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さらわれのタイガ

「猫ちゃん、ジャリュウの事はどうするんだ?」

「うるさい!あとその呼び方いい加減にやめろ!!」

捕食者の島にて。

タイガをからかうダイルが、早速顔を引っ掛かれた。

怒ってどこかへ行ってしまうタイガを見て、ダイルはやれやれといった様子だ。


「…。…ん?どうしたハウンディ」

ダイルはハウンディの気配を感じ、彼が視界に入るより前に彼に声をかけた。

…ダイルのすぐ後ろから、ハウンディが茂みに紛れて現れる。

だが彼だけではない。

紫の長い髪に紫の目の女が一人現れる。

ラオンだ。珍しい来客だ。

「何か久々だなダイル」

ダイルはヘルメットを外し、スキンヘッドを露にして頭を下げた。

いつの間にこんなに礼儀のあるやつになっていたのかとラオンは驚いた。

「しかしどうしたラオン?お前が一人でくるなど珍しいじゃんか」

「実はこの島の付近に何やら怪しい人間が彷徨いててな」

答えたのはラオンではなくハウンディだ。

言葉通り、怪しい人間が島の付近を彷徨いているらしい。彼らを捕まえ、事情を聴取する為に協力者としてラオンを呼んだとのこと。

その人間達は、銃を持ち歩いているそうだ。確かに、怪しい連中だ。

「ダイル、ラオン。早速調査に協力してほしい。なるべく戦闘には発展させないように気を付けろ」

えー、と言いたげな顔をするラオン。よく見るとポケットからナイフの持ち手が飛び出している…。戦いに来たも同然のようだ。

相変わらず荒れた女だ…。



とりあえず怪しい人間達は岩場の辺りによくいるらしい。

彼らもこちらの存在に気づいているのか、警戒姿勢も徐々に固くなってきているのだとか。


ハウンディ達は岩場へ向かった。

丁度人間が隠れられるくらいの岩が並ぶ岩場だが…早速多くの人間達が用心深く突き進む姿を確認できた。

その手には、ハンドガンが握られている…怪しい人間達だ。

そもそもこの島の事はまだ世に知れ渡ってない。人間がいる時点で、怪しい事だ。

今にも岩陰から飛び出しそうに物凄い勢いで震えるラオンを抑えながら、ハウンディがダイルに言う。

「とりあえず話し合う。お前らはここにいてくれ」

確かに一人で出た方がこちらも敵意がない事が伝わるだろう。

ハウンディは岩を飛び越え、彼らの前に躍り出た。


人間達は突然のハウンディの登場に驚き、音を揃えてハンドガンを向けるが、人間と極めて近い姿をしたハウンディを見て、即座に手を下ろす。

「何をしにここへ来た?戦う気はない。素直に話してくれ」

「す、すまない」

人間達の先頭に立つ黒い武装の男が頭を下ろす。話が通じない相手ではなさそうだ。

男は軽く顔をあげながら、言いにくそうに話した。

「我々は未知なる島を調査し、開拓して人類の土地を広げる、新地開設調査隊。この島も開拓対象に入れていたのだが…いやまさか人間がいたとはな…。いや、君は見たところ…人間とは少々違うような…?」

ハウンディは不愉快そうに一瞬そっぽを向く。それを見て話し合いは少々行き詰まっているのかと思ったらしく、ダイルが表情を曇らせていた。

その顔が偶然目に入ったハウンディは、手早く話し合いを終わらせる必要があると見た。

「どちらにせよ、ここには俺の仲間達が暮らしてる。俺達の居場所はここだけだ。どうか、奪わないでくれるか」

「分かった。こちらからも本部へ報告しておく。騒いですまなかった」

また男は頭を下げる。いつの間にか後ろにいた隊員たちはいなくなっていた。もう事情を察したようだ。

とりあえずこれで解決だろうか…?

