マウト 闇姫軍へ
「失敗ですかお姉様」
「うるせえ」
闇姫の城の庭園にて。
闇姫が翼を物干し竿の洗濯鋏で挟み込んでぶら下がっている。背が低いのでぶら下がりやすそうだが…目の前にいる影姫は白い目で彼女を見つめていた。
これは闇姫流の羽休めだ。
翼を休めているのだ。本人は至って真面目だ。
「あのタイミングでれなが来るのは予想外だった。なぜあのタイミングで私の前に現れて便所のクソみてえな面下げて邪魔しやがるんだ」
「おや、今に始まった話ではないかと思われますが」
黙りこむ闇姫と見つめあう影姫。何とも言えない固い空気が流れるなか、二人のもとへ兵士がやってくる。
ドクロマークから手足を生やしたような小さな兵士、ドクロ兵士だ。
「闇姫様!ぶら下がり中失礼致します!身元不明の訪問者が現れました!」
闇姫は物干し竿から離れ、兵士の方へ向かう。興味を引かれた影姫も、それについていった。
城の入り口扉にて、そいつは立っていた。
鼠耳が生えた灰色の髪、両手からは鋭い爪が生えたとても目付きの悪い男…捕食者マウト。見るからに悪人、といった感じだ。
城の大広間の階段から降りてくる闇姫。
兵士達に槍を向けられながら、マウトはその容姿に似合わぬ控えめかつ品のあるお辞儀をしてみせた。
闇姫の足が止まる。
「殺し合いしか能がないカビ脳どもだけかと思ったが、ちょっとは毛が生えたやつもいるようだな」
「そうですとも!私はマウト。頭の切れる捕食者ですよ。最強の捕食者四人ほどではありませんが、実力もそれなりにあるつもりです」
闇姫に歩み寄るマウト。兵士が更に槍を近づけるが、まるで彼らがいないかのような態度だ。
「私は捕食者の栄光を目指しております。そこで闇姫様のお力をお借りしたいのであります」
「野蛮なやつらの力など借りん。それに私の最大の敵は、お前達で勝てるような相手ではない」
マウトは膝をつき、頭を下げる。
「信用に値しない事は自覚しております。しかし我々の闇姫様への忠誠は本物でございます。まずは今後の戦いに我らをお使いください。捕食者の可能性は無限大。ものは試し…と言うではないですか」
闇姫は黙りこみ、マウトの下ろした頭を見つめていた。
そして、一瞬ため息をつくと、マウトの耳を掴んで無理矢理頭をあげさせた。
「裏切れば、この耳を千切る。その後に首を切る。いいな」
「め、滅相もございません。裏切りなどと!」
闇姫は、ゆっくりと下がり、そのまま去っていく。ざわめく兵士達と、闇姫の背中を見つめ、僅かに震え上がるマウト。
(…こ、怖かったああ…)
よく見ると、マウトは目まで震え上がっていた。
しかしこれで一応闇姫軍に狙われる心配はなくなったわけだ。
…あとは、本心を悟られないよう彼女の言いなりになれば良いだけだ。
(まずはあの四人を何とかする事だな…捕食者の事は俺が一番よく知っている…確実に勝てる!あの四人も戦力に加えたいところだが、下手に引き入れれば裏切りを悟られるかもしれないな…)
頭の中であれこれ悪巧みを巡らせるマウト。かつての主、悪喰の事も腹の底で笑っていたマウトの辞書には、忠誠心などという言葉はどこにもない。
とにかく、今は行動を起こすべきだ。闇姫の信頼を得られる行動を。
「闇姫様、やつを信じてるのですか?」
「とても信じられん。あの島の主、悪喰が死んだ情報は軍のドローンで獲得済み。つまりこれは誰かからの命令ではなく、マウトの独断だ。どうせ闇姫軍の軍力で世界征服でも狙ってるんだろう」
赤いカーペットがあちこちに敷かれた広い廊下を歩く闇姫と影姫。
しかし、侵入者はあえて踊らせるのが闇姫の遊戯。踊らせた末に突き落とすのだ。
「それよりあの四人だ。下手に飛び出すのは無謀だと判断した。慎重に攻めるぞ」




