悪喰の捕食
捕食者の島の地下にて。
悪喰は、ジャリュウの魔力が止まったのを察知して深いため息をついていた。
実際はジャリュウが負けたのではなく、戦いが終わったので魔力が弱まっただけなのだが、悪喰には関係ない。
…どちらにせよ、今目の前にいる三人を食うつもりなのだから。
目の前には膝をつくハウンディ、タイガ、ダイル。
ハウンディ以外の二人は冷や汗を流しつつも、ジャリュウの帰りを待ち続けていた。
…悪喰が失敗と判断すればもうそこまでだ。三人が何を言おうが関係ない。
「失敗、か。では約束通り…処刑するとしよう」
一片の慈悲もない…いや、捕食者の王に慈悲などそもそも存在ないのだ。
暗闇から赤い触手が飛び出し、三人へ向かう…。
「…もはやこれまでか」
ついにダイルが呟いた。タイガは目に涙を浮かべながら、ただただ石の地面を見つめてる。
…ハウンディは目を瞑り、一片たりとも焦りの感情を持っていなかった。
…暗闇の隅に、とても小さな岩の檻がある。
その中では、紫色の鱗を持つ悪魔…この島に囚われた捕虜悪魔が、三人を見つめていた。
人型悪魔の彼は、困惑の感情をはっきりと顔に表していた。
(こ、こいつらが負けた…のか?闇姫様が…ここへ助けに来るのか…?)
…残念ながらその闇姫は、やむを得ず撤退している最中だ。
…しかし、一つの殺意が、光のような速さで飛んでくるのを、ハウンディが察知していた。
直後、悪喰の触手が血を撒き散らしながら引き千切れる!
何事かと、悪喰の目が大きく動いた。
…暗闇に包まれた洞窟の天井付近に、両手を蛇に変化させたジャリュウが飛行していた。
タイガとダイルは笑みを浮かべ、ハウンディはやはり変わらない…が、目の方ははっきりとジャリュウを見つめていた。
そして、ジャリュウは叫んだ。
れな、闇姫の戦う姿を頭に浮かべながら。
「俺達は…一人の戦士として島を出たい!」
「何のまねだ?島の外へのの憧れとやらか。お前ら捕食者はこの島で生まれ、毎日命を奪い合う。外への憧れは、生まれながらの宿命に背く事に繋がるのだぞ」
勇気を振り絞って放った台詞を、あっさりと押し返されるジャリュウ。
ひどく腹が立った。
大体悪喰は、こいつは何なのだ。何故自分達を縛り付けるのか。
捕食者同士で殺し合って何があるというのか?
…気づけばジャリュウは、悪喰目掛けて飛び込んでいた。
悪喰は三本の触手をジャリュウに叩きつけ、押し退けた。
真っ先に目が動いたのがダイルだ。
(悪喰に牙を向くか…!)
ジャリュウは空中でバク転して体勢を変える。
…悪喰は、地底世界の暗闇を壁のように張っている。本当に赤い目だけしかないのかと疑ってしまう程、目以外の部分が全く見えない。
とにかく今はこいつに攻撃が当たるかどうかだ。
ジャリュウは右手を蛇に変え、悪喰に伸ばして食いつこうとする。
触手が飛んでくるが、蛇の腕はとにかく機転が利く。
うねりながら触手をかわしていき、今度はあっさりと悪喰の目に食いついた!
悪喰の目が血を吹き、一瞬閉じかけたのを確認したジャリュウ。
「痛みは感じるようだな!」
「おのれ、本気でワシに勝つつもりか!?」
悪喰の怒号が地底に響き、更に複雑な触手攻撃を仕掛けてくる!
ジャリュウは空中を飛び回り、何とか錯乱させようとするが、悪喰は捕食者の王。獲物を一瞬たりとも視界から逃がさない。
悪喰の触手はますます複雑になり、ジャリュウが逆に錯乱してしまい、ついに全身を完全に縛り上げられてしまった。
「ぐ!!」
「飛行して錯乱など、ハエのする事だ」
暗闇のなか、不気味な口がうっすらと現れる。
おびただしい量の牙が並び、三本の舌を出した巨大な口だ。
「実に残念だ…お前のような実力者をこのような形で失う事になるとは」
悪喰の口のなかに、ジャリュウが引き込まれる。
…完全に口の中に収まったかと思うと、一瞬にして口は閉じられる。
沢山の牙が生えた狭い部屋が、ジャリュウを上下から串刺しにした。
…ダイルとタイガは、完全に言葉を失った。
悪喰の口は、赤い血を流しながらゆっくり消えていった…。




