウラが走り出したのだ。
ラオンとダイルは攻撃の構えをとるが…このままでは間に合わない!
「分かった!話だけ聞かせろ!!」
叫んだのはジャリュウだった。ガウラの動きが止まる。
「察しが良いな…お前がそう言えば、このメスネコも解放してやる事にしてたんだ」
そう言うとマウトは爪を射出し、タイガを縛ってるロープを切り捨てた。
あれだけ強力なロープが…。
「ふふふ…素晴らしい!どうやら本当に力がついたようだな…!」
マウトは自身の右手を見て何かを確信しているようだった。
直ぐ様彼はジャリュウの右手を持ち、そのまま強引に空中飛行を始め、どこかへ飛んでいく…。
「ま、まちやがれ!」
ラオンとダイルも飛行するが、なぜだかマウトは凄まじい速度だ。
二人でも追い付けない程だった。
いつの間にかガウラも飛行体勢に移り、マウトについていく…。
「…くそ!!」
ラオンが拳を思い切り振り下ろした。
ダイル、そして倒れたハウンディが、何かを詰まらせるような表情を浮かべていた…。




