裏で目論む者
悪喰との戦いを終えた四人の捕食者は、あれからも捕食者の島で生活していた。
ただし、以前のような血濡れた暮らしではない。海の魚をとったり島に実る木の実を食べて暮らし、捕食者同士は互いにいがみ合っていた以前とは裏腹に、協力しあって生活していた。
「という事で、島の外で遊んでも良いんだよな?」
森の中、真っ先にそう言い出したのはジャリュウだ。ハウンディも遊びたい気持ちが山々なのは分かるが、この島には支配者がいない。何をするにも、新たな掟が必要だ。
しかし掟など考えた事もない。二人はしばらく頭を悩ませていたが、殺し合いばかりだった頭に平和的な考えなど浮かばない…。
…という事で、二人はテクニカルシティの事務所を訪ね、葵と粉砕男に案を出してもらっていた。
ソファーに座り、紅茶入りのカップを手にする二人。
あの戦いが終わっても、ジャリュウの目は何を考えてるのか分からず、ハウンディに至っては表情筋が通ってるのかすら怪しい無表情。
まだ緊張感は拭えていなかった。
「とりあえず平和を基準とした方が良いわ。これから色んな所と関わるだろうし、面倒事になりたくないならそれが一番よ」
「それに島の人口はかなり減ってしまってるんだろう。単純な法律から初めても、大きなトラブルが起きることは少ないはずだ」
葵と粉砕男の話を真面目に聞く二人の姿は何やら意外だった。
…まあ、最終的には単純な考えに至ったのだが。
「よし!ならこうしよう!島の外へ出るのは一日一回一時間、戦いは島の中だけで、殺しはしない!これでどうだ!」
立ち上がるジャリュウに頷くハウンディ。生き生きした姿に、葵は嬉しそうだ。
ジャリュウは紅茶を豪快に飲み干すと、葵と粉砕男の手をとってお礼を言う。
「ありがとう、これでまた新たな暮らしをしていけそうだよ」
それだけ言い残すと、ハウンディを置いてすぐに出ていってしまった。
ポカンと口を開ける葵と粉砕男。そんな二人に、ハウンディは言った。
「…やつは誰よりも島の外で暮らしたいんだ。だがあの通り、外へ出るのは一日一回、一時間という縛りを出した。…馬鹿に見えて、俺達以上に平等を望む良いやつなんだ」
いつも緘黙なハウンディが自分から語るとは。
…以前葵達とは対立していた自分達。せめて親友のジャリュウだけでも、敵の頃のイメージを拭ってやりたいのだろう。
勿論葵と粉砕男は、もう彼らを敵とは思っていない。絶対的な力の主が作る島のルールに従っていただけで、本当は平和を望んでいたのだろう。
…しかし、島にはそんな平和な連中ばかりではないようだった。
「悪喰が死んだ今、次の島の支配者はあの四人になるだろう。折角悪喰の邪魔者が消えて俺の天下となろうところでやつらだ!やつらと悪喰を除けば、俺が最強だと言うのに…」
捕食者の島の洞窟の奥。
灰色の髪から鼠の耳を生やし、両手から鋭い爪を生やした小男が、沢山の捕食者を岩の上から見下ろしながら、何かを企んでるようだった。
暗く、狭い洞窟に落ち着きのない捕食者のざわめき声がこだましている。
「お前ら!この島の支配者は誰だ!?」
鼠耳の捕食者が声をあげると、ほとんどの捕食者がそれに答える。
「勿論マウト様であります!!」
マウトと呼ばれた鼠耳の捕食者はさも満足そうに腕を組んだ。
「…ん?」
しかし、マウトはある事に気づく。
「今返事しなかったゴミはどいつだ?」
どよめく捕食者達。
一人一人あちこちを向き回る彼らを、マウトは一人一人睨み付けた。
「…!お前かー!!」
マウトは飛び跳ね、一人の捕食者へ急行下!
「死にやがれえええ!!」
…直後、洞窟には水飛沫のような音が響き、天井や壁、そして周囲の捕食者が血塗られた。
…地面に、虎の耳を頭から生やした男の捕食者の首が、何かが潰れるような音を鳴らして落ちてきた。蜘蛛の足を背中から生やした女捕食者が悲鳴を上げる。
彼女の悲鳴を引き金に、捕食者達は次々に逃げていくが、マウトが一言で彼らの足を止めた。
「お前らもこいつのようになりたいのか?」
恐る恐る振り替える捕食者達。
…マウトの爪の先には、つい先程地面に落ちていた虎捕食者の首が刺さっていた。その目は、もう既に生気はなかった。
…慌てふためく捕食者の群れの中から、床に落ちた生首を今の数秒で拾い上げたというのか。
捕食者達は一斉に土下座した。マウトは、実に気分が良さそうだ。
「これから俺がこの島を支配する。その為にはまず、あの四人を始末する事が最優先だ。四人を始末した暁には、この島の存在を世界に知らしめ、最強の捕食者帝国を築く!反逆者は皆殺す!ただそれだけだ!」
周りの捕食者が上げる歓声は、僅かに、しかし明らかな恐怖の声が混じっていた。
「その為に…俺はまず、より強い力を味方に引き入れる!この島を襲撃してきた、あの闇姫のもとへ…!」
…マウトの野望は、大きいようだった。




