三人組手
「にしても、やっぱ長い付き合いってすげえな。闇姫のやつ」
捕食者の島から離れた小島に辿り着いたれな、葵、ラオン。
ラオンはれなの戦闘力が確実に向上してる事に気がついた闇姫に感心していた。
れなと闇姫は遥か昔から拳と暴言で渡り合ってきた、真っ黒で、そして鋼鉄よりも硬い関係だ。二人の間には、浅からぬ因縁が渦巻いているのだ。
この小島にはこれと言った村や集落もなければ生物もいない。…見渡すと、草一本生えてない完全な荒れ地。
「隠してたけど、私は確かに強くなってるんだ。もし組手なんかしたら二人とも殺しちゃうよ」
ストレートに発するれな。…れなの言う事は大袈裟な事も多いが、たまに本当の事もある。
それ故に不安な葵と、それ故に期待が増すラオン。性格の違いだった。
…まあこの小島にやってきた理由はただ一つ。互いの実力を再確認する為、武器なしの組手を行うのだ。
三人はそれぞれ離れあい、潮風を浴びた。
れなの黄色のツインテール、ラオンの紫のロングヘアー、葵の緑のサイドテールが、潮の香りと共に揺れていた。
…そして、三人は同時に飛び出し、それぞれ先制攻撃を仕掛けるべく拳を突き出した!
丁度島の中心で三人の拳が炸裂し、突風が吹き出した!
…激しい風の流れは、捕食者の島まで伝わっていた。
海岸の岩に座り、茶色い長髪を風に揺らしながらハウンディが海の向こうを見つめており、その隅ではジャリュウが彼を見つめてる。
「大気の流れがおかしい。やつらが暴れてる…」
「流石ハウンディ。森の狩人、狼の勘ってやつか?」
ジャリュウがハウンディの肩をとる。ハウンディはその冷たい目を海の向こうへ向け続けた。
…れなの拳がラオンの顔面に炸裂し、ラオンは蹴りをれなの足にお見舞いする。二人が動く度、地面がヒビ割れていく。
「ちょラオン!足は痛えわ!!」
「うるせえ!だったら顔面狙うのはどうなんだよ!!」
それはアリだとばかりにもう一度ラオンの右頬を殴ろうとするれな。
「よそ見してたら危ないわよ?」
揉めあう二人の隙を突き、葵が走ってくる!
葵が繰り出すのは手刀だ。二人は互いに空中飛行に移って離れあい、何とかそれを回避する。
空中を縦横無尽に飛び交う三人。飛行の僅かな隙を見つけたれなが、葵に蹴りを食らわした!
勢いよく地面に叩きつけられる葵。むくりと起き上がりながら、葵は悟った。
「…れな、加減してるわね」
あれほどの速度で動きながら、加減する程の技術を得ているようだ。
ラオンは再びれなに向かっていき、蹴りを放つがれなはそれを真正面から受け止めた。
ラオンはそこから体全体を回転させる事でれなの拘束から抜け出そうとするが…。
「…!何て力だ!」
れなの腕はラオンの足を掴んだまま、びくともしない。むしろ逆にれなが回転する事でラオンを惑わした。
ラオンを掴んだまま回転し続け、ある程度回ると彼女を離し、地上へ叩きつけた!
その衝撃で、地面には巨大な穴が空けられた。
強風と共に飛び交う泥や土砂に顔を覆うれなと葵。
土砂は風にのって捕食者の島まで飛んできていた。
飛んでくる土砂を払いながら、ハウンディが静かに呟く。
「やるぞ…。あいつら」
「少なくともここまでの実力者は捕食者の島にはいねえな」
両手を頭の後ろで繋ぎながら、ジャリュウは呑気な様子。
やはり二人は危機感は持っていなかった。
ハウンディが立ち上がり、二人だけの作戦会議を始める。
「真っ先に何とかしておきたい不安要素はあの悪魔どもだ…。やつらは俺達捕食者を全滅させる気でいる」
「流石だよな。俺達より強いやつらはそこら中にいるのに、捕食者の恐ろしさを真っ先に見抜いて潰しにかかるとは」
ジャリュウは無表情になるが、その目は強い闘気が灯っていた…。
その時、二人の耳にある声が飛び込む。
「ジャリュウ、ハウンディ。命令だ」
「…!はっ、悪喰様」
直ぐ様その場で膝をつくジャリュウとハウンディ。
…彼等の背後に潜む影、悪喰の声だ。
悪喰の声はとても低く、どす黒いという言葉が似合う厳格なものだった。
「ここから北に機械でできた島がある。人間どもが作り上げた巨大な研究施設だ。そこには下級の悪魔が一人、実験台にされている。そいつを捕らえ、捕虜にしろ」
「なるほど。人質って訳ですね!」
ジャリュウがニヤリと笑い、鋭い牙を見せた。
…その目は、笑っていなかった。
「失敗すれば、ワシはこの島の捕食者を三人食う。お前達の餌が三人減る訳だ」
「…って事は、成功すれば三人食えるって訳ですね!」
ジャリュウの言葉に、悪喰は何も言わなかった。
悪喰からのテレパシーは、そこで途絶えた。
…ジャリュウの表情が、無表情に戻る。
「…島の外へ出る絶好の機会だぞハウンディ…!」
「あまり寄り道はするなよ。悪喰に勘づかれると面倒だ」
ジャリュウの目は、僅かに煌めいていた。
気づくと、土砂はもう飛んでこない。
あちらも、戦いは終わったようだった。




