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マウトの陰謀

「悪喰が死に、我々は自由の身となった訳だが…下手に外に出るのは危険だ。そこで我々は今後の為、まずは争わない事から始めようと思う。他の国と同じ人並みの国を設立する。いわゆる福祉を築くのだ」

島の捕食者を海岸の広場に集め、ダイルは新たな方針を発表した。

それに対する捕食者の反応は様々だ。素直に頷く者もいれば、顔をしかめる者もいる。

一つ確かなのは、はっきりと自分の考えを出す者はいないという事。こんな行事とは無縁だった捕食者たちは、何が正しいのか分からないのだ。

岩の上にのっている四人の捕食者。うちタイガは、ハウンディに耳打ちした。

「こんな事して、意味あるの…?また誰かしら殺しあうんじゃ」

「その時はその時だ。まずはこいつらに目上の言う事を聞けるだけの脳があるか確かめる」

今島の中の地位は、この最強の四人の捕食者にある。

強さのままに一方的に決められた地位、これから目指す殺しあいとは無縁の国には不似合いな地位だが、下手に権力者を入れ換えては皆を惑わしてしまうだろうと、あえて今まで通りの地位を固めておいたのだ。

四人は変わらず、最強の捕食者という訳だ。



まあ、そもそも多数決も投票も知らないような連中だし…。



「まずは互いに殺しあわない事。もう悪喰に強要される事はない。だからこそ、これから正しい道を歩んでいこう!」

言い終えたダイルは、島の外では常識となっている礼儀の表し、お辞儀をしてみせた。

これまでは悪喰に頭を下げさせられていたので、独裁者への忠誠の際に使われる動きと思っていたが…なるほど、こうして使う時もあるというのか。

捕食者たちは、一気に騒がしくなっていた。

「…解散!」



…去り行く捕食者達を眺めながら、タイガはすぐ横のダイルに聞いた。

「私たちはどうする?」

「今この島の支配者は俺達だ。しばらく島に留まるぞ、ジャリュウ」

…外に出たくて仕方ないジャリュウは、あからさまに不愉快そうな顔をした。

ため息をつくダイル。まだまだ先は長そうだった。


そんななか、タイガが周囲を見渡し、何かに気づいたようだ。

「そういえばあいついないわね。クソネズミ」

「マウトの事か?やつは小心者だ。まだ戦いが続いてると思ってどっかに隠れてるんじゃないのか」

ダイルのその言い方こそ呑気だが、放ってはおけない。ダイルは島のなかからマウトを探す事にした。



当のマウトは…ここから離れた荒れ果てた島にて、闇姫軍の一員として爪を振るっていた。

目の前から次々に向かってくる槍を持つ人間兵士達。

マウトの爪はすれ違いざまに確実に傷をつけていく。

マウトが通りすぎた後には、倒れた人間達で埋め尽くされている。


周囲には闇姫軍の兵士達。紫の鎧を着た悪魔や、ドクロマークから丸い手足を生やした小さなモンスター兵が槍や剣を振るう。

更に離れた場所では銃を持つ兵士達が互いに銃弾を撃ち合っている。まさに戦場だ。

様々な音が飛び交うなか、マウトはある方向を見た。


巨大な大砲が、荒れた土の上に設置されている。その周りには、マウト配下のザリガニのような殻を纏う捕食者達が、大砲へ攻撃を仕掛けようと鋏の手を開閉しまくっていた。

しかし彼らの予備動作中に、大砲は砲弾を吐き出した。

派手な爆発と共に吹っ飛ぶ捕食者達。


「ひゃほう、やってやったぜ!」

舞い上がる煙を見上げながら、大砲の操縦士は軽く跳び跳ねた。

煙の中には確かに全身が真っ赤な火傷にまみれた捕食者達が横たわっている。これでこの辺の相手は殲滅した…かに見えた。


「!!」

一瞬のうちに、操縦士の首がはね飛ばされた。

倒れる彼の背後には、両手から爪を射出したマウトが。赤く血濡れた自身の爪を見ながら、マウトは辺りを見渡した。


遠くの岩場に、灰色の肌を持ち、鎖を全身に巻き付けた闇姫軍の巨人に、四メートル程もある巨体に、首周りに襟飾りを備え、両目は荒れ狂う本能に支配されたような不気味な輝きを放つライオンの捕食者が暴れまわっている。

