ガトリング船長
れなたちの事務所はしばらく依頼が来ず、実に退屈な日々を過ごしていた。
事務所での仕事は依頼を遂行する事。だがその依頼が無くなり、れみが最近覚えた「閑古鳥が鳴く」ということわざを言おうとしたところだったが…。
丁度そこへ、葵が一枚の紙切れを持ってリビングにやって来た。
「久々の依頼よ」
ことわざは言えなかったが、退屈な日々から解放される。
れみは飛び上がって喜び、勢い余って天井に頭が突き刺さった。
依頼の内容は、最近ヒマワリ海域で暴れまわってる海賊を倒してほしい…というごく普通のものだった。
それでも、久々に腕を振るえそうな依頼だ。今回ここにいるメンバーはれみと葵の二人だけだが、余程恐ろしい相手でない限り、二人だけでも十分な戦力だ。
「よーし、じゃあ早速…」
「待てー!」
張り切った声が事務所に響く。
…驚いて振り向くと、玄関に二人の捕食者…ジャリュウとハウンディが立っていた。
れみは二人の前に立ち、彼らを見上げながら怒る。
「普通に不法侵入だよ!」
「すまんすまん。それより、その依頼俺達も参加させてくれよ!」
まさかその為にここまでやって来たのだろうか?
聞いてみると島が平和になって腕が鈍ってきてしまったのだとか。
まあこの事務所に大したルールはない。二人は捕食者の力も借り、海賊退治に出向く事にした。
…そして、その当の海賊達は、丁度港町から大量の物資を盗み出したところだった。
海賊達が甲板に並ぶなか、船長が巨大な木箱の上に立って部下達を見下ろしてる。
その右腕は小型のガトリングガンになっている。左目には眼帯をつけてるように見えるが、よく見るとその眼帯には赤い小さな装置が取り付けられてる。
「野郎共!今度は北のスノバケッツの町を狙うぞ!あそこは良いこたつがあるという噂だ!」
絶え間ない強奪の旅だが、戦闘狂の部下達は面倒くさがるどころか両手を上げて喜んだ。
自分達に敗北はないという自信に満ち溢れていたのだ。
「船長!あっちに見た事のない島が…」
一人の部下が双眼鏡を覗きながら遠くの島を指差した。
木々が生え揃う自然の豊かそうな島だ。あそこなら丁度良い拠点になるかもしれないと船長は考えた。
そこが捕食者の島だとも知らずに…。
「よし!まずあの島へ向かえ!住人がいたら一人残らずぶっ飛ばせ!」
「させないぞ!!」
若々しい声が響き、船長は空を見上げる。
彼らへ向かうのは、右足を向けながら急降下してくるれみが!早速三人の海賊を文字通り蹴散らした。
状況が掴めず慌てる海賊達の頭上から殴りかかるのは、ハウンディとジャリュウ。
葵は飛行したまま発砲、海賊達にわざと当てないように撃ち、彼らの動きを止める。
見るとロープで巻かれた大荷物が置かれてある。先程盗み出したものだろう。
「そいつを返してもらうわよ」
葵も甲板に降り立ち、船長にハンドガンを向ける。
慌てる部下達だが、船長は彼らに渇を入れる。
「お前らぁ!!こんな事で腰を抜かしてどうする!」
ガトリングの右腕を振り回しながら船長は駆け抜ける!
部下達の度胸が一気に戻り、息のあった動きで短剣を振るう!
ジャリュウとハウンディは全方位から迫る海賊達に軽く蹴りをお見舞いする。
だが一人、偶然か否かハウンディに掴みかかってきた中々できる海賊がいた。
そんな彼には…特別にハウンディの蹴りを股間にプレゼントだ。
「!?ぁ…ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああっがあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
…恐らくこの中で最も凄まじい悲鳴をあげていた。
あっという間に倒れた部下達のなか、船長はガトリングをハウンディに向け、激しい連射を仕掛けてくる!
ハウンディは長い茶髪を翻しながら華麗に回避する。
「お前らやるな…!ならこれならどうだ!?」
船長の眼帯から赤いレーザーが放たれ、ハウンディにも追い付くほどの速度で追尾してくる!
