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荒れる蛇

「にしてもこういう喫茶店も建てたいところだな」

トゲの生えたヘルメットを被り、鰐の鱗のようなアーマーを纏う男、ダイルがテクニカルシティの喫茶店の椅子に座りながら呟く。

目の前の椅子に座ってるのは虎耳を生やし、虎縞模様の毛皮を着たタイガ。

硬い椅子の上、落ち着かない様子だ。やはりまだ島の緑の草の上から離れられないらしい。

ダイルの島の外の調査に付き合わされるタイガ…。早く島に帰って丸くなりたそうだ。

ダイルは島の外の施設をやたら気に入っている。ついこの間はボウリング場で危うく島の規定時間である一時間を越えそうになった事もあった。

「今回は早く帰るわよ…!私どうしても慣れないわ」

今まで捕食者の他の血を飲んできた二人にとって、今テーブルの上にあるコーヒーなる飲み物はまさしく異界の品。ダイルは物珍しさを楽しんでるが、タイガは逆に慣れないようだ。

「私は先に帰るわよ。あんたが払ってよね」

ダイルに伝票を突き出すタイガ。なぜこういうところだけは覚えてるのだろうか。



「全くダイルも物好きね」

適当に町を歩きながら海へ向かうタイガ。

回りには鉄の建物が取り囲み、見た事もないような物を手に持ちながら歩いていく人間達。

これが島の外…なるほどあの好奇心旺盛なジャリュウが憧れる訳だ。

タイガは得体の知れないものにはうかつに手を出さないが、この外の世界でジャリュウとのデートスポットを探すのも悪くはなかった。

帰りがてら、デートスポットを探そうと楽しむタイガだが…。そんな彼女を見つめる怪しい影があった。


…人混みに紛れながら進む、黒い帽子を被った男三人。

どう見てもただの一般人だが、彼らはタイガに少しずつ近づいていき…。


そして、突然凄まじい速度になった。

タイガの腕を掴み、周りの人間全てが目を放したほんの一瞬の隙に、タイガを連れ去ってしまう。

本当の一瞬だ。普通の人間から見れば、アニメのシーンが切り替わる瞬間のようにタイガの姿が消えたように見えただろう。

何人かタイガがいた場所を見つめる人々もいたが、気づいていない人々のペースに流され、前が見づらい人混みな事もあって、見間違いだろうとさっさと行ってしまった。



タイガは…三人の男により、すぐ近くのビルの裏側に連れていかれていた。

ビルが太陽の光を遮断している…薄暗いなかで、三人の男は自身の顔を掴み…そのままひっぺはがす。

男のマスクの下から出てきたのは、紫の皮膚にタコのような顔を持つ、悪魔だった。

タコの顔というのはどこか独特な魅力があるが、人の顔をタコのパーツに入れ換えたこの悪魔の顔は、何というか、酷くブサイクだった。

だがさすがタイガ。さらわれた事を自覚しつつも、落ち着いた眼差しで彼らを睨む。

「あんたら、何者よ」

「我々は闇姫軍所属、ミミックオクトパズ!闇姫様の命により、貴様をさらいに来た!」

闇姫の手先のようだが…なぜ今さらさらうなどと回りくどい事をするのだろうか。

ついこの間までその場で殺そうとして来たというのに。

「まあ、どちらにせよついていって得はなさそうね」

「何を言う!闇姫様はお前にお菓子をくれるそうだぞ!」

バレバレの嘘だ。

タイガは三人に同時に回し蹴りを炸裂させ、怯ませる。

ミミックオクトパズは怯みつつも両手を触手に変化させて向けてくる。

「これはもう、互いの体を削りあうしかないわね」

タイガは両手から爪を伸ばし、三人に飛びかかる!


しかし、三人は奇妙な動きを始めた。

自分の触手の手足の先をくっつけあい、上下に動かし出したのだ。

人間では有り得ないとんでもない動き。タコならではの柔軟性だが、何の真似だろうか。

…と思っていると、何と彼らはゆっくりと空を飛び出した。見映えは悪いが、まるで蝶のようだ。

呆然とするタイガに、三人のうち一人が突然触手の手を広げ、ムササビのようにタイガへ向かっていき、蹴りを決める!

吹っ飛ばされるタイガへ更なる追撃を決めてくるミミックオクトパズは…突き出した触手の先端で突いてくる!

まるで、蜂のような勢い、そして鋭さ。タイガは苦痛で姿勢を保てない。

残る三人目が、得意気に両手を振り上げた。

「どうだ?我々はあらゆる生物の動きを模した攻撃を仕掛けられる。我々は少なくとも百以上の生物の動きを熟知している!お前一人に勝ち目はない!」

凄い自信だが…確かにタイガ一人に対し、相手は三人、それも一人だけで百以上の動きをする相手だ。

これにはさすがのタイガも少々震えた。

(これは…素直に降参すべき?でも…!)

戦いに負ける恐怖は、タイガ自身がよく分かってる。

かつては毎日命を削る戦いを続けていたのだから…。

自分の命を守るには、このまま抵抗を続けるか、得体の知れぬ場所へさらわれるか…タイガは、迷いに迷う。



…だが彼女が判断に迷っているまさにその時、救いが舞い降りる。


タイガの頭上を、何かが飛び越えた。

緑の髪に、蛇の鱗のようなアーマー…これは…。


「お前らぁぁぁぁ!!」

ジャリュウだ!

ジャリュウはミミックオクトパズの一人に膝蹴りをぶちかまし、転倒させ、馬乗りになって顔面を殴り付ける。

何度も何度も殴り付け、他の二人、そしてタイガは一時呆然とした。

「…!やめろー!!」

残る二人がようやく動きだし、ジャリュウに殴りかかる!

しかし、ジャリュウは即座に体勢を変えて一人を蹴りつけて怯ませ、更にもう一発蹴飛ばす事で近くのビルに叩きつけた!

ビルの壁がクッションの如く凹む程のとてつもない勢いだ。

最後の一人はもはや戦意喪失していた。背を向けて逃げ出そうとするミミックオクトパズだが…。

「逃げるなっ!!」

ジャリュウは彼の背中に飛び込むような蹴りをお見舞いした!

ミミックオクトパズは吹き飛ばされ、地面に直撃するとそのまま地面にめり込み、周囲にコンクリートの破片を撒き散らしながら飛んでいく。

すぐに路地裏から飛び出し、周囲の人々の目をひいていた。




…気づけば、タイガはジャリュウに連れられ、先程の路地裏とは離れた、また別の路地裏へと飛び込んでいた。

大きなゴミ箱の横で、人目につかないよう身を縮こませるジャリュウ。

「ジャリュウ…」

タイガは、何かおかしなものを感じていた。

ジャリュウ…何やら今日は荒れに荒れてるようだ。

あの拳、あの声。まるでいつものジャリュウとは別人のよう…。

「…心配するなタイガ。お前が襲われてるのを見て、ちょっと頭に血がのぼっただけだ」

そう言うと、彼はいつも通り陽気な笑みを見せた…。


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