曇る内心
「さて闇姫様。あのマウトとかいう捕食者ですが、どのくらいで裏切るとお思いで?」
「もって一年だろう」
そんなに?と、闇姫軍四天王最高の頭脳を持つ蛙型怪人、ガンデルは不気味な笑顔のまま首を傾げた。
会議室のテーブルで一人、大量の書類に目を通しながら闇姫は語る。
「やつのようなクソネズミは汚いが、余程のバカじゃない限り計画にはそれなりの時間はかける。いつでも対処できるように機械兵の量産をしとけ」
敬礼するガンデル。背を向け、研究室へと向かう。
「ああ闇姫様」
突然、立ち止まるガンデル。
「あいつ、一年も持たないと思いますよ。今回ばかりは、あなたの予想は外れると睨みますね」
四天王ならではの余裕だ。
闇姫は無表情のまま、しかしほんの僅かに口角を下に下げる。
「賭けるか」
「良いですよ?」
…闇姫は軽く右手を振るい、虫を払うような動きを見せた。
笑いながら去っていくガンデル。
…さて、闇姫の頭では、マウトは「やつら」のついでにしか過ぎない。
今何とかすべきはあの最強の捕食者四人衆。
しかし下手に飛び出せば、あの四人に加えてれなたちの手も襲い来る。
闇姫は左手で適当に手遊びをしながらゆっくり対処を考えた。
「何をそんなに悩んでいるのです?」
…前を見ると、いつの間にか影姫が立っていた。
つくづく影のように気配を消せる女だ。
「以前対峙した捕食者とやらでしょうか。なぜ彼らにそこまで恐れるのです?」
じっ、と闇姫の赤い目が細くなり、影姫を見上げた。
影姫は右手を上げ、余裕の態度のまま失敬のポーズをとった。「恐れる」は少し余計だっただろう。
「まず単純にやつら捕食者の力が危険だからだ。捕食者というのはまず第一に喰らう相手よりも強くなくてはならない。その為に、やつらの体は常識以上に強化速度が早くできている。…そしてもうひとつ」
闇姫がこれから言おうとしてる事は、あくまで予想の一つに過ぎない。
今まで見てきた幾千万の戦士達の例から読み取った、極限まで真実に近いただの予想…。
「やつらは過去に壮絶な目に遭っているだろう。だから何をするのも迷いがない」
「ほう…」
…テクニカルシティは今日も平和だ。
れなはいつも通り森へ向かい、シャドーボクシングに専念している。
「ほあ!!しゃあ!!ほああああああーあああああー!!!!!」
あまりに専念しすぎて強風が舞い起きている…。
森の木々から鳥が飛び去っていき、葉っぱがそこら中に吹き荒れるなか、そんな嵐をものともせずに二人の男が現れた。
「ずいぶん荒れるな、お前も」
聞き覚えのある声。顔を向けてみると、そこにはジャリュウとダイルが。
自分達で決めた、一日一時間だけ外に出れる掟。それを活かしているのだろう。
この様子だと、どうやられなに会いに来てくれたようだ。
ダイルはあの棘つきヘルメットを被っておらず、スキンヘッドを露にしている。何だか新鮮だ。
「二人とも元気そうで何より!!ところで何の用?」
「修行だ!」
ジャリュウは両手を構えた。
同時に強力な闘気が溢れだす!
「ぎょえ!?」
あまりに唐突な闘気に、れなは思わず右手の平を向け、青い破壊光線オメガキャノンを発射する!
当然二人は避けきれず、黒焦げになってしまった…。
「いきなり何する!?」
ジャリュウが怒鳴る。お前が言うなとばかりに、ダイルが彼を見下ろす…。
その後、れなとジャリュウは簡単な組手をして互いの実力を再確認した。
れなの拳はジャリュウが今まで目にしてきた捕食者にはできなかった動きで相手を翻弄してくる。
ジャリュウは下がりつつ、両手をゆっくり上げていく。
だがれなは彼の手を叩きつけ、構える事すら許さない。
それならとジャリュウはバク中で距離を離そうとするが、れなは一気に近づいて拳を振り上げてくる。
ギリギリで回避できたが、正直まぐれだ。ジャリュウは空中で歯を食い縛り、更なる動きを編み出した。
バク中しつつ地上に降り、逆に接近、居合い斬りの形式で真横を通過しつつ手刀を食らわそうとした。
しかしれなは全てを見透かしていた。向かってきたジャリュウに素早く左足を構え、彼の右手を蹴りつけた!
丁度手刀を決めようとした右手だ。攻撃の構えが崩れたジャリュウは、無防備な状態で自られなに近づいてしまう。
れなは、右足で膝蹴りを放つ。
ジャリュウの腹部にぶつけられる右膝。
…そこまで痛くはなかったが、れなが手加減しているのだとジャリュウは分かった。
ジャリュウは右手の平を向けた。
「負けた。中止しようぜ…」
れな、ジャリュウ、ダイルの三人で森に設置された椅子に座り、緑の風を浴びながら互いに語り合う。
「れな、アンドロイドとはいえ凄い力だな。お前とはまともな組手ができそうにないよ」
れなは胸を張って誇らしげだ。…胸を張りすぎて椅子から転げ落ちてしまうが。
転がったれなを見るダイルの目は細目だ…。
「でもジャリュウも凄いじゃん。あの島で一番強い捕食者なんだから、本気を出せば私も危ないかもね」
笑いながら、れなは思った。もう完全に彼らとは仲間だと。
闇姫という共通の敵もいるのだ。これから敵対する事はないだろう。
ところでと、れなは前々から思っていた疑問を投げ掛けた。
「そーいや、あんたら何者なの?モンスターじゃなさそうだけど」
途端に、ジャリュウが黙りこむ。ダイルも、何やら気まずそうだ。
れなは目を丸め、焦りを浮かべる。何かまずい事を言ったかと…。
「…俺達は、ただの捕食者という生き物だ。それ以上、何者でもないよ」
「そ、そう。何かごめん」
ジャリュウは首を横に振る。
「…そうだれな!今度はこの森をどっちが一周できるか勝負しないか?それなら勝てる自信があるぜ!」
ジャリュウはすっかり元に戻り、れなの返事も待たずに走っていってしまう。
れなも慌ててそれを追いかけていく。
…残されたダイルの目は、深い「何か」が宿っていた。