両者に近づける人間兵士はいない。近づいても暴れ際に放たれる衝撃波や瓦礫で次々に吹き飛ばされる。

「あのライオン捕食者、ガウラ…ただの馬鹿かと思ってたが、意外と使える…な!」

二体の巨躯が荒れ狂うなか、マウトは遠くから近づいてくる兵士達に爪を向け、飛びかかる。

次々に切られていく兵士達。

千切れた手や足が宙を舞う。

「俺は鼠と猫の俊敏さをかね揃えた捕食者!並みの攻撃は掠りもしない!」

自信満々だ。血を吹き出して倒れる兵士のなか、マウトは爪を構えて軽くポーズをとる。

「ん?」

マウトがふと横を見ると…ガウラが、恐ろしい形相でマウトの頭上をすり抜けた。

両耳を抑えて伏せるマウト。味方とはいえ、ガウラの顔はあまりに恐ろしいのだ。

ガウラは人間兵士を踏み潰しながら四足歩行で駆け抜けていき、遥か遠くにある敵軍の砦に到着。

砦からはライフルによる 狙撃が飛んでくるが、ガウラの体には全く通じない。

岩の砦に平手打ちを食らわすガウラ。砦の下部は一瞬で崩れ、上にいた兵士達も巻き添えだ。

落下により、ライフルが誤作動を起こし、弾丸が飛んでくるが、やはりそれも通じなかった。

「よくやったガウラ…だが周りをよく見ろ!!」

降り注ぐ瓦礫のなか、マウトはガウラの足をしばいてみせた。


「さて闇姫様!やつらはもうこれまでかと!」

胸を張るマウト。

戦場の一部の岩の上で、闇姫は冷たい視線で兵士達を見下ろしていた。

煙と炎が立ち上る荒れた大地。人間兵士も闇姫軍の悪魔兵士も関係なく、そこら中に横たわっており、あちこちに血の池が広がっている。

数人のエリート悪魔兵士と捕食者達、巨人、ガウラが残りの人間兵士を潰しにかかっている。砦も失った人間達にできることは、せいぜい距離を離し、突けるはずのない隙を探し回る事くらいだ。


「どうでしょうか闇姫様。我ら捕食者の圧倒的な戦力は!」

「せいぜいライフル弾十発程の節約にはなった」


マウトは耳を疑った。


「じゅ、十発!?二万発の間違いじゃなくて!?」

「いいや、十発だ。正確には八発ちょいくらいだ」

闇姫は倒れ る悪魔兵士の一人を指差した。

体に瓦礫が刺さっている。これは…先程ガウラが崩した砦の瓦礫。

素人目でも分かるくらいに、心臓に突き刺さっている。即死だろう。

他にも何人もの悪魔兵士が死に絶えてる…。

「本来この戦いには陣形を組みながら戦う方針があったはずだ。だがマウト。お前らはどうだ。島の時と同じようにそこら中をアホみたいに走り回り、陣形は見事に乱れていた。我が軍の兵士はお前らのペースにあわせられず、隙を晒した」

マウトは冷や汗を流す。

確かに、兵士達は無闇に敵に突っ込まずに奇妙に整列していた。

「…で、ですが、私は体感だけでも二十人以上は仕留めました!撃退数でプラマイゼロ…」

マウトが言いかけた時、闇姫はすぐ近くにいた一人の兵士に声をかけた。

ダイヤモンドに黄色い角と鋭い目がついた生物、闇姫軍四天王最強の男であり、闇姫軍トップクラスの兵士、ダイガルだ。

「ダイガル、こいつは何人倒した」

「はい。十二人です。ま、よくやった方では?」

ダイガルは、ニヤリと笑ってみせた。マウトは拳を握り、ワナワナと震えている。

「そういうところだマウト。ここは戦場だ。お前は体感だけで敵兵の残数を把握できるか?体感ではなく、確実な情報で動け」

闇姫はそれだけ言い残すと、背を向けて周囲の兵士を引き連れて去っていった。

…ダイガルは、大人げなくアカンベーをしながらマウトの前から去っていく。



「…マウト様?」

「見てろ…チビ女が」

…生き残りのザリガニ捕食者が、マウトの鬼の形相を見て青ざめていた。


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