かわそうとするハウンディだが、あいにく島のなかで戦い続けた彼は兵器を逃れるのには慣れてない。
レーザーはハウンディの背中に当たり、そのまま彼が動き回っても背中に張り付き続ける。
同時に船長が弾丸を放つ!
無数の弾丸はハウンディの背中に全弾直撃、さすがのハウンディもうつ伏せに倒れこむ。
「ガハハ、これぞロックオンレーザーだ!」
ジャリュウ達が慌てるなか、船長はガトリングを左手にのせ、銃口に息を吹き掛けていた。
ジャリュウは両手を蛇に変え、船長へ向かっていく!
「ハウンディが受けたぶん、てめえの背中に食らわせてやるぜ!」
一直線に向かってくるジャリュウ。
撃とうとする船長だが、ジャリュウは船長の目の前で突然飛び跳ね、船長の意識を逸らす。
空中から船長を蹴りつけ、吹っ飛んだところへ腕を蛇に変え、噛みつきを決めた!
両腕を噛まれる船長。顔をしかめつつも、手すりの上に立ち、またもやガトリングを猛連射!
全員がかわそうと回避の体勢をとるが、思った以上の精度だ。
葵を除いた全員が鉄の弾に滅多打ちにされてしまう。
ここまでの強さ、ただの海賊ではないようだ…。
「俺は嵐の海獣を倒した男だ!貴様らごときにこの船は渡さん!」
船長の猛射撃は続く。れみが立ち上がり、船長に向かおうとするが、船長は瞬時にターゲットを変えてくる。
このままでは防戦一方だ…。
…だが、葵が動いた。
葵はれみに気を取られてる船長の背後に近づき、恐れず彼の背中を蹴りつけた!
船長はさすがにバランスを崩しかけるが、やはり海の男。直ぐ様立て直し、振り返り際に射撃を仕掛けるカウンター攻撃!
葵は屈みつつ足払いを決めようとするが、船長は本当に優れた実力の持ち主だ。
カウンター攻撃へのカウンター攻撃でさえも予測し、飛翔して回避、やはり射撃を仕掛ける。
そろそろ決着をつけるべきだ。そう考えた葵は両方のポケットからハンドガンを取りだし、2丁拳銃の構えをとる。
二つの銃口から放たれる弾丸は、ガトリングの弾丸と命中しあい、砕けていく。
それを見た船長は心から嘲笑う。
「残念だったな!弾の強度ならこちらの方が上…」
確かに強度は葵の負けだ。だが、弾を砕けなかった事に対し、葵は笑ってみせた。
葵は向かってくるガトリング弾を蹴りつける!
蹴りつけられた鉄の鉛は船長目掛けて飛んでいき、右肩を撃ち抜く!
ハンドガンの弾をぶつけた事で、ガトリング弾の勢いを緩め、そこへ蹴りを決めてまたもやカウンターを決めたのだ。
船長は驚きのあまり声も出ず、ガトリングのついた右腕から力が抜ける。
これで、彼の最大の武器は機能しなくなった。
弾丸を蹴りつけた葵の右足も無事ではなく、所々煙が出ているが、アンドロイドだからこそできた戦法と言えるだろう。
「れみ、ハウンディ、とどめよ!」
それを聞いたれみとハウンディは即座に飛び出し、船長の体の左右をすり抜け、両腕を掴み、縛り付ける!
そのまま背中に膝蹴りを叩き込み、船長は勢いよく倒れてしまう。
完全に相手のペースだと理解した船長は左手を上げて叫んだ。
「分かった!!降参だー!!」
敗北した船長は潔く奪った物を返してくれた。一件落着というやつだ。
去っていく海賊船を海上で見守る四人。
葵とれみはいつも通り一件を解決させた達成感に溢れる笑顔だが、ジャリュウはまたもや不思議そうな顔をしていた。
葵はあの状況で、れみとハウンディという素早く動ける二人を選び抜き、船長へ総攻撃を仕掛けさせたのだ。
(あの目まぐるしく動く状況のなかで、あの状況を最も打破できるであろう二人を選び抜いたのか…?)
ジャリュウは、外の戦士達にますます興味が湧いてくるのを感じていた。