事が上手く進みすぎな気もするが、まあそれに越した話はない。ハウンディは背を向け、その男も背を向け、海の方へ向かっていった。


「この島に生物がいるとは知らずに開拓しようとしていたらしい」

ハウンディは森を歩きながら二人に軽く説明した。

それ以上でもそれ以下でもない、そこまで大きくもない出来事…。

…そんな感じで終わらせたかった。


ラオンがこれを聞いて違和感を覚えたようだ。

「おかしくないか?それ」

ダイルとハウンディがラオンの方を見る。

三人の足が止まると同時に、草を踏みつける音も聞こえなくなる。

「調査ってのは念入りな事前準備と下調べの末に開始するものと葵が言ってた。いきなり人間が調査に向かうのではなく、ドローンやヘリ等でその島の詳細を調べる。危険な生物がいないか確認しないといけないからな。虫ぐらいの生物に気づかないならまだしも、お前らのように人間程もある捕食者を見逃す等、普通に考えておかしくないか?」

そういえばと腕を組むダイル。下調べを怠ったのだろうか?

「かと言って…下調べを怠ったとしても、適当に選択した割には、きちんと装備も揃えてきてたな」


彼らは生物がいる事を知るなり素直に立ち去っていったが…。何か、違和感があった。腑に落ちない…。


「一応、追ってみるぞ」

ハウンディはそう言い残して姿を消す。彼らを追いかけていったのだ。

うーむと腕を組むダイル。

「折角平和な島になったんだ。これ以上何もないと良いがな。…もしまた殺しあいでも始まれば、ジャリュウもタイガも…ハウンディも悲しむ」

やはり…この四人だけは他の捕食者とは何かが違うような気がした。


ふと、ラオンは聞いてみた。

「なあ、お前ら、いつから一緒にいるんだ?」

「そうさな、あれはだいぶ昔の話だが」


話が始まろうとした、まさにその時だった。


僅か二十秒程で、ハウンディがその場に戻ってきたのだ。

さすが、速い。

彼にしては珍しく、着地と同時に草が周囲に散らされる、荒い着地だった。


「おい、すぐジャリュウを呼ぶぞ。タイガがさらわれた」


顔を見合わせるラオンとダイル。





「ぐ…!」


…あの人間達が乗り込んだ船にて。

赤いロープで柱にくくりつけられたタイガが、必死にもがいている。

しかしロープはびくともしない。捕食者である彼女が破れないとは、普通の素材ではなさそうだ。

人間達は彼女に銃を向けつつも、どこか浮かない顔をしていた。

「おいどうしたお前達?」

そのなかで一つ、気抜けた声がした。


鼠の耳を生やした小男…マウトだ。

マウトは動けないタイガにゆっくり向かっていき、その手をとる。

「マウト…何のまね!離しなさいっよ!!」

タイガはマウトの右腕を爪で切りつける!

血を流す腕を抑えながら後ずさるマウト。しかし彼は左手をあげ、人間達にとある合図をした。

同時に響き渡る無数の銃声!

「ぐぅぅぅぅっ…!?」

タイガは手足を撃たれ、更に身動きがとれなくなった。

マウトは手を二回程叩きながらタイガの手を再びとる。タイガは、抵抗する力を失ってしまっていた。


「おとなしくしろ…じゃなきゃ、上手くかじれないからな!」

マウトはタイガの腕に食らいつく!

銃の時以上の痛みだった。タイガは悲鳴もあげられず、そのまま意識を失ってしまう…。


「…ふふふ、これが悪喰の血か!今までの捕食者の中でも最高の味だ!」

マウトは軽く舌なめずりをしながら、タイガの手をゴミを投げ捨てるように床に叩きつける。


「マ、マウトさん…これで調査の協力資金をくださるのですか?」

「ああ…ほらよ!」

マウトはポケットから札束を取り出し、彼ら目掛けて投げつける!

思わず両腕を振るう人間達だが…次の瞬間、マウトは爪を射出した!


…同時に、人間達は全身から血を吹き出しながら膝をつき、倒れてしまう。

巨大な切り傷が刻まれた体の人間達。一方札束の方は…一滴の血もついていなかった。

札束を拾い上げるマウトは、にやけながら呟いた。

「いよいよ近づいてきたぞ…俺の捕食者帝国が!」

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