捕食者への非情な司令
粉砕男が目を覚ますと、いつもの事務所の天井が目の前に広がっていた。
「ふんさいおとっこ!!」
間抜けな声と共に天井が誰かの顔で覆い隠される。
れなだった。緑の瞳は電灯のような輝きだ。
横を見ると、そこには涙目のドクロ。
更に奥には、窓をバックにこちらを見つめる葵とテリー。葵が、粉砕男に事情を説明する。
「二人から聞いたわ。闇姫にやられたんだってね。あなた達の誠意に応えたのか、あれから闇姫は大人しく去っていって、捕食者達は無事みたいよ」
「そうか。それは良かっ…」
粉砕男が軽く体を起こすと、激痛が胸元を襲う。
痛みに強い粉砕男でも、流石に呻いた。それを見てドクロが泣き出す。
「動かないでえええええ。あばらが四本折れてるんだからああああ」
粉砕男の手足には包帯が巻かれてる。
そんな彼に、葵がこんな事を言ってきた。
「ドクロちゃん達と一緒に、あの捕食者達もあなたをここまで運ぶのを手伝ってくれたのよ」
「…あの四人がか?」
場面は変わり、捕食者の島の地底にて。
真っ暗闇のなか、赤く輝く巨大な目…捕食者の王、悪喰が、四人の捕食者に膝をつかせて制裁を下していた。
暗闇の中から飛んでくるタコのような赤い触手が、ダイルの鰐のアーマーを貫いて彼の体を突き刺す。
「…ワシを除けばお前らが最強の捕食者だ。悪魔一人退けられなくてどうする?弱者は強者に食われるしか存在価値はない。ワシが何より教えてきた事だ」
ダイルを突き刺す触手に更に力がこもり、彼の顔をより歪ませる。タイガは虎耳を前に垂らしながら虚ろな目、ジャリュウは悔しそうに震え、…ハウンディは変わらなかった。
「クソが…。闇姫の顔を直接見た訳でもないくせによ…」
「何だジャリュウ。文句でもあるというのか?」
ジャリュウの無機質な目に、焦りが宿る。
悪喰の怒りは静かに爆発、ダイルに刺していた触手を引き抜き、ジャリュウの目の前に突き出す!
「島の外へ出る許可をする…。貴様一人で闇姫を殺してこい。ただし、遊び歩きでもしたら、貴様の体は無数に散ると思え」
ジャリュウが島の外へ憧れを抱いてる事を感付いてるような言い方だ。
ジャリュウは牙を食い縛りながら、立ち上がった。
「失敗でもすれば、この三人はワシが喰らう。…捕食者は殺しあう運命だというのに、貴様ら四人はどうも仲が良いようだしな…」
悪喰の声は、どこか嘲笑ってるようにも聞こえた。
「…ジャリュウ。俺もいくぞ!」
「やめろダイル。悪喰様は俺一人で行けとおっしゃった」
「何でアタシら四人で立ち向かって勝てなかった相手をジャリュウ一人で!?あいつ…何か企んでる!」
ダイル、ジャリュウ、タイガの順で、声が森の中に響き渡る。ハウンディは木に寄りかかりながら、三人をただ見つめていた。
…こんな時頭が切れるのはダイルだ。
「恐らくだが、悪喰は結局俺達四人も喰う事が目的かもしれん。そもそもあの卑劣漢が、生き残った捕食者にのみ島の外で暮らす事を許すなどという掟を作るとも思えん。…己の考え以外尊重しない、究極のエゴイスト…内面も最強の捕食者だからな」
三人が黙る。三人が今まさに言いたい事を、ダイルが代弁してくれたのだ。
しかしやつはこの島では絶対の存在。やつの支配からは逃れられない。
タイガが、胸元の毛皮から赤の宝石、青の宝石を取り出し、ジャリュウの前に駆け寄る。
「…そ、その」
顔を赤らめるタイガ。
「…何だ。お守りでもくれるってのか」
「ち、違う!あ、あんたが寄り道しないようにこれに念を込めたのよ!」
ジャリュウは軽く笑いながら、その宝石を受けとる。
そして、タイガの頭を軽く撫でてやった。
「大丈夫だ。俺は死なない」
ダイル、ハウンディの方を向き、大きく頷くジャリュウ。
ダイルは苦悩に満ちた顔だ。
「おいダイル。俺を信じられないのか?」
「闇姫は恐らく悪喰様より強いぞ…」
迷わず発するダイル。…言わずとも、悪喰より闇姫の方が強い事はもう目に見えてるのだ。
「強い相手ほど食い甲斐があるってもんだろ。俺の親友も、そう言おうとしてるぜ」
…ハウンディを見るダイル、タイガ。
ハウンディは無表情だが、その目はまっすぐジャリュウを見つめてる。
そして、一言だけ呟く。
「気をつけて行ってこい」
「おうよ」
ジャリュウの足は、勢いよく地上から離れて空へ飛んでいった。
…三人には見せていなかったが、ジャリュウの表情は重かった。
「…」
闇姫を探しに行く途中、とある島を通過し、地上を見下ろす。
沢山の人々が集う町だ。
楽しそうな人、忙しそうな人、苛立っている人…多くの感情が、狭い島の上で渦巻いている。
「…」
ジャリュウは、微かに笑った。
空の上をしばらく飛んでいき、何の手掛かりもないまま、闇姫を探し回る。
…しかし、戦いの時は意外にも早く訪れた。
「私を探しているのか」
ジャリュウが、空中で止まる。
…彼の目の前に、闇姫が降りてきた。